【完結】真実の愛を見つけたから離婚に追放? ありがとうございます! 今すぐに出ていきます!

ゆうき

文字の大きさ
44 / 97

第四十四話 恐怖に打ち勝たなければ

しおりを挟む
 事前に話を通さずに、ロンド家へと向かった私達は、特にお引き取りを願われることもなく、屋敷の中に通してもらえた。

 そして、応接室でお会いしたメアリー様に、事の顛末をしっかりと伝えると、メアリー様はとても驚いたような表情をしていた。

「そんな、酷い……! 私は、ちゃんと診てもらえるように、お願いしたのに!」

「あの、どうしてあのギルドに預けたのですが?」

「ギルドの偉い人に、環境が整っているうちに預けた方が良いと、アドバイスをされました。それで、信じて父をお願いしたのに……!」

 私の知っているメアリー様は、ぽわぽわしているというか、とてもおっとりした女の子というイメージだったのだが、今はそのイメージとは真逆で、怒りの形相で両拳を机に振り下ろして、感情を爆発させていた。

「サイラス様、エリシア様、本当に申し訳ございません! 私が愚かでした……あの場で、きっぱりと勝負なんて許可しないと伝えておけば、こんなことには……!」

「そんな、お気になさらないでください。メアリー様が、お父様を助けたい一心で許可したのは、わかっていますわ」

 メアリー様は悪くない。悪いのは、自分の欲を満たすためだけに、家族をなんとかして助けたいと思うメアリー様を利用した、マグナス様だもの。

「メアリー様、なにかお父様の診断結果が書かれたものをもっていませんか? 症状がわからないと、薬の作りようが無いのです」

「それなら、私の私室にあります。申し訳ございません、取ってきてもらえますか?」

「かしこまりました、お嬢様」

 メアリー様は、使用人に数枚の紙を持ってこさせると、それを私達に見せてくれた。
 そこに書かれていた病名は、ルーイン病というものだった。

「ルーイン病? 聞いたことが無いな……エリシア、知っているか?」

「一応、名前は聞いたことはあるわ。確か、症例がほとんど無い病気で、最後に確認されたのは、何百年も前だったはず……主に野生の動物から感染する病気……だったかしら。メアリー様、最近お父様がお肉とかお魚を、生で食べてませんでしたか?」

「……そういえば、外国にはお魚を生で食べる文化があって、それを出先で食べたとお話していました」

 きっとそれが原因ね。環境がいい場所で育ったお魚なら、多分生で食べても大丈夫だろうけど、そうでない場所のお魚は、ちゃんと火を通さないと、体に害を及ぼす可能性がある。

「そんな病気だと、なおさらこの目で症状を確かめたいところだが……」

「こうなったら、なりふりは構っていられないわね。下手したら、このまま誰も何もせずに、メアリー様のお父様が亡くなってしまうかもしれないもの」

「そ、それってどういうことですか!?」

「あくまで私の仮説ですが……ルーイン病という厄介そうな病気を相手に、マグナス様がきちんと動くとは思えないのです。彼の目的は、あくまで私達ですから」

 このまま私達が何も出来なければ、マグナス様の仕返しはうまくいくだろう。

 その後、多少は効く薬を作ったものの、ほとんど知れ渡っていない病気が相手だったせいで、健闘虚しく助けられなかったと堂々と嘘をつき、実はたいしたことはしていなかった……なんて未来が見える。

 少しでもマグナス様に、薬師ギルドの長の自覚があれば、名声のためとかでもいいから、患者を治すかもしれないけど、あの人の頭の中は、自尊心と高すぎるプライドと女性のことしかない。

「くっそぉ……と、とにかくルーイン病の資料を片っ端から集めるぞ!」

「そうね。ただ、申し訳ないのだけど、それはサイラス様に任せてもいいかしら?」

「それは構わないけど、エリシアは?」

「私は、私のやり方で何とか解決の糸口を掴んでみるわ」

 資料を集めても、やはり患者を実際に見て状況を確認したい。それに、相手はあまりにも珍しい病気だから、病気の原因となっているものを採取しなければ、製薬することは難しいと思う。

 そのために、私はとあることをすることを決めた。それは……患者の部屋に侵入し、患者から直接病原体を手に入れることだ。

 サイラス様に、大事になるようなことをするのはやめろと、偉そうなことを言っておきながら、こんなことをするのは気が引けるけど……マグナス様のギルドと、患者がいるギルドの二重体制の今、正規の方法で検査するのは無理だもの。

 大丈夫、私は日頃から素材を採りに行ったことで培った、身のこなしと体力がある。筋力だって、他の女性よりかはある方だと思うし、隠密行動も野生動物から何度も隠れる中で習得している。

 ただ、さすがに窓の鍵を開ける技術は無いから、その辺りはメアリー様にお願いをして、上手くやってもらいましょう!


 ****


 その日の真夜中、私はサイラス様には内緒で、真っ黒で体に比較的フィットしているエプロンドレスを着て、患者のいるギルドの庭に来ていた。

 この時間でも、ギルドには見張りや見回りがいる。でも、観察している感じだと、そこまで人数は多くないし、やる気も感じられない。これなら、きっとうまくいく。

「確か、部屋は……あそこね」

 ギルドの三階に、一つだけ窓が開いている部屋がある。あそこに、メアリー様のお父様が眠っているの。

 どうして開いているのかって? さっきロンド家からお暇する間際に、メアリー様にお願いをして、あそこの窓を夜もあけてくれるようにお願いをしたの。
 どうやってくれたかはわからないけど……多分、暑いからとか理由をつけたのかしら?

 まあ、方法はこの際どうでもいい。あそこにどうやって上るかだけど……近くに使えそうな、大きな木がある。
 高さだけで見れば行けそうだけど、木と建物の間が結構広いのよね。

「飛び移るしかないけど……失敗したら……」

 当然だけど、下にはクッションなんて置いてない。落ちてしまえば怪我は免れないし、打ちどころが悪くて気を失ったら、そのまま見つかって大事になる。
 最悪の場合、私は二度と目を覚ますことは無くなるかもしれない。

「…………」

 自分の死が頭に過ぎると同時に、体がぶるっと震えた。

 実際に目の前に死が迫ってくると恐怖に襲われるのは、何度も経験があるけど、この感覚に慣れることは一生来ないだろう。

「それでも……やらなきゃ」

 私は深呼吸を何度もして気持ちを落ち着かせると、スルスルと木を登り、体を縮めこませて力を溜め……窓を目掛けてジャンプをした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。

水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。 兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。 しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。 それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。 だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。 そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。 自由になったミアは人生を謳歌し始める。 それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。

正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。

水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。 王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。 しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。 ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。 今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。 ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。 焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。 それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。 ※小説になろうでも投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

【完結】離縁ですか…では、私が出掛けている間に出ていって下さいね♪

山葵
恋愛
突然、カイルから離縁して欲しいと言われ、戸惑いながらも理由を聞いた。 「俺は真実の愛に目覚めたのだ。マリアこそ俺の運命の相手!」 そうですか…。 私は離婚届にサインをする。 私は、直ぐに役所に届ける様に使用人に渡した。 使用人が出掛けるのを確認してから 「私とアスベスが旅行に行っている間に荷物を纏めて出ていって下さいね♪」

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

処理中です...