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第十話 逆ハーな昼食風景

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 なんとか午前中の授業は無事に終え、昼食の時間になった。いつもならわたくしは友人の令嬢達と一緒に食堂で昼食を取っていたのだが今はリアノラの姿である為、友人達と一緒にテーブルを囲むことは出来ない。そしてリアノラは確か、イーロイズ殿下を含めた逆ハーメンバー達と一緒に食堂に居た筈だ。

「昼飯に行こうぜ」

 隣の席のスベントがわたくしに声を掛けて来た。流れに身を任せて、スベントと共に食堂へと向かうと既にマーク以外のメンバーが勢揃いしてテーブルで待ち構えていた。イーロイズ殿下の横の席に座らされ、反対側にはスベント、それから殿下の向かい側には宰相を父に持つラインハルト・レッサム、わたくしの前が空席で(恐らくここがマークの席なのだろう)、スベントの向かい側には大商会の息子のモヒート・ゼインが座っている。

 う……このメンバーと一緒に昼食を取るだなんて緊張してしまいますわ。ただでさえイーロイズ殿下の隣りに座っているだけでも普段から緊張してしまいますのに、ここには殿方ばかり……。リアノラってある意味、凄い神経の持ち主ですわね。

「あれ……マークのヤツ、なんであんな所に居るんだ?」

 モヒートの声につられて思わず振り返って視線を辿ると、わたくしの姿をしたリアノラがわたくしの友人の令嬢達と一緒に囲んでいるテーブルに何故かマークも紛れ込んでいる。

「そういやさっきもマークはケシュクリー嬢に会いに来てたぜ?」

 スベントの答えに逆ハーメンバー達は不思議そうに首を傾げる。イーロイズ殿下だけは何やら意味深な笑みを浮かべてマークを見ている様だ。

「まぁ、マークは気まぐれだから好きにさせとけば良いよ」

 イーロイズ殿下の声を合図に「それもそうか」と意外とアッサリと納得して食事を始める面々。わたくしは何ともいえない気まずい空気の中、黙々と食事を口に運ぶ。逆ハーメンバーと仲良くした方が良いのは分かっているけど、何を話したら良いのか分からない。

「なんだかリアノラ、今日は大人しいね」

 モヒートがわたくしを不思議そうに見る。

「そ、そんな事……ないわ、よ」

 内心焦っている事を悟られない様に平静を装ってスープを口へと運ぶ。正直、緊張しすぎて食事の味なんて分からなくなっているのだけれど……美味しい振りをしながら食事を進めていく。

 ゲームでは攻略対象者との関わりは殆どがイベントを起こした時のシーンしか無いし、普段の会話だって選択肢の中からこれだと思うセリフや行動を選べば物語が進んでいく。だからこうやって普段の何気ない会話や行動を自分の頭で考えてしなきゃいけないこの現状は非常に困ってしまう。

 それにゲームの中だとは言っても、わたくしから見たらイーロイズ殿下もスベント様達も皆普通に生きている方々なのだ。ゲームみたいに何か失敗したからといってリセットする事も出来ない。そんな状況なのに、更には身体が入れ替わっているのだから難易度が高いったらありゃしない。

 ――無理ゲーってやつですわ。

 こんな状態を作り出した自称神様に悪態をつきたくなってしまう。殿方たちとの昼食を終えたわたくしは、あまりの疲労感に午後からの授業は医務室で休ませて貰う羽目になった。
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