【完結済】どうして無能な私を愛してくれるの?~双子の妹に全て劣り、婚約者を奪われた男爵令嬢は、侯爵子息様に溺愛される~

ゆうき

文字の大きさ
23 / 53

第二十三話 父親の不器用な愛情

しおりを挟む
「苦しい……お腹がはち切れそう……」

 客間へと案内された私は、使用人に手伝ってもらいながら着替えた後、重くなったお腹をさすりながら椅子に座った。

 なんだか、最近食べ過ぎで苦しくなることが増えてる気がする。ほんの少し前は、まともな食事すらしてなかった私がこんなふうになるなんて、想像もしてなかったわ。

「アメリア、今日はこの部屋を自由に使っていいよ。それと、なにかあったら枕元のベルを鳴らしてくれ。そうすれば、使用人がこの部屋に来るから」
「わかりました。それで、その……本当に今日はよかったのでしょうか?」
「うん。父上と母上にちゃんと了承してもらってるから、気にしないで大丈夫。それじゃあ、俺は部屋に戻るよ」

 え、もう帰ってしまうの? レオ様のことだから、てっきり寝る間際まで私と一緒にいると思い込んでたから、少し意外だ。

「おや、随分と寂しそうな顔をしているね」
「し、してません」
「俺も本当はずっと一緒にいたいけど、明日も平日だから、そろそろ休まないと。それに、アメリアがうちに来るのは今日限りってわけじゃないしね。それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」

 レオ様は小さく手を振りながら、客間を後にした。

 ……ん? さっきのレオ様は、私がまたここに来る前提で話していたような? お呼ばれしたらまたお邪魔するかもしれないけど、何度もお邪魔したら絶対に迷惑だと思うのだけど……。

「……とりあえず少し勉強をしてから、休もうかしら……あら?」

 椅子から立ち上がったとほぼ同時に、部屋の扉がノックされた。もしかして、レオ様が戻ってきた?

「はーいって……え?」
「失礼する」

 部屋にやって来たのは、まさかのローガン様だった。先程と全く変わらず、無表情で部屋の中に入ってきた。

 い、一体何の用だろう。もしかして、知らないうちに何か失礼なことをしてしまっていたとか?

「座りたまえ」
「はい」

 ローガン様に促されて、再び椅子に座ると、ローガン様も同じように椅子に座った。

「…………」
「…………」

 ――沈黙がつらい。私、何を言われるのだろうか? 何か言われる前に、私から話を振った方が良いのだろうか? うぅ、何が正解なのか全くわからない……。

「アメリアといったな」
「は、はい」
「レオとはどういう関係なのだ?」
「どういうと仰られても……」
「レオからは、とても親しい女性だと聞いている。やはりそういう関係なのか?」
「いえ。先程レイカ様にもお伝えしましたが、私とレオ様は級友です」

 ローガン様がどういう回答を期待してるのかわからない以上、正直に答えるしかなかった。これでもし怒られたとしても、仕方ないと割り切るしかない。

「そうか」

 あれ……怒らなかった。それどころか、何となく安心したような雰囲気に見えるのは、私の気のせいだろうか。

「新しい環境で、周りに馴染めるか心配をしていたが……君のような級友がいて安心した」
「ローガン様は、レオ様が心配で私に直接聞きに?」
「それもある。だが、息子が選んだ友がどのような人間か、二人きりで話してみたかったのもある」

 さっきレオ様が、ローガン様はいつも家にいないと仰っていた。それくらい忙しい方なのに、わざわざレオ様のために私に会いに来たなんて……やっぱりこの方も、レオ様のことを心配し、愛しているのね。

「そうだ、まだ感謝のお言葉をお伝えしてませんでした」
「感謝?」
「はい。今日は突然のことだったのに招待していただき、ありがとうございました。そして、急にお邪魔して申し訳ございませんでした。それを、言いそびれてしまっていたので」
「なんだ、そんなことか。先程も伝えたが、息子が初めて友人を連れてきたいと言って、歓迎しない親はいないだろう」

 それはあくまでローガン様達が、レオ様を愛しているから出来ることだ。同じ状況がうちで起こったら、体裁を保つためだけに歓迎した後、面倒なことをさせるなと怒鳴るだろう。

「レオは普段学園でどんな感じだ?」
「とても明るくて社交的で、クラスの人気者ですよ。転校初日から、多くの人に囲まれていたのに、嫌な顔一つしてませんでした」
「そうか」
「ご本人から聞いてないんですか?」
「仕事の関係で会える機会があまり無くて、詳しく聞けていなくてな。それに、父である私から根掘り葉掘り聞くのは、気恥ずかしさがある」

