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第三十話 同郷との再会
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「カイン様、ご無事ですか!?」
到着と同時に毛の拘束を緩めてくれたモコのおかげで、すぐに背中から降りれた私は、急いでカイン様に駆け寄りました。
パッと見た限りでは、どこも怪我をされていないようで一安心ですわ。ですが、周りの兵士達は……。
「心配はいらない。みんな眠っているだけだよ」
「そ、そうですか……良かった……」
「……カイン、もう一人いる。そこに茂みから匂いがする!」
「ひっ!?」
モコの視線の先から、小さな悲鳴と共に、茂みが小さく揺れました。
茂みが揺れるだけなら、野生の動物の可能性もありますが……今のは完全に人の声でしたわ。誰かが隠れているようです。
「出てこい。そこにいるのはわかっている」
「わ、わかったから……こ、殺さないでくれ!」
茂みから出てきたのは、周りに倒れている兵士達と、同じ鎧を着た男性でした。そして、私にはこの方の顔に見覚えがありましたわ。
「君には恨みは無いが……俺達の事を報告されたら面倒だから、少しだけ寝ててもらうよ」
「待ってください! ここは私に任せてください!」
「ま、マシェリー? 危険だぞ!」
カイン様の制止を振り切って彼の前に行くと、警戒していた顔から一転して、まるで目の前にあるものが信じられていないような、そんな驚いた顔をしておりました。
「あなたは……まさか、マシェリー様!? いや、マシェリー様は行方不明になって……さては、マシェリー様を騙る偽物だな!?」
「……ご実家のミカン農園、妹様が継いでくれたんでしたね」
「え、どうしてそれを……」
「何を仰いますか。あなたが私に紅茶を淹れながら、嬉しそうに話してくれたではないですか」
まだ城にいた頃。バルコニーで一人ぼっちでお茶を飲むのが毎日のルーティーンでした。その時に執事として、私に何度も紅茶を淹れてくださったのが、彼ですの。
もちろん会話は何度もしたのですが、その中に彼の実家の話がありました。彼の実家はミカン農園を経営していて、本来は自分が継がなければならないのに、妹が継いでくれたおかげで、こうしてお城で働けてると聞いた事がありますのよ。
「あなたが淹れてくれた紅茶は、本当においしかった。また一緒に飲みたいわ」
「本当に……マシェリー、様……? 生きて、生きていらしたのですね……!!」
「はい。この方や沢山の方々のおかげで、今日まで生きてこられましたわ」
「ああ、マシェリー様! あなたが行方不明と聞いて、私や民達は、本当な胸が張り裂けそうでした! ぐすっ……本当に、良かった……!!」
本当に嬉しそうに泣く彼に、私はハンカチを手渡しました。
元々彼は、明るくて泣き言をあまり言わないタイプでした。そんな彼が、こんなになるまで泣くなんて……よほど今のグロース国がつらいのでしょうね……。
「マシェリー、この方は知り合いか?」
「ええ。少しの間、専属の執事として私と過ごした方ですの」
「そうだったんだね」
彼と一緒に過ごした日々は、平和そのものでしたわ。まさに至福の一時でしたわ……。
そんな遠い出来事ではないのに、凄く懐かしく感じてしまいました。私も歳かしら……まだ十代なんだけど……はぁ。
「早くこの事を……マシェリー様が生きている事をみんなに知らせれば、きっとみんな元気になれる!」
「それは待ってほしい。俺達には目的があって、秘密裏に城へ潜入しようとしているんだ」
「そうだったんですか! でしたら……えっと、目的地はお城ですよね? ここを真っ直ぐ行った所にあるスラム街から、お城のある城下町へ行ける秘密の抜け道がありますよ」
いま、なんと……? スラム街と仰いましたよね? 貧しくなったとは伺っておりましたが、元々グロース国の民は、裕福で幸せに暮らしていました。なのに、そんなになるまで、お義母様は税を重くしたのですか!?
「よし、そこから侵入しよう」
「待ってください。スラムはよそ者に厳しい場所なんです。だから、その恰好では恐らくバレてしまいます。こちらを来てください」
彼は荷物の中から、大きめの鎧と、フード付きのローブを出してくれました。鎧にはグロース国の紋章が刻まれてますし、私のフードも顔をかなり隠してくれそうですわ。これなら身バレしないで、ひっそりと行けそうです。
「すみません、本当はもっとしっかりした鎧があればよかったのですが、本日は戦闘を想定しておらず、軽装しかなくて……」
「問題無いよ。防御には難があるかもしれないけど、軽くて動きやすい」
いつも屋敷の外では、エルピス国の鎧を着ているのしか見た事がないので、別の鎧を着ていると少し違和感がありますわね。でも、とてもお似合いです!
