【完結済】婚約者の王子に浮気されていた聖女です。王子の罪を告発したら婚約破棄をされたので、外で薬師として自由に生きます!

ゆうき

文字の大きさ
12 / 115

第十二話 オーウェンの正体

しおりを挟む
「なんだ、どうして急に苦しみだしたんだ!?」

 さっきまではうなされてはいたが、大人しく眠っていたココ様だったが、薬を飲んだ途端にベッドの上でバタバタと暴れながら、苦悶の表情を浮かべていた。

「まさか、今のは薬じゃなくて、毒だったとか言わないだろうな!?」
「いえ、これは薬の効果で黒染病の病原体が、最後の抵抗をしているんです! このまま少しずつ薬を飲ませれば大丈夫です!」
「…………」
「私を信じてください!」
「……わかりました。俺が暴れないようにするので、薬はお願いします」
「はいっ!」

 なんとかオーウェン様を説得した後も、少しずつココ様に薬を飲ませる。その度に苦しんで暴れはしたものの、作った薬が無くなる頃には、嘘のようにおとなしくなっていた。

「ふう……もう大丈夫ですよ」
「本当ですか? 本当にココは助かったんですか?」
「はい。見てください。肌のシミが、私が見た時に比べて、格段に減っています」
「確かに減っている……」

 あれだけ目立っていた黒いシミが、今では半分以下に消えている。このまま何事もなければ、じきにココ様は目を覚ますだろう。

「こんなに安らかな寝息を聞けるなんて、本当に久しぶりだ……エリンさん、本当にありがとう……! それと、怒鳴ってしまって申し訳ない……!」
「いえ、そんな。聖女として、当然のことをしただけです」
「エリンさん……」

 オーウェン様は、私の手を取りながら、何度も何度も感謝の言葉を伝えてくれた。

 ……私、ようやく聖女らしいことが出来たのね。なんだか感慨深くて、涙が零れそうだ。

「そうだ、何かお礼をさせてください」
「そんなのいりませんよ」
「そういうわけにはいきません」
「うーん……では、さっき助けてもらったお礼ということで」
「それを言うなら、既に俺の傷の手当てをしてもらってますから」

 た、確かに……オーウェン様の理屈で言えば、私が助けてもらったお礼は、オーウェン様の手当てになるわね……。

 だからといって、いきなりお礼をと言われても、何も思いつかない。こういう時って、どうすればいいのだろうか?

「と、とりあえずお礼の件は後にしましょう。私はもう少しココ様の薬を作らないといけませんから」
「まだ必要なのですか?」
「もし何かあった時の保険は、あった方が良いと思うので」
「わかりました。俺に何か手伝えることはありますか?」
「いえ、大丈夫ですよ。素材を取りに行って疲れたでしょう? オーウェン様は少しお休みしてください」

 オーウェン様の提案に笑顔でそう伝えた私は、一階に戻って再び薬を作り始める。先程と違って、今度は時間に追われていないから、ゆっくりと作れるわね。

「エリンさん、一つ聞きたいんですが」
「なんでしょうか?」
「これから先は、どうされるおつもりですか?」
「これからは……聖女の力を活かすために、薬師になってたくさんの人を助けながら、本当の故郷とお母さんの元に行くために、情報を集めるつもりです」

 私に続いて一階に上がってきたオーウェン様の質問に簡単に答えると、オーウェン様は難しい表情を浮かべた。

「本当の……やはり色々と訳ありの様ですね」
「はい、色々とありまして……」

 ここで婚約破棄をされたとか、長年にわたって利用され続けたとか、色々言うのは簡単だけど、私の厄介事にオーウェン様を巻き込む必要は無いし、わざわざ心配させる必要も無いと思い、黙っておくことにした。

「私も聞いて良いですか?」
「俺に答えられることなら、何でも聞いてください」
「ありがとうございます。オーウェン様は、どうしてこの小屋にココ様と暮らしているんですか?」

 私はさっきから気になっていたことを切り出すと、更に言葉を続ける。

「オーウェン様には、平民には無いファミリーネームがあります。それにあの剣……凄まじい切れ味で、素人の目で見ても素晴らしい剣だと思いました。それを使いこなすあなたの剣技や、ティミッドボアを軽々と持ち上げる力にも驚きました。なので、なにか特別な訓練を受けた貴族の方かと……」
「なるほど、あなたの疑問はもっともですね」

 オーウェン様は、顔を俯かせながら、深く溜息を吐いた。その一連の行動だけでも、話す内容が重くなりそうだと、私に予感させた。

 どうしよう……これ、聞かない方が良かったやつかもしれないわ……。

「つまらない話になりますが、それでもいいですか?」
「つまらないかは私にはわかりかねますが……私が聞いたことなんですから、どんな話でも聞きます。オーウェン様がお話したくないのなら、無理にとは言いませんが」
「本当なら、誰にでも話すような内容ではないのですが、ココの命を救ってくれたあなたには、隠し事をしたくないと思ったんです」
「…………」

 そ、そう言われると罪悪感が凄い……私は自分の境遇を隠してるというのに……! やっぱり話すべきなのかしら……?

「エリンさんの仰る通り、俺とココは元貴族です」
「元、ですか?」
「はい。我がヴァリア伯爵家は、代々王家に仕える騎士の家系でした。俺の父も母も、騎士団の一員として、長く国に仕えていました」

 騎士団……だからあんなに剣の扱いが凄かったのね。納得だわ。

「父は騎士団の第二部隊の隊長を務めておりました。母もその部隊の一員として活動をしていたのですが……とある事件がきっかけで、父も母も騎士団を去ることになりました」
「……なにがあったのですか?」
「俺の父が、母を殺したんです」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話 2025.10〜連載版構想書き溜め中

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

追放された聖女は幻獣と気ままな旅に出る

星里有乃
恋愛
 精霊国家トップの魔力を持つ聖女ティアラは、王太子マゼランスの妃候補として約束された将来が待っているはずだった。ある日、空から伝説の聖女クロエが降りてきて、魔力も王太子も奪われ追放される。  時を同じくして追放された幻獣と共に、気ままな旅を始めることに。やがて運命は、隣国の公爵との出会いをティアラにもたらす。 * 2020年2月15日、連載再開しました。初期投稿の12話は『正編』とし、新たな部分は『旅行記』として、続きを連載していきます。幻獣ポメの種族について、ジルとティアラの馴れ初めなどを中心に書いていく予定です。 * 2020年7月4日、ショートショートから長編に変更しました。 * 2020年7月25日、長編版連載完結です。ありがとうございました。 * この作品は、小説家になろうさんにも投稿しております。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...