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侍従、戸惑う。
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「私はシキのことが好きだから、婚約したんです。シキは誠実な人です」
アイル様の声が聞こえて、俺は足を止めてしまった。
いつも通りに教室の前までお送りして、控室に移動しようとしていた俺の耳に、聞こえてきたアイル様の言葉。
俺は昨日、お仕えしている伯爵家のご令嬢であるアイル・ローラン様と婚約することになった。
どうやら、アイル様は王太子殿下から好意を寄せられているらしく、それがアイル様は嫌らしい。
そのために婚約者を作りたいと、ご両親にお願いしたのだそうだ。
普通のご令嬢であれば、王太子殿下に好意を寄せられれば、喜ぶだろう。
しかも、殿下は容姿端麗な方だ。
弟君がおられるが、すでに殿下は王太子として立太子されている。
まぁ、それは婚約者であるレジスタ公爵家が後ろ盾となっているからだが。
それでも、王子であることに変わりはない。
王家と繋がりができる。
貴族として生まれたなら、ほとんどの者が望むことだ。
もっとも、ローラン伯爵家の人間は、そんな考えはないようだが。
アイル様やエリル様が望む結婚を、伯爵も伯爵夫人も望んでおられる。
アイル様ご自身が望むのなら、レジスタ公爵家と話をつけてでも、殿下の婚約者の座を得ようとするだろう。
アイル様が、王太子殿下に好意を寄せられるのは、当然である。
アイル様ご自身は、全く、ちっとも、全然気づいておられないが、アイル様はとても可憐で美しいご令嬢だ。
お母上であられる伯爵夫人のアウローラ様によく似て、とてもお美しい。
透けるような白い肌にかかる漆黒の髪も。
キラキラと輝く、大きな黒曜石の瞳も。
妹君のエリルお嬢様を可愛がる、心優しさも。
時々、突拍子もないことをやらかす、目の離せないところも。
勉強家で、頑張り屋で、責任感が強いところも。
どれもが、きっと周りの人間の心をとらえて離さないだろう。
それに気付いていないのは、アイル様ご自身くらいだ。
だから、アイル様の婚約者になれたとしても、それはあくまでも偽装で、アイル様のお気持ちはカケラもないものだと思っていた。
この、胸にある気持ちは何なのだろう。
アイル様はまだ13歳で、俺の4歳も年下で、しかもお仕えしているご令嬢で。
なのに、アイル様の言葉や行動が、俺の気持ちを掻き乱す。
チャイムの音に、ハッとする。
止めていた足を動かし、再び歩き出した。
今日のアイル様の授業には、移動教室はない。
お昼休みは、もしかしたら仲良くなられた公爵家ご令嬢である、レジスタ公爵令嬢とご一緒されるかもしれない。
俺はその準備のために、レジスタ公爵家の侍女の元へと向かうのだった。
アイル様の声が聞こえて、俺は足を止めてしまった。
いつも通りに教室の前までお送りして、控室に移動しようとしていた俺の耳に、聞こえてきたアイル様の言葉。
俺は昨日、お仕えしている伯爵家のご令嬢であるアイル・ローラン様と婚約することになった。
どうやら、アイル様は王太子殿下から好意を寄せられているらしく、それがアイル様は嫌らしい。
そのために婚約者を作りたいと、ご両親にお願いしたのだそうだ。
普通のご令嬢であれば、王太子殿下に好意を寄せられれば、喜ぶだろう。
しかも、殿下は容姿端麗な方だ。
弟君がおられるが、すでに殿下は王太子として立太子されている。
まぁ、それは婚約者であるレジスタ公爵家が後ろ盾となっているからだが。
それでも、王子であることに変わりはない。
王家と繋がりができる。
貴族として生まれたなら、ほとんどの者が望むことだ。
もっとも、ローラン伯爵家の人間は、そんな考えはないようだが。
アイル様やエリル様が望む結婚を、伯爵も伯爵夫人も望んでおられる。
アイル様ご自身が望むのなら、レジスタ公爵家と話をつけてでも、殿下の婚約者の座を得ようとするだろう。
アイル様が、王太子殿下に好意を寄せられるのは、当然である。
アイル様ご自身は、全く、ちっとも、全然気づいておられないが、アイル様はとても可憐で美しいご令嬢だ。
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透けるような白い肌にかかる漆黒の髪も。
キラキラと輝く、大きな黒曜石の瞳も。
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時々、突拍子もないことをやらかす、目の離せないところも。
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どれもが、きっと周りの人間の心をとらえて離さないだろう。
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お昼休みは、もしかしたら仲良くなられた公爵家ご令嬢である、レジスタ公爵令嬢とご一緒されるかもしれない。
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