「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい

みおな

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悪役令嬢回避編

事件2

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「何度やろうとしても、力が出ないんです。私、私はやっぱり聖女なんかじゃ・・・」

「マリア様!落ち着いてくださいませ」

 自分の体を抱きしめるようにしながらかぶりを振るマリアを、キツく抱きしめる。

 力が出ないのは、おそらく焦りのあまりにパニックになっているからだ。

 マリアは間違いなく聖女だ。
それは、もしもマリアが乙女ゲームやラノベのマリアと別の存在だったとしてもだ。

 マリアは、教皇から聖女と認定を受けている。
 教皇は教会を統べる存在。
この国の、国王陛下と並ぶ力を持つ教皇が認めたのだから。

「マリア様。落ち着いて。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いて下さい。大丈夫です。マリア様は間違いなく聖女様です。焦らすゆっくりと、傷を癒すイメージを頭の中に描いて・・・わたくしがお隣におります。不安に思うことはありません」

「で、でも・・・」

「マリア様。大切なモノを守るときには、強くあらねばなりません。貴女は間違いなく聖女様です。どうかお心を強く持って下さい」

 残念ながら、アニエスには癒しの力はない。その力は、聖女のみにしかないものだから。

 だから、ここはマリアがマリウス殿下を癒すしか手はないのだ。

 不安に揺れる瞳が、私とマリウス殿下、ルビスやレイノルドやニコラスたちを巡って、再びマリウス殿下へと戻った。

 血の気の引いたマリウス殿下の手を、マリアがぎゅっと握りしめる。

「マリア・・・嬢・・・無理、を・・・する、な」

 気丈にも、まだ意識は保っているみたいだが、あまり時間はないようだ。

「まさか、殿下に・・・こんなつもりじゃ・・・」

「ロードデンドロン様。あの方たちの拘束を」

 背後から聞こえて来た、聞き捨てならない呟きに、私はルビスに視線を向けた。

 ルビスも聞こえていたのだろう。すぐさま立ち上がり、騎士科の教師たちに守られるご令嬢たちの方へと向かって行った。

 ということは、何かしら彼女たちがこの件に関わっているということ。

 前方に視線を向けると、レイノルドたちが魔獣の動きを封じているが、倒すところまではいかないようだ。

「マリア様」

「・・・アニエス、無理を・・・言うな」

「殿下は黙っていて下さいませ。体力を消耗しますわ」

「アニエス様。私、やってみます」

 マリウス殿下の手を握りしめたまま、マリアは決意のこもった目で、私を見つめる。

 私が頷き返すと、マリアはその光の宿った瞳をゆっくりと閉じた。

 マリアの周囲が、淡く光りはじめる。
それは、前世での記憶の中のオーロラのように、揺めき、光を変え、幾重にも重なり、そしてー
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