「なあなあ、お前は協力してるけど、大丈夫なのかよ?」
「ひぃ!? マシェリー様。この大きな犬のバケモノは……」
「モコよ。実は魔犬だったのよ」
「モコ……えっ、あの小さくて可愛いモコ!?」
「やいやい、誰がバケモノだ! 昔はよくお腹をモフモフさせろって言うから、仕方なくやらせたってのによ!」
「こ、これは申し訳ない。まさかモコとは思ってなかった……」
そう思うのも無理はありませんよね。知っているのが小さいモコなのに、こんな大きな姿で、しかも喋るようになってるのですから。私だったらひっくり返ってますわ。
「それで、スラムはどっちだ?」
「距離はありますが、ここから西に行った所にあります。地図をお渡ししますね」
「ありがとう。よし、出発しよう。あと十分程で全員起きるはずだが……俺達の事は内密にして貰えると助かるよ」
「もちろんです! 最近のグロース国は狂ってます……民は疲弊し、国はどんどん衰退している! お願いします、マシェリー様……この国を、救ってください……!」
「ええ、任せてください。私はその為に来たのですわ。だからあなたは、安心して待っていなさい」
彼の事を真っ直ぐ見つめながら伝えると、彼はとても力強く頷いてくださいました。これで彼はきっと大丈夫でしょう!
「よーし、行くぞー!!」
モコの掛け声のもと、私達はスラムを目指て進みます。道中、木の枝が飛んできておでこを切ってしまい、カイン様に舐めてもらって治すという事件もありましたが、何とか無事に到着出来ました。
ちなみにモコは体力を使ったので、一旦休憩として小さくなり、私の腕の中で眠っています。
「これは酷い……どうして……」
グロース国は、領の真ん中にお城が建ち、その周りに城下町があるのですが……城下町の八割ほどは既にボロボロで、見る影もありません。
民達も、力なく蹲ったり、誰かと喧嘩をしたり、こんな時間から酒を飲んだりと、無法地帯になっていました。
ですが、城だけは異様に綺麗に整備されていて、凄まじいギャップを演出させておりましたわ。
「皆様……国の大切な民なのに……」
「マシェリー、気持ちはわかるが、今はまだ助ける時ではない。少しでも早く行かないと、せっかく潜入して準備をしてくれるセバス達の努力が無駄になってしまうよ」
「そうですわね……」
ここはグッと我慢するのよ私。お義母様とコルエを止めて、必ずこの国を以前のように……いえ、それ以上に素晴らしい国にして見せるから! だから……皆様の為に、私は行ってきます!
到着と同時に毛の拘束を緩めてくれたモコのおかげで、すぐに背中から降りれた私は、急いでカイン様に駆け寄りました。
パッと見た限りでは、どこも怪我をされていないようで一安心ですわ。ですが、周りの兵士達は……。
「心配はいらない。みんな眠っているだけだよ」
「そ、そうですか……良かった……」
「……カイン、もう一人いる。そこに茂みから匂いがする!」
「ひっ!?」
モコの視線の先から、小さな悲鳴と共に、茂みが小さく揺れました。
茂みが揺れるだけなら、野生の動物の可能性もありますが……今のは完全に人の声でしたわ。誰かが隠れているようです。
「出てこい。そこにいるのはわかっている」
「わ、わかったから……こ、殺さないでくれ!」
茂みから出てきたのは、周りに倒れている兵士達と、同じ鎧を着た男性でした。そして、私にはこの方の顔に見覚えがありましたわ。
「君には恨みは無いが……俺達の事を報告されたら面倒だから、少しだけ寝ててもらうよ」
「待ってください! ここは私に任せてください!」
「ま、マシェリー? 危険だぞ!」
カイン様の制止を振り切って彼の前に行くと、警戒していた顔から一転して、まるで目の前にあるものが信じられていないような、そんな驚いた顔をしておりました。
「あなたは……まさか、マシェリー様!? いや、マシェリー様は行方不明になって……さては、マシェリー様を騙る偽物だな!?」
「……ご実家のミカン農園、妹様が継いでくれたんでしたね」
「え、どうしてそれを……」
「何を仰いますか。あなたが私に紅茶を淹れながら、嬉しそうに話してくれたではないですか」
まだ城にいた頃。バルコニーで一人ぼっちでお茶を飲むのが毎日のルーティーンでした。その時に執事として、私に何度も紅茶を淹れてくださったのが、彼ですの。
もちろん会話は何度もしたのですが、その中に彼の実家の話がありました。彼の実家はミカン農園を経営していて、本来は自分が継がなければならないのに、妹が継いでくれたおかげで、こうしてお城で働けてると聞いた事がありますのよ。
「あなたが淹れてくれた紅茶は、本当においしかった。また一緒に飲みたいわ」
「本当に……マシェリー、様……? 生きて、生きていらしたのですね……!!」
「はい。この方や沢山の方々のおかげで、今日まで生きてこられましたわ」
「ああ、マシェリー様! あなたが行方不明と聞いて、私や民達は、本当な胸が張り裂けそうでした! ぐすっ……本当に、良かった……!!」
本当に嬉しそうに泣く彼に、私はハンカチを手渡しました。
元々彼は、明るくて泣き言をあまり言わないタイプでした。そんな彼が、こんなになるまで泣くなんて……よほど今のグロース国がつらいのでしょうね……。
「マシェリー、この方は知り合いか?」
「ええ。少しの間、専属の執事として私と過ごした方ですの」
「そうだったんだね」
彼と一緒に過ごした日々は、平和そのものでしたわ。まさに至福の一時でしたわ……。
そんな遠い出来事ではないのに、凄く懐かしく感じてしまいました。私も歳かしら……まだ十代なんだけど……はぁ。
「早くこの事を……マシェリー様が生きている事をみんなに知らせれば、きっとみんな元気になれる!」
「それは待ってほしい。俺達には目的があって、秘密裏に城へ潜入しようとしているんだ」
「そうだったんですか! でしたら……えっと、目的地はお城ですよね? ここを真っ直ぐ行った所にあるスラム街から、お城のある城下町へ行ける秘密の抜け道がありますよ」
いま、なんと……? スラム街と仰いましたよね? 貧しくなったとは伺っておりましたが、元々グロース国の民は、裕福で幸せに暮らしていました。なのに、そんなになるまで、お義母様は税を重くしたのですか!?
「よし、そこから侵入しよう」
「待ってください。スラムはよそ者に厳しい場所なんです。だから、その恰好では恐らくバレてしまいます。こちらを来てください」
彼は荷物の中から、大きめの鎧と、フード付きのローブを出してくれました。鎧にはグロース国の紋章が刻まれてますし、私のフードも顔をかなり隠してくれそうですわ。これなら身バレしないで、ひっそりと行けそうです。
「すみません、本当はもっとしっかりした鎧があればよかったのですが、本日は戦闘を想定しておらず、軽装しかなくて……」
「問題無いよ。防御には難があるかもしれないけど、軽くて動きやすい」
いつも屋敷の外では、エルピス国の鎧を着ているのしか見た事がないので、別の鎧を着ていると少し違和感がありますわね。でも、とてもお似合いです!
「なあなあ、お前は協力してるけど、大丈夫なのかよ?」
「ひぃ!? マシェリー様。この大きな犬のバケモノは……」
「モコよ。実は魔犬だったのよ」
「モコ……えっ、あの小さくて可愛いモコ!?」
「やいやい、誰がバケモノだ! 昔はよくお腹をモフモフさせろって言うから、仕方なくやらせたってのによ!」
「こ、これは申し訳ない。まさかモコとは思ってなかった……」
そう思うのも無理はありませんよね。知っているのが小さいモコなのに、こんな大きな姿で、しかも喋るようになってるのですから。私だったらひっくり返ってますわ。
「それで、スラムはどっちだ?」
「距離はありますが、ここから西に行った所にあります。地図をお渡ししますね」
「ありがとう。よし、出発しよう。あと十分程で全員起きるはずだが……俺達の事は内密にして貰えると助かるよ」
「もちろんです! 最近のグロース国は狂ってます……民は疲弊し、国はどんどん衰退している! お願いします、マシェリー様……この国を、救ってください……!」
「ええ、任せてください。私はその為に来たのですわ。だからあなたは、安心して待っていなさい」
彼の事を真っ直ぐ見つめながら伝えると、彼はとても力強く頷いてくださいました。これで彼はきっと大丈夫でしょう!
「よーし、行くぞー!!」
モコの掛け声のもと、私達はスラムを目指て進みます。道中、木の枝が飛んできておでこを切ってしまい、カイン様に舐めてもらって治すという事件もありましたが、何とか無事に到着出来ました。
ちなみにモコは体力を使ったので、一旦休憩として小さくなり、私の腕の中で眠っています。
「これは酷い……どうして……」
グロース国は、領の真ん中にお城が建ち、その周りに城下町があるのですが……城下町の八割ほどは既にボロボロで、見る影もありません。
民達も、力なく蹲ったり、誰かと喧嘩をしたり、こんな時間から酒を飲んだりと、無法地帯になっていました。
ですが、城だけは異様に綺麗に整備されていて、凄まじいギャップを演出させておりましたわ。
「皆様……国の大切な民なのに……」
「マシェリー、気持ちはわかるが、今はまだ助ける時ではない。少しでも早く行かないと、せっかく潜入して準備をしてくれるセバス達の努力が無駄になってしまうよ」
「そうですわね……」
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