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前章
魔女が死んだ夜《シュラット侯爵視点》
目の前で、娘が死んでいる。
何故だ?何故だ?何故だ?
シュラット侯爵家の長女であるグレイス・シュラットは、自慢の娘だ。
大人しいグレイスは、私の言うことをよく聞いた。
侯爵家の長女だ。どうしても厳しく躾けてしまうのだが、いつも黙って従っていた。
魔力がこの国で誰よりも多かったグレイス。王家から、奥歯に毒を仕込むように言われても、なんの文句もなく従った。
他国に奪われること、そしてグレイスがこの国から逃げることを危惧してだ。
国王陛下とグレイス本人にしか解けない魔法で保護しているから、大丈夫だと言われ、グレイス本人が受け入れていたため、安心していた。
まさか、グレイス本人が毒を噛むなんて。
「何があったんだ・・・」
血を吐いて、2度と瞳を開かない娘に縋りつきたくなる。
聖女となったディアナが、キツい眼差しで、王太子殿下を睨んでいる。
グレイスの婚約者であるジルベール王太子殿下。彼が何かしたというのか?だが、グレイスからそんな話は聞いたことがない。
いや、グレイスから悩みや不安を聞いたことなどなかった。
嬉しいことも、辛いことも、グレイスが話すようなことはなかった。
私は娘の何をわかっていたのだろう?
何をみていたのだろう?
「王太子殿下。改めてお聞きします。姉に何を言ったのですか?」
ディアナがグレイスを私に託し、立ち上がる。
血の気の引いた顔。命の灯火の消えた、整った顔にそっと触れる。
グレイスが笑った顔を見たのは、いつだっただろうか。
グレイス、何故、何も言ってくれなかったんだ?
毒を噛むほど辛いことがあったのなら、何故ひと言でもいい、打ち明けてくれなかったんだ?
「し、知らない。僕は知らないっ」
王太子殿下が狼狽えた様子で首を振っている。
ディアナがなおも追及しようとした時、周囲にいたご令嬢の1人が声を上げた。
「王太子殿下は、グレイス様のことを醜い魔女だとおっしゃられました。聖女であるディアナ様を迫害していると。だから、死んで償えとおっしゃられました」
「なっ・・・!だ、黙れっ!」
「それは本当?」
王太子殿下が必死に遮ろうとしていたが、ディアナは周囲を見渡して、周りの子息令嬢が頷くのを確認していた。
「ジルベール王太子殿下、あなたがお姉様を死に追いやったのですね」
「ち、違う!僕は事実を述べただけだ。現にグレイスは何ひとつ反論しなかった。グレイスが死んだのは、グレイス本人が自分の罪に苛まれてのことだ」
「黙れ」
王太子殿下・・・いや、こんな屑のために、グレイスは死んでしまったのか。
何故だ?何故だ?何故だ?
シュラット侯爵家の長女であるグレイス・シュラットは、自慢の娘だ。
大人しいグレイスは、私の言うことをよく聞いた。
侯爵家の長女だ。どうしても厳しく躾けてしまうのだが、いつも黙って従っていた。
魔力がこの国で誰よりも多かったグレイス。王家から、奥歯に毒を仕込むように言われても、なんの文句もなく従った。
他国に奪われること、そしてグレイスがこの国から逃げることを危惧してだ。
国王陛下とグレイス本人にしか解けない魔法で保護しているから、大丈夫だと言われ、グレイス本人が受け入れていたため、安心していた。
まさか、グレイス本人が毒を噛むなんて。
「何があったんだ・・・」
血を吐いて、2度と瞳を開かない娘に縋りつきたくなる。
聖女となったディアナが、キツい眼差しで、王太子殿下を睨んでいる。
グレイスの婚約者であるジルベール王太子殿下。彼が何かしたというのか?だが、グレイスからそんな話は聞いたことがない。
いや、グレイスから悩みや不安を聞いたことなどなかった。
嬉しいことも、辛いことも、グレイスが話すようなことはなかった。
私は娘の何をわかっていたのだろう?
何をみていたのだろう?
「王太子殿下。改めてお聞きします。姉に何を言ったのですか?」
ディアナがグレイスを私に託し、立ち上がる。
血の気の引いた顔。命の灯火の消えた、整った顔にそっと触れる。
グレイスが笑った顔を見たのは、いつだっただろうか。
グレイス、何故、何も言ってくれなかったんだ?
毒を噛むほど辛いことがあったのなら、何故ひと言でもいい、打ち明けてくれなかったんだ?
「し、知らない。僕は知らないっ」
王太子殿下が狼狽えた様子で首を振っている。
ディアナがなおも追及しようとした時、周囲にいたご令嬢の1人が声を上げた。
「王太子殿下は、グレイス様のことを醜い魔女だとおっしゃられました。聖女であるディアナ様を迫害していると。だから、死んで償えとおっしゃられました」
「なっ・・・!だ、黙れっ!」
「それは本当?」
王太子殿下が必死に遮ろうとしていたが、ディアナは周囲を見渡して、周りの子息令嬢が頷くのを確認していた。
「ジルベール王太子殿下、あなたがお姉様を死に追いやったのですね」
「ち、違う!僕は事実を述べただけだ。現にグレイスは何ひとつ反論しなかった。グレイスが死んだのは、グレイス本人が自分の罪に苛まれてのことだ」
「黙れ」
王太子殿下・・・いや、こんな屑のために、グレイスは死んでしまったのか。
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