異世界で料理を振る舞ったら、何故か巫女認定されましたけども——只今人生最大のモテ期到来中ですが!?——(改)

九日

文字の大きさ
27 / 68
第1章

26話―お別れは笑顔が理想です。

しおりを挟む
 厨房を覗いて見るが、誰もいないようだ。

「丁度良かった」

 折角ならサプライズにしたいところだけれど、それは多分難しいだろうな。仕込みの時間になれば皆んな来てしまうだろうