決めたのはあなたでしょう?

みおな

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婚約解消を望んだら《サイード視点》

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「は?父上、今なんと?」

 父上の執務室に呼ばれ、開口一番言われたことに、僕は思わず聞き返してしまった。

 目の前には、怒った表情の父上と、呆れ顔の兄上、そして涙を流して悲しそうな顔の母上がいる。

「聞こえなかったのか?アリス・ジョージアナ嬢との婚約解消は成された。お前には慰謝料を払う義務が発生した。侯爵家の金を使うことは許さん。お前自身の金を使え。一括で払えないなら、侯爵家で立て替えてやるが、毎月返してもらう」

「は?慰謝料?」

「当然だろう?大体、家と家の契約の婚約を、何故勝手に解消しようとした?何故、手順を踏んで、婚約を解消してから恋人を作らなかった?何故だ?理由を言ってみろ」

「ち、父上。勝手に解消したのは申し訳なかったですが、ナターシャは僕の運命の相手なんです。アリスのことはそういう感情で見ていたんじゃないとナターシャと出会って理解ったんです」

 確かに、父上たちに婚約解消をお願いするつもりだった。

 だけど、アリスから拒否されたり、ナターシャに嫉妬して何かしたらいけないから、前もってアリスに話しておこうと思ったんだ。

 兄上は、僕の言葉に、大きなため息を吐いた。

「世の中、運命の相手だとか、真実の愛だとか、流行っているみたいだが、常識ある人間から言わせてもらうとそれはただの不貞の言い訳だ!」

「ふ、不貞だなんて!兄上、あんまりです!」

 ナターシャとの愛を不貞だなんて、いくら兄上でも許せない。

「婚約者がいるのに、他の女性と愛を交わすことのどこが不貞でないと言うの?」

 兄上に食ってかかろうとした僕に聞こえて来たのは、辺りを凍らせそうなほどの、冷たい声だった。

 僕は、その声の持ち主を凝視した。

 父上も兄上も、僕に厳しかった。
スペンサー侯爵家を継ぐのは兄上で、この家を出て暮らさなきゃならない次男の僕に、父上たちは殊更厳しかった。

 だけど、母上だけは、そんな僕に優しかった。
 父上たちに叱られた時も、母上だけはいつも優しかった。

 その母上が、今まで見たことのない冷たい表情で、僕を睨んでいる。

「は、母上?どうしてそんな目で僕を見るんですか・・・」

「ねぇ、サイード。教えてちょうだい。どうして手順を踏めなかったの?アリスちゃん以外を好きになったことを責めてるんじゃないわ。だけど、貴族の婚約がどういうものか、あなた理解していないの?そもそも、あなたがアリスちゃんに一目惚れしたとお父様に言ったのよ?」

 確かに、僕はアリスに一目惚れしたと思った。
 でも、ナターシャに出会って、真実の愛を知ったんだ。



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