 恥ずかしいって……厳格そうな見た目だけど、可愛らしい一面も持ち合わせているのね。レイカ様もそうだったけど、そういうギャップを知ると親しみやすくなる。

「葉巻、良いかね?」
「あ、はい。どうぞ」

 ローガン様は懐から葉巻を取り出すと、指先から小さな炎を出し、葉巻に火をつけた。

 今のは、簡易的な炎魔法ね。簡易的とは言っても、普通ならあるはずの魔法陣も詠唱も無かったから、知らない人から見たら、突然指先から炎が出たように見えるわ。

「君だから話すが……息子は昔、気難しい子だった。そのせいで、友は一人も出来なかった。多少大きくなってから、今のようになったが……今度は突然アドミラル学園に入学したいと言い出し、勉強に明け暮れるようになった」
「そうだったんですね」

 あんなに気さくに話しかけてくれる方が、昔は気難しいだなんて信じられないけど、ローガン様が言うのだからそうなんだろう。

 ……あれ、よくよく考えると、私達ってなんとなく逆の道を辿っているのね。幼い頃の私は明るく元気で、今は大人しくなってるけど、レオ様は気難しい性格から、明るくて元気な性格になっている。

 まったく、変なめぐりあわせもあるものだわ。

「無理にとは言わん。関係を変えろとも言わん。ただ……もし君が良ければ、これからも息子と仲良くしてくれると嬉しい」
「私なんかでよろしいのでしょうか? 自分で言うのもなんですが、私はこれといった取り柄がない、ただ勉強を……特に魔法薬学をたくさん勉強をしてるだけの、落ちこぼれです。そんな私が、侯爵家のご子息様の友人をこれからも続けるのを許してくれるのですか?」
「大切なのは気持ちだ。取り柄など関係ない」

 気持ちか……うん、最初はなんで話しかけてくるのかわからなくて困惑したけど、今はもう友人として、彼と一緒にいたいと思うようになっている。この気持ちが大切ってことよね。

「わかりました。私、これからもレオ様と一緒にいたいので」
「そうか、ありがとう。これからも末永くよろしく頼むよ」
「話は聞きましたわー!!」

 バンッ!! と大きな音と共に、扉が勢いよく開くと、そこには右手をビシッと前に突き出したレイカ様が立っていた。

 来られるのは良いんだけど、登場の仕方が独特すぎて、ついていけないのだけれど??

「レイカ、どうした」
「あなたの姿が見えないから探してましたのよ。そうしたら、ここからあなたの匂いがしましたのよ」
「匂いで探したんですか!?」
「それくらい余裕ですことよ?」

 そんな芸当が出来るのは、犬くらいだと思うんだけれど……あとは嗅覚強化の魔法
とか? 聞いたことはないけど、存在しないという保証はない。

「それで邪魔しないように立ち聞きをしておりましたが、末永くと聞いて、居ても立っても居られなくて!」
「盛大な勘違いです!!」
「えー!?」
「はぁ……すまない。妻は少々変わっている。それに、走りだしたら止まらないタイプでな……悪人ではないのだ。許してやってほしい」
「大丈夫です。彼女もとても優しさに満ち溢れた、素晴らしい方だと思ってますので」
「まあ優しい子っ! うちの子になりますか?」
「……ふひゅう……」

 レイカ様の問いに答えを返したくても、私は今、レイカ様に強く抱きしめられてしまった。これでは息を吸うのも一苦労だわ。

「ぶはっ! そんな、なりませんよ……ご迷惑になってしまいます」
「別に迷惑じゃありせんことよ?」
「さて、少し話もできたし、我々は休むよ。君もあまり夜更かしはしないようにな」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなさ~い。あ、アメリアちゃん。今度は私達だけで話しましょうね」
「わ、わかりました」

 去っていく二人を見送りながら、私は深々と頭を下げた。

 あの方、愛情表現が独特だから、事前に構えてないと心臓に悪そうね……。

「……はぁ……こんな沢山話したのって、いつぶりだろう」

 ここに来る前も話したし、散歩や食事でも沢山話した。そしてここでも話して……話すだけでも体力を使ったのか、眠くなってきた。

 久しぶりに温かくて良い一日で終われるから、たまには良い夢を見たいわね――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

