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聖女覚醒編
初デートの結末2《カイ視点》
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「カイさんが好きなんです」
デートの最後にと訪れたのは、街を一望できる丘である。
ここは、マリウス殿下から勧められた場所だ。
どうやら巷で、この丘で結ばれた恋人たちは幸せになれるというジンクスがあるらしく、教皇子息様が婚約者様と訪れたいと息巻いている、ということだった。
殿下は、俺たちがこの丘に向かうと気づいた時点で、お嬢様と帰られたようだ。
本当に宣言通り、アニエスお嬢様の、マリア嬢を見守りたいという希望を叶えつつ、適度な距離を保ってくれていた。
「本当に?もう1度言ってくれないか?」
聞こえていないわけではない。
目の前の、真っ赤に染まった顔が、本当のことだと思わせてくれる。
だけど、胸に焼き付けたくて、5つも年下の少女にお願いした。
「好きっ・・・」
俯いていたマリア嬢が、俺の顔を見て言ってくれた言葉に、心からの笑顔になる。
アニエスお嬢様を溺愛する、王太子殿下の気持ちが理解った気がする。
好きな人にこんな可愛い顔を見せられたら、両手で囲って、誰にも見せたくない。
抱きしめて、甘やかして、甘い言葉でトロトロに蕩けさせてしまいたい。
ああ。
王太子殿下が、彼女の可愛さに気付かなくて良かった。
アニエスお嬢様は、以前はマリア嬢と殿下の仲を取り持とうとしていた様子だったから。
もっとも王太子殿下は、アニエスお嬢様にしかお気持ちはなく、かつてマリア嬢に髪飾りを贈られたのも、アニエス様に贈りたかったからだろう。
さすがに、お2人いるのに、アニエス様のだけを買うわけにはいかないだろうから。
あの時の街歩きは、アニエス様にとっては「デート」ではなかったみたいだが、今日は殿下と恋人として街を歩かれて、楽しかっただろうか。
「マリア嬢。俺と恋人になってくれますか?」
マリア嬢の前で片膝をつき、彼女を見上げる。こっそり買っておいた指輪を差し出した。
現在、平民たちの間では、婚約者に自分の瞳や髪色の石のついた指輪を贈るのが流行だ。
俺の瞳も髪も黒なので、あまり見栄えのいい指輪ではないが。
それでも、マリア嬢は眩しいものでも見るように、指輪を見つめてくれていた。
「付けても?」
「・・・はい」
彼女の白く小さな手を取り、その細い指に指輪をはめた。
俺は彼女に、自分で用意しておいたピンクの石のついた指輪を手渡した。
「俺にも付けてくれる?」
「これ・・・」
「俺には可愛すぎる色だけど、俺が君のものだという証だから」
恐る恐る、俺の指に指輪をはめた彼女を、そのまま手を引いて腕の中に閉じ込めた。
「カイさん・・・」
「絶対に大切にする。君を傷つけるものから、絶対に守るから。だから、何でも俺に言って」
腕の中のマリア嬢の旋毛に、キスを落とした。
彼女はまだ14歳だ。平民の結婚は貴族のように早くはない。
これからゆっくりと時間をかけて、彼女の不安や怯えを取り除いていけばいい。
もうこの手を離しはしないのだから。
デートの最後にと訪れたのは、街を一望できる丘である。
ここは、マリウス殿下から勧められた場所だ。
どうやら巷で、この丘で結ばれた恋人たちは幸せになれるというジンクスがあるらしく、教皇子息様が婚約者様と訪れたいと息巻いている、ということだった。
殿下は、俺たちがこの丘に向かうと気づいた時点で、お嬢様と帰られたようだ。
本当に宣言通り、アニエスお嬢様の、マリア嬢を見守りたいという希望を叶えつつ、適度な距離を保ってくれていた。
「本当に?もう1度言ってくれないか?」
聞こえていないわけではない。
目の前の、真っ赤に染まった顔が、本当のことだと思わせてくれる。
だけど、胸に焼き付けたくて、5つも年下の少女にお願いした。
「好きっ・・・」
俯いていたマリア嬢が、俺の顔を見て言ってくれた言葉に、心からの笑顔になる。
アニエスお嬢様を溺愛する、王太子殿下の気持ちが理解った気がする。
好きな人にこんな可愛い顔を見せられたら、両手で囲って、誰にも見せたくない。
抱きしめて、甘やかして、甘い言葉でトロトロに蕩けさせてしまいたい。
ああ。
王太子殿下が、彼女の可愛さに気付かなくて良かった。
アニエスお嬢様は、以前はマリア嬢と殿下の仲を取り持とうとしていた様子だったから。
もっとも王太子殿下は、アニエスお嬢様にしかお気持ちはなく、かつてマリア嬢に髪飾りを贈られたのも、アニエス様に贈りたかったからだろう。
さすがに、お2人いるのに、アニエス様のだけを買うわけにはいかないだろうから。
あの時の街歩きは、アニエス様にとっては「デート」ではなかったみたいだが、今日は殿下と恋人として街を歩かれて、楽しかっただろうか。
「マリア嬢。俺と恋人になってくれますか?」
マリア嬢の前で片膝をつき、彼女を見上げる。こっそり買っておいた指輪を差し出した。
現在、平民たちの間では、婚約者に自分の瞳や髪色の石のついた指輪を贈るのが流行だ。
俺の瞳も髪も黒なので、あまり見栄えのいい指輪ではないが。
それでも、マリア嬢は眩しいものでも見るように、指輪を見つめてくれていた。
「付けても?」
「・・・はい」
彼女の白く小さな手を取り、その細い指に指輪をはめた。
俺は彼女に、自分で用意しておいたピンクの石のついた指輪を手渡した。
「俺にも付けてくれる?」
「これ・・・」
「俺には可愛すぎる色だけど、俺が君のものだという証だから」
恐る恐る、俺の指に指輪をはめた彼女を、そのまま手を引いて腕の中に閉じ込めた。
「カイさん・・・」
「絶対に大切にする。君を傷つけるものから、絶対に守るから。だから、何でも俺に言って」
腕の中のマリア嬢の旋毛に、キスを落とした。
彼女はまだ14歳だ。平民の結婚は貴族のように早くはない。
これからゆっくりと時間をかけて、彼女の不安や怯えを取り除いていけばいい。
もうこの手を離しはしないのだから。
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