【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき

文字の大きさ
63 / 74

第六十三話 顔を覗かせる寂しさ

しおりを挟む
 エルヴィン様を助けるための準備を始めてから、一ヶ月の月日が経った。

 あの日から、私とソーニャちゃんは、ゲオルク様達や周りの人達の心無い言葉や態度に耐えながら、ヴァーレシア先生の研究室に通って準備を進めていた。

「そういやよ、協力してもらう予定の奴から聞いたんだが、エルヴィンの結婚式の招待状が届いたってよ」

「本当ですか!?」

 必死に水晶に魔力を注入していると、何かの本とにらめっこをしたままのヴァーレシア先生が、とんでもない発言をした。

「それはいつなんですか!?」

「二ヶ月後の二十四日だ」

 二ヶ月後というと、十二月か……まだ時間があるように思えるけど、二ヶ月なんてきっとあっという間だろう。

「まったく、そんな日程にするなんて、良い趣味してるな」

「その日に何かあるんですか?」

「遠い国の風習で、その日はクリスマスイブというものが行われる日だ。家族や恋人と過ごし、互いにプレゼントを交換し合あう日と聞いたことがある」

 そんな文化があるなんて、全然知らなかった。他国とも交流がある王族の人ならではの日程って感じがする。

「ま、この調子なら二ヶ月後には完成してるだろうよ。悠長な間抜け共に感謝しねーとな」

「いえ、感謝を送る相手は、ヴァーレシア先生にですよ」

「あん? だから、そんなもんはいらねーって言っただろうが。もう忘れたのか?」

「忘れてはいませんけど……あの、どうしてヴァーレシア先生はここまでしてくれるんですか?」

 丁度良い機会だから、今までずっと気になっていた疑問を投げかけると、なんだか怪訝そうな顔を向けられてしまった。

「んだよ、迷惑ってか?」

「逆ですよ! 私、研究の邪魔をずっとしちゃってるのに、文句一つ言わずに手伝ってくれるのが、ちょっと不思議で」

「あー迷惑迷惑。お前らがいなければ、きっと今頃研究が終わって、魔法が完成してただろうなー」

 基本的にひねくれ者のヴァーレシア先生は、驚く程の棒読みでわざと文句を言ってみせた。

「そうやってひねくれた発言するの、よくないですよ」

「お前みたいなガキンチョに説教されるようじゃ、俺もおしまいだな」

「またそうやって……」

「まあ理由はある。けど言わねぇ。何を言っても、お前には嘘が見抜かれるからな」

「そう、それですよ! どうしてヴァーレシア先生は、私の鼻のことを知っているんですか!?」

「さあな」

 ……ダメだ、これはいくら聞いても答えてもらえそうにない。
 それに、こちらは手伝ってもらってる立場上、変に問い詰めたせいで途中で投げ出されたら困るし……もう黙っておこう。

「ふぅ……ただいま戻りました~」

「おかえり、ソーニャちゃん。調子はどう?」

「な、なんとか形になってきました……! ヴァーレシア先生は先生をしているだけあって、教えるのが上手なんですよ」

「そりゃそうだろ。本職を疎かにして退職させられたら、この環境を手放す羽目になる」

 それはその通りなんだけど、普段から授業だるい、プリント作るの面倒とぼやいているのを聞いているから、そのギャップが凄い。

「よし、随分と水晶がそろってきたな。少し集中するから、お前らは今日は帰れ。しっしっ」

「わかりました。本日もありがとうございました。ソーニャちゃん、帰ろっか」

「はいっ。ヴァーレシア先生、さようなら」

「おう」

 ヴァーレシア先生に別れを告げて外に出ると、空は綺麗な夕焼けに色に染まっていた。
 最近は日が沈むのが早くなってきただけじゃなくて、だいぶ肌寒くなってきている。十月なのだから、当然といえば当然だけどね。

「ソーニャちゃん、今日はちょっと図書館に寄って帰りたいから、一人で帰るね」

「それなら、図書館まで送りますよ……?」

「ううん、大丈夫。ありがとう」

「わかりました。ではまた」

「またね~」

 迎えに来ていた馬車に乗って帰るソーニャちゃんを見送ってから、私は足早に図書館へと向かう。

 最近は、ソーニャちゃんが気を利かせてくれて、帰りは家の近くまで送ってくれるのだけど、今日は授業で気になったところを調べたくて、町の図書館へと向かっているの。

「図書館に来るの、なんだか久しぶりな気がするなぁ」

 セレクディエ学園に入学する前は、ゲオルク様に許可された曜日に必ず来て勉強をしていたな……そこで、エルヴィン様とも出会って……そんなに前の話じゃないのに、随分と昔のことのような気がする。

「それほど濃密な時間を過ごしてきたってことかな」

 大変だった時もあるけど、楽しくて大切な思い出を思い出していたら、ずっと胸の内に秘めていた寂しさが顔を出してきて、目頭が熱くなった。

 今すぐにでも、エルヴィン様に会いたい。エルヴィン様に触れて、その熱を感じたい。一緒に新しい思い出をたくさん作りたい……でも、今はそれが叶わないのが、なによりも悲しい。

 ……こんなところでへこたれていたって、エルヴィン様もあの日々も帰ってこない。そんなことはわかってるけど……一度顔を出した寂しさは、中々厄介なもので、そう簡単には消えてくれそうもない。

「ダメダメ、私は必ず取り戻すって決めたんだから。落ち込んでる暇なんて無い!」

 言葉にして自分を鼓舞することで、なんとか少しでも寂しさを払拭する。

 大丈夫、私なら絶対にエルヴィン様を取り戻せる。絶対にエルヴィン様と幸せになれる。そう自分に言い聞かせていると、いつの間にか図書館へと到着していた。

「さて、探している本はっと……」

 この図書館に来た回数は数知れず。もはや私の庭のような場所であるおかげで、探している本はすぐに見つかった。

 後は、このまま本を借りて家で勉強しても良いし、ここで閉館まで勉強してもいいのだけど……私はとある場所に向かって歩き出した。

 図書館の中にある、とある本棚の前。エルヴィン様と初めて出会って話をした場所に向かうと、そこには一人の男性が、静かに佇んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

[完結中編]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜

コマメコノカ@女性向け・児童文学・絵本
恋愛
 王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。 そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

白い結婚をご希望ですか? 良いですよ。私はジャガイモと筋肉を育てますので!

松本雀
恋愛
「……いいか、エルゼ。あらかじめ言っておくが、私は君を愛するつもりはない」 「願ったり叶ったりです! 実は私、国境警備隊に幼馴染の恋人がいまして。この結婚が決まった時、二人で『体は売っても心は売らない』って涙ながらに誓い合ったんです。閣下が愛してくださらないなら、私の貞操も守られます! ありがとうございます、公爵閣下!」 「……こいびと?」 ◆ 「君を愛するつもりはない」 冷徹な公爵ギルベルトが新婚初夜に放った非情な宣告。しかし、新妻エルゼの反応は意外なものだった。 「よかった! 実は私、国境警備隊に恋人がいるんです!」 利害が一致したとばかりに秒速で就寝するエルゼ。彼女の目的は、愛なき結婚生活を隠れ蓑に、恋人への想いを込めた「究極のジャガイモ」を育てることだった! 公爵家の庭園を勝手に耕し、プロテインを肥料にするエルゼに、最初は呆れていたギルベルト。だが、彼女のあまりにフリーダムな振る舞いと、恋人への一途(?)な情熱を目の当たりにするうち、冷徹だった彼の心(と筋肉)に異変が起き始めて……!?

処理中です...