図書室で公爵弟に恋をしました。今だけ好きでいさせてください。

四折 柊
恋愛
 エリーゼは元子爵令嬢だったが今は平民として住み込みで貴族令嬢の家庭教師をしている。ある日雇い主からデザートブッフェ代わりに公爵家のガーデンパーティーに行ってくるようにと招待状を渡され半ば強制的に出席することになる。婚活の場となっている会場で自分には関係ないと、一人でケーキを食べつつ好みの花瓶を眺めていたら後ろから人にぶつかられ花瓶を落とし割ってしまった。公爵様に高そうな花瓶を弁償するお金がないので体(労働)で返すと申し出たら公爵邸の図書室の整理を頼まれることになる。それがきっかけで公爵弟クラウスと話をするうちに意気投合して二人の距離が縮まりエリーゼは恋をする。だが越えられない二人の身分差に悩み諦めようとするがそのときクラウスは……

婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた 貴族令嬢ミディア・バイエルン。 だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、 彼女は一方的に婚約を破棄される。 「戻る場所は、もうありませんわ」 そう告げて向かった先は、 王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。 権力も、評価も、比較もない土地で、 ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。 指示しない。 介入しない。 評価しない。 それでも、人は動き、街は回り、 日常は確かに続いていく。 一方、王都では―― 彼女を失った王太子と王政が、 少しずつ立ち行かなくなっていき……? 派手な復讐も、涙の和解もない。 あるのは、「戻らない」という選択と、 終わらせない日常だけ。

虐げられてきた妾の子は、生真面目な侯爵に溺愛されています。~嫁いだ先の訳あり侯爵は、実は王家の血を引いていました~

木山楽斗
恋愛
小さな村で母親とともに暮らしていアリシアは、突如ランベルト侯爵家に連れて行かれることになった。彼女は、ランベルト侯爵の隠し子だったのである。 侯爵に連れて行かれてからのアリシアの生活は、幸福なものではなかった ランベルト侯爵家のほとんどはアリシアのことを決して歓迎しておらず、彼女に対してひどい扱いをしていたのである。 一緒に連れて行かれた母親からも引き離されたアリシアは、苦しい日々を送っていた。 そしてある時彼女は、母親が亡くなったことを聞く。それによって、アリシアは深く傷ついていた。 そんな彼女は、若くしてアルバーン侯爵を襲名したルバイトの元に嫁ぐことになった。 ルバイトは訳アリの侯爵であり、ランベルト侯爵は彼の権力を取り込むことを狙い、アリシアを嫁がせたのである。 ルバイト自身は人格者であり、彼はアリシアの扱われた方に怒りを覚えてくれた。 そのこともあって、アリシアは久方振りに穏やかな生活を送れるようになったのだった。 そしてある時アリシアは、ルバイト自身も知らなかった彼の出自について知ることになった。 実は彼は、王家の血を引いていたのである。 それによって、ランベルト侯爵家の人々は苦しむことになった。 アリシアへの今までの行いが、国王の耳まで行き届き、彼の逆鱗に触れることになったのである。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

前世の記憶がある伯爵令嬢は、妹に籠絡される王太子からの婚約破棄追放を覚悟して体を鍛える。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

婚約破棄された令嬢、教皇を拾う

朝露ココア
恋愛
「シャンフレック、お前との婚約を破棄する!」 婚約者の王子は唐突に告げた。 王太子妃になるために我慢し続けた日々。 しかし理不尽な理由で婚約破棄され、今までの努力は水の泡に。 シャンフレックは婚約者を忘れることにした。 自分が好きなように仕事をし、趣味に没頭し、日々を生きることを決めた。 だが、彼女は一人の青年と出会う。 記憶喪失の青年アルージエは誠実で、まっすぐな性格をしていて。 そんな彼の正体は──世界最大勢力の教皇だった。 アルージエはシャンフレックにいきなり婚約を申し込む。 これは婚約破棄された令嬢が、本当の愛を見つける物語。

婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました

青空あかな
恋愛
アトリス王国の有名貴族ガーデニー家長女の私、ロミリアは亡きお母様の教えを守り、回復魔法で貧しい人を治療する日々を送っている。 しかしある日突然、この国の王子で婚約者のルドウェン様に婚約破棄された。 「ロミリア、君との婚約を破棄することにした。本当に申し訳ないと思っている」 そう言う(元)婚約者が新しく選んだ相手は、私の<義妹>ダーリー。さらには失意のどん底にいた私に、実家からの追放という仕打ちが襲い掛かる。 実家に別れを告げ、国境目指してトボトボ歩いていた私は、崖から足を踏み外してしまう。 落ちそうな私を助けてくれたのは、以前ケガを治した旅人で、彼はなんと世界一の超大国ハイデルベルク王国の王子だった。そのままの勢いで求婚され、私は彼と結婚することに。 一方、私がいなくなったガーデニー家やルドウェン様の評判はガタ落ちになる。そして、召使いがいなくなったガーデニー家に怪しい影が……。 ※『小説家になろう』様と『カクヨム』様でも掲載しております

処理中です...