【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき

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第五十五話 エルヴィンの正体

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■エルヴィン視点■

 二学期が始まってから少し経ったある日の夜、僕はとある人物に呼ばれて、馬車に乗ってとある場所へとやってきた。

 その場所とは、この国の中心にある城だ。ここの主である国王に、突然呼び出されたんだ。

「エルヴィン様、おかえりなさいませ。国王陛下がお待ちです」

「出迎えありがとう。父上はどちらに?」

「謁見の間におられます。すぐにご案内いたします」

 見張りをしていた兵士に連れられて、僕は城の最上階にある謁見の間へとやってきた。

「失礼します」

 中に入ると、一人の年配の男性が玉座に座った状態で、僕を出迎えてくださった。
 穏やかな表情ではあるが、自然と背筋がまっすぐになってしまうような、不思議な緊張感を醸し出している。

「久しぶりだな、エルヴィン。元気そうでなによりだ」

「父上も、息災そうでなによりです」

 僕は国王陛下……実の父の前で片膝をつき、深々と頭を下げた。

「以前食事をしたのが……もう半年以上も前のことか。時の流れは早いものだ。その後、シャムル家や学園での生活はどうかね?」

「シャムル家の方々は、以前お話した時と変わりません。皆、とても僕に良くしてくださっております。学園の方は、今までの人生で一番充実しております」

 顔を上げて学園のことや、アイリーンのことを父上に報告しないといけないと考えただけで、自然と口角が上がる。

 それも当然のことだろう? 世界一愛しい人と共に、同じ学園で生活できているんだ。親にそれを報告して、喜んでもらいたいと思うのは、自然のことさ。

「ほう。ひょっとして、例の孤族の少女のことかね?」

「お察しの通りです。以前お食事した際は、セレクディエ学園の編入試験に向けて勉強していましたが、無事に特待生として編入し、今は僕や学園でできた友人と共に、幸せに暮らしております」

「そうか。そなたから何度も聞かされて、その後どうなったか気になっておったが、望む形になってなによりだ」

 あはは……僕としたことが、父上に少しでもアイリーンのことについて話したくて、お会いするたびにアイリーンのことを沢山話してしまったんだよね。

「それで、伴侶はその孤族の少女にするつもりかね?」

「はい。父上との約束通り、城を出て三年間の学園生活を終えたのち、アイリーンと結婚したいと考えております」

 これはあくまで僕の願望であり、もしアイリーンが断ったら、潔く身を引くつもりだけどね。
 ……そんなことはないと信じたいが、こればかりはどうしようもない。

 ちなみに、父上との約束というのは、十五歳になったら城を出て貴族の家で生活し、民達の生活をこの身で経験して糧にするというものだ。

 これは僕だけではなく、歴代の王族は皆経験するものだ。初代の国王様が残したお言葉では、民の生活を知らずに、民を導くことなど不可能。民を知るために、自らが歩み寄らなければならない、だそうだ。

 だから、歴代の王族達はその言葉に従い、古くから王家に伝わる魔法を使い、自分が王族の人間と認識されないようにして、民達の間に溶け込んでいる。
 これがあれば、いかなる方法でも外部から僕の正体が知られることはない。

 とはいっても、お世話になっているシャムル家の人間や、セレクディエ学園の学長、友好的な関係を結んでいる隣国の王族といった、一部の人間には僕の正体を伝えている。

 その一部の人の中には、アイリーンは含まれていない。あくまで、シャムル家のエルヴィンとしての面しか見せていない。

 愛する人に隠し事をするのは胸が痛むけど、王子だということを伝えて、変に壁を作られるのが嫌だったんだ。

「そのアイリーンのことだが……誠に申し訳ないが、諦めてほしい」

「……えっと? 父上、なにかのご冗談でしょうか?」

「余がそのような悪趣味な戯れなどするつもりはない」

「ならどうして!? 約束では、この三年間のうちに伴侶となる女性を見つければ、その結婚は許すと仰っていたではありませんか!?」

 我が王家は、代々結婚相手は愛し合った異性と結ばれている。これも初代の国王様の、国を導く大役を任された者の伴侶と形だけの結婚をしても、力を合わせて国を導くことは出来ないというお考えから来ている。

 だから、僕もこの三年間で伴侶に相応しい女性を探していた。もし見つからなければ、その時は別の方法を取ると、父上と約束して。
 そんな時に出会った女性というのが、アイリーンだったというわけだ。

 だというのに、突然諦めろと言われても、なにも納得できない!

「取り乱す気持ちもわかるが、一旦落ち着くのだ」

「落ち着いてなどいられません! どういうことか、ご説明ください!」

「もちろんだ。だが、それをするのに余は不適切だ。だから……彼女に任せようと思う。入ってきてくれ」

 父上の呼び出しに応えて部屋の中に入ってきたのは、真っ赤な髪を短く揃えた、快活な雰囲気の女性だった。

「ミトラ……? ミトラじゃないか!」

 彼女の名前は、ミトラ・エイハースト。遥か昔から交流がある隣国の第二王女で、僕が幼い頃から親交がある女性だ。

 隣国の王女という立場だが、歳が近いということもあり、実の姉弟のように仲が良い。

「久しぶりだね、エルヴィン。しばらく見ない間に、随分背が伸びたね」

「なにを言ってるんだい。前回会ったのは、さほど昔の話じゃないだろう?」

「ふふっ、そうだったかな?」

 まだ身長は少しずつ伸びているとはいえ、子供の時のように劇的に伸びているわけじゃない……って、今はそんな世間話に花を咲かせている場合じゃない。

「ミトラ、実はつい先ほど、父上から僕が伴侶にしたい女性のことを諦めろと伝えられたところでね。その説明をしてもらう際に、君が呼ばれたんだ。もしかして、何か知っているのか?」

「もちろん知ってる。エルヴィン、そんな女となんか結婚しないで、あたしと結婚して」
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