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悪役令嬢は愛を交わす
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その夜ー
入浴も終えて、あとは眠るだけの時間になった頃、私は部屋の明かりを消した。
そうっとドアを開けて、あたりがシンと静まり返っているのを確認してから、夜着のまま廊下へと出る。
スリッパを履くと足音がしてしまうので、裸足のまま廊下を進む。
目的の部屋の前に着くと、ドアの隙間から漏れる明かりにホッとした。眠っていたらどうしようかと思った。
小さくドアを叩く。誰かが現れないかビクビクしながら待っていると、ドアがほんの少し開いた。
「あ・・・」
声を出そうとしたシキの口元を慌てて押さえる。
そして、そのままシキを押し込むように、彼の部屋へと入った。後ろ手にドアを閉め、鍵をかける私を、シキが目を見開いて見ている。
「アイリス様・・・」
「シキ、ごめんね。でも、私・・・」
私は、シキに抱きついた。
シキの手は戸惑ったように、宙に浮いたままだ。
「アイリス様、ダメです。婚姻する、学園卒業までは・・・」
「ごめんね、シキ。子供の私ではシキがそんな気持ちになれないの、わかってるの。だけど、お願い・・・」
リリーナ様とセリア様を奪われたあたりから、絶望する心とは別に、私はある種の諦めを持ち始めていた。
そしてそれは、お兄様すら私から離れてしまったことで、確信となった。
マリエ様は、おそらく『魅了』を使っている。
かつての王子たちのように、シキまで『魅了』されたら・・・
どうして、こんなことになるのだろう。私が何をしたというのだ。
私は、ただ、大好きな人と幸せになりたかっただけだ。
前回までは、それがナルシス王子で、今回はシキだという、ただそれだけなのに。
もしも、シキが『魅了』されて、かつてのナルシス王子のように私を拒絶したら、私は全てを壊すつもりだ。
私に秘められている魔力が、どういうものなのかはわからない。火の魔力なのかもしれないし、水の魔力なのかもしれない。
人を傷つけるほどの威力があるのかも分からない。
だけど、刺し違えてもシキを殺して、私も死のう。シキだけは、誰にも渡さない。
そしてもう2度と繰り返したりしない。もし、ループして10歳に戻ったら、その時点で生を放棄するつもりだ。
だからー
もう2度と触れ合えないのなら、最後にシキに触れたい。
シキと想いを交わせたことは、きっと2度とあり得ない幸運なのだから。
「シキ、もう2度とこんな我儘言わない。だから、お願い。今日だけは私を拒絶しないで」
「アイリス様・・・俺は、貴女を大切にしたいんです」
「シキ、お願いだから・・・」
私の懇願に、私を引き離そうと肩に触れていたシキの手が、ぴくりと震えた。
「シキ、好きなの」
「アイリス様、俺もアイリス様を愛しています」
肩に触れていた手が、頬へと伸ばされ、ゆっくりと撫でられる。シキの、細くてひんやりとした手に瞼を閉じると、唇に優しいキスを贈られた。
「ふっ・・・んっ」
触れるだけのキスが、角度を変えながら段々と深くなっていく。
私はシキにしがみつくように、その薄いシャツを握りしめる。そうしていないと、膝から崩れ落ちてしまいそうだ。
シキは私の膝裏に手をまわすと、私を軽々と抱き上げる。そのまま、部屋の片隅にあるベッドへと優しく下ろした。
「シキ、私は貴方のもの」
「アイリス様・・・俺は貴女のものです」
ゆっくりと、シキが覆いかぶさってくる。重なる唇に、私は瞼を閉じたー
入浴も終えて、あとは眠るだけの時間になった頃、私は部屋の明かりを消した。
そうっとドアを開けて、あたりがシンと静まり返っているのを確認してから、夜着のまま廊下へと出る。
スリッパを履くと足音がしてしまうので、裸足のまま廊下を進む。
目的の部屋の前に着くと、ドアの隙間から漏れる明かりにホッとした。眠っていたらどうしようかと思った。
小さくドアを叩く。誰かが現れないかビクビクしながら待っていると、ドアがほんの少し開いた。
「あ・・・」
声を出そうとしたシキの口元を慌てて押さえる。
そして、そのままシキを押し込むように、彼の部屋へと入った。後ろ手にドアを閉め、鍵をかける私を、シキが目を見開いて見ている。
「アイリス様・・・」
「シキ、ごめんね。でも、私・・・」
私は、シキに抱きついた。
シキの手は戸惑ったように、宙に浮いたままだ。
「アイリス様、ダメです。婚姻する、学園卒業までは・・・」
「ごめんね、シキ。子供の私ではシキがそんな気持ちになれないの、わかってるの。だけど、お願い・・・」
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そしてそれは、お兄様すら私から離れてしまったことで、確信となった。
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どうして、こんなことになるのだろう。私が何をしたというのだ。
私は、ただ、大好きな人と幸せになりたかっただけだ。
前回までは、それがナルシス王子で、今回はシキだという、ただそれだけなのに。
もしも、シキが『魅了』されて、かつてのナルシス王子のように私を拒絶したら、私は全てを壊すつもりだ。
私に秘められている魔力が、どういうものなのかはわからない。火の魔力なのかもしれないし、水の魔力なのかもしれない。
人を傷つけるほどの威力があるのかも分からない。
だけど、刺し違えてもシキを殺して、私も死のう。シキだけは、誰にも渡さない。
そしてもう2度と繰り返したりしない。もし、ループして10歳に戻ったら、その時点で生を放棄するつもりだ。
だからー
もう2度と触れ合えないのなら、最後にシキに触れたい。
シキと想いを交わせたことは、きっと2度とあり得ない幸運なのだから。
「シキ、もう2度とこんな我儘言わない。だから、お願い。今日だけは私を拒絶しないで」
「アイリス様・・・俺は、貴女を大切にしたいんです」
「シキ、お願いだから・・・」
私の懇願に、私を引き離そうと肩に触れていたシキの手が、ぴくりと震えた。
「シキ、好きなの」
「アイリス様、俺もアイリス様を愛しています」
肩に触れていた手が、頬へと伸ばされ、ゆっくりと撫でられる。シキの、細くてひんやりとした手に瞼を閉じると、唇に優しいキスを贈られた。
「ふっ・・・んっ」
触れるだけのキスが、角度を変えながら段々と深くなっていく。
私はシキにしがみつくように、その薄いシャツを握りしめる。そうしていないと、膝から崩れ落ちてしまいそうだ。
シキは私の膝裏に手をまわすと、私を軽々と抱き上げる。そのまま、部屋の片隅にあるベッドへと優しく下ろした。
「シキ、私は貴方のもの」
「アイリス様・・・俺は貴女のものです」
ゆっくりと、シキが覆いかぶさってくる。重なる唇に、私は瞼を閉じたー
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