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イアンのお招き
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「……はぁ、疲れた」
イアンとの婚約発表が宮殿で行われた数日後、エミリアは侍女を伴い宮殿の広くて長い廊下を歩いていた。今日から王太子妃教育が始まったので、これから週に三回こうして宮殿まで勉強しに来る事になっている。
初日の今日は、エミリアの教育レベルがどれ程なのかをテストされた。座学は勿論の事、マナー、ダンスなど全てを教師達に審査されながら何とか終わった。
(まるである意味、全身人間ドックを受けたかの様だわ)
感触的にはどうやら及第点を貰えた様だった。これまで真面目に家庭教師と勉強して来て良かった。
(ん? よく考えたら勉強出来ない子だと思われて、王太子妃から外された方が良かったのかしら)
ふとそんな考えがよぎるが、それはなんか違う気がする。それに周りからそう思われるのは自分自身のプライドもあってイヤだ。
(やれる事は全力でやるだけですわ)
「リア、お疲れ様」
キラキラオーラを背負いながら廊下の奥からこちらへと近付いて来るのはまさしく王子様!! なイアンだ。ニコニコと王子スマイルを振りまかれて何故だか先程まで感じていた疲労感が軽くなった気がした。
(なんだ、治癒効力でもあるのかしら……)
「こんにちは、殿下」
「あぁ、今日のリアも抜群に可愛いね♡」
「あは……ありがとう御座います。殿下も今日もキラキラ眩しいですね」
「ん? キラキラ?」
「いえ、なんでもないです~うふっ」
(あのキラキラエフェクトは本人には見えてないのかしら、それともわたくしにだけ見えてるとか?)
こっそりと侍女に確認してみると彼女にも見えているとの事でちょっと安心した。
「この後少し時間いいかな? 婚約者になってから初めての登城だろう、私の部屋でお茶をご馳走させて欲しい」
「殿下のお部屋ですか? いいんですか、わたくしがお邪魔してしまって……」
「勿論だよ、私の部屋に招待する女性はリアだけだよ。大切な婚約者なんだから」
(うわぁ……何この特別感。こ、婚約者ってなんか凄い……)
王太子の私室……プライベートな空間に招かれる事がこんなにも緊張するものなのか。
「さぁ、行こう?」
そう言ってわたくしの手を握り、ゆっくりとした歩調で歩き出すイアン。
(あ……わたくしの歩調に合わせてくれてるんだわ)
それだけで胸がキュンとしてしまう。繋がれた手が暖かくて、なんだか恥ずかしくて……。
「今日一日ずっとテストだったらしいね」
「はい」
「それは大変だっただろう、甘い物も食べて疲れを取ろうね」
「お気遣いありがとう御座います」
会話をしながらも優しい眼差しをチラチラと向けてくれるイアンにドキドキが増していく。
(困ったな……好きになったら困るのに……。そんなに優しくしないでよ)
婚約破棄を願っている相手にドキドキしてる自分が嫌になる。だって嫌いになれる要素が何も見つからないのだ。絵本の中から出て来た王子様そのもので、エミリアの事をまるで宝物みたいに大切に扱ってくれて、好きという感情を隠すことなく真っ直ぐにぶつけられて。
(こんな素敵な人に嫌われる悪役令嬢って、一体何やらかしてるのかしら)
宮殿のかなり奥の方まで入り込んだ辺りから、廊下に配置されている兵士の数が増えた気がした。イアンはエミリアの手を繋いでどんどん奥へ奥へと進んで行く。途中で階段を上り、更に高級感が増した廊下の装飾に少しビビりながらイアンに連れられて辿り着いたのは重厚な分厚い扉の前だった。
部屋の扉の両サイドに立つ兵士が軽く頭を下げながらその扉を開いた。その更に奥に小さな小部屋があり、その奥にある扉が小部屋の中に居た兵士によって開け放たれた。
「どうぞ入って」
イアンに連れられるがまま部屋の中へと入るエミリアへ侍女が「私はここで待っております」と声を掛けて来た。そして小部屋から「いってらっしゃい」と合図を送ってきた。やはり王太子の私室は特別な人しか入ってはいけないのだろう。
初めて入る王太子の部屋はエミリアの部屋よりもずっと広さがあった。イアンの好みなのだろうか、年齢の割にかなり落ち着いた印象の部屋だ。調度品も派手さはないが高級感のあるものだと一目で分かる。机も執務にも使える様な大きくてどっしりとした物で、座り心地の良さそうな椅子がセットされている。
壁の一角には作り付けの書棚があり、先日訪れたパトリックの部屋で見た小難しい本なんて絵本かと思える程の分厚く読むのが大変そうな本が並べられている。そして年齢の割には勉強を頑張って来たエミリアでも読めない海外の文字や古代文字らしき物で書かれている本のタイトルがズラリと並んでていて度肝を抜かれた。
「こちらへおいで、リア」
部屋の様子に呆気に取られているとイアンにテラスの方へと来るように誘われた。バルコニーらしき所から扉を抜けて出てみると、そこは広いサンルームとなっていてお洒落なテーブルセットや読書を楽しめる様にかソファーセットも置かれている。
その一角に小さなキッチンが備え付けられていて、既にメイドがお茶の準備を始めていた。
従者がテーブルセットの椅子を引いてくれたので大人しくそこに座る。イアンも向かい側へと腰掛け、メイドの手によって熱々の紅茶と一口サイズの絞り出しクッキーが並べられた。
(うわぁ……なんだか夢の中に居るみたいですわ)
素敵な場所で至れり尽くせりの対応に目の前にはキラキラ眩しい王子様――。心なしかふわふわとした気分になってしまう。
イアンとの婚約発表が宮殿で行われた数日後、エミリアは侍女を伴い宮殿の広くて長い廊下を歩いていた。今日から王太子妃教育が始まったので、これから週に三回こうして宮殿まで勉強しに来る事になっている。
初日の今日は、エミリアの教育レベルがどれ程なのかをテストされた。座学は勿論の事、マナー、ダンスなど全てを教師達に審査されながら何とか終わった。
(まるである意味、全身人間ドックを受けたかの様だわ)
感触的にはどうやら及第点を貰えた様だった。これまで真面目に家庭教師と勉強して来て良かった。
(ん? よく考えたら勉強出来ない子だと思われて、王太子妃から外された方が良かったのかしら)
ふとそんな考えがよぎるが、それはなんか違う気がする。それに周りからそう思われるのは自分自身のプライドもあってイヤだ。
(やれる事は全力でやるだけですわ)
「リア、お疲れ様」
キラキラオーラを背負いながら廊下の奥からこちらへと近付いて来るのはまさしく王子様!! なイアンだ。ニコニコと王子スマイルを振りまかれて何故だか先程まで感じていた疲労感が軽くなった気がした。
(なんだ、治癒効力でもあるのかしら……)
「こんにちは、殿下」
「あぁ、今日のリアも抜群に可愛いね♡」
「あは……ありがとう御座います。殿下も今日もキラキラ眩しいですね」
「ん? キラキラ?」
「いえ、なんでもないです~うふっ」
(あのキラキラエフェクトは本人には見えてないのかしら、それともわたくしにだけ見えてるとか?)
こっそりと侍女に確認してみると彼女にも見えているとの事でちょっと安心した。
「この後少し時間いいかな? 婚約者になってから初めての登城だろう、私の部屋でお茶をご馳走させて欲しい」
「殿下のお部屋ですか? いいんですか、わたくしがお邪魔してしまって……」
「勿論だよ、私の部屋に招待する女性はリアだけだよ。大切な婚約者なんだから」
(うわぁ……何この特別感。こ、婚約者ってなんか凄い……)
王太子の私室……プライベートな空間に招かれる事がこんなにも緊張するものなのか。
「さぁ、行こう?」
そう言ってわたくしの手を握り、ゆっくりとした歩調で歩き出すイアン。
(あ……わたくしの歩調に合わせてくれてるんだわ)
それだけで胸がキュンとしてしまう。繋がれた手が暖かくて、なんだか恥ずかしくて……。
「今日一日ずっとテストだったらしいね」
「はい」
「それは大変だっただろう、甘い物も食べて疲れを取ろうね」
「お気遣いありがとう御座います」
会話をしながらも優しい眼差しをチラチラと向けてくれるイアンにドキドキが増していく。
(困ったな……好きになったら困るのに……。そんなに優しくしないでよ)
婚約破棄を願っている相手にドキドキしてる自分が嫌になる。だって嫌いになれる要素が何も見つからないのだ。絵本の中から出て来た王子様そのもので、エミリアの事をまるで宝物みたいに大切に扱ってくれて、好きという感情を隠すことなく真っ直ぐにぶつけられて。
(こんな素敵な人に嫌われる悪役令嬢って、一体何やらかしてるのかしら)
宮殿のかなり奥の方まで入り込んだ辺りから、廊下に配置されている兵士の数が増えた気がした。イアンはエミリアの手を繋いでどんどん奥へ奥へと進んで行く。途中で階段を上り、更に高級感が増した廊下の装飾に少しビビりながらイアンに連れられて辿り着いたのは重厚な分厚い扉の前だった。
部屋の扉の両サイドに立つ兵士が軽く頭を下げながらその扉を開いた。その更に奥に小さな小部屋があり、その奥にある扉が小部屋の中に居た兵士によって開け放たれた。
「どうぞ入って」
イアンに連れられるがまま部屋の中へと入るエミリアへ侍女が「私はここで待っております」と声を掛けて来た。そして小部屋から「いってらっしゃい」と合図を送ってきた。やはり王太子の私室は特別な人しか入ってはいけないのだろう。
初めて入る王太子の部屋はエミリアの部屋よりもずっと広さがあった。イアンの好みなのだろうか、年齢の割にかなり落ち着いた印象の部屋だ。調度品も派手さはないが高級感のあるものだと一目で分かる。机も執務にも使える様な大きくてどっしりとした物で、座り心地の良さそうな椅子がセットされている。
壁の一角には作り付けの書棚があり、先日訪れたパトリックの部屋で見た小難しい本なんて絵本かと思える程の分厚く読むのが大変そうな本が並べられている。そして年齢の割には勉強を頑張って来たエミリアでも読めない海外の文字や古代文字らしき物で書かれている本のタイトルがズラリと並んでていて度肝を抜かれた。
「こちらへおいで、リア」
部屋の様子に呆気に取られているとイアンにテラスの方へと来るように誘われた。バルコニーらしき所から扉を抜けて出てみると、そこは広いサンルームとなっていてお洒落なテーブルセットや読書を楽しめる様にかソファーセットも置かれている。
その一角に小さなキッチンが備え付けられていて、既にメイドがお茶の準備を始めていた。
従者がテーブルセットの椅子を引いてくれたので大人しくそこに座る。イアンも向かい側へと腰掛け、メイドの手によって熱々の紅茶と一口サイズの絞り出しクッキーが並べられた。
(うわぁ……なんだか夢の中に居るみたいですわ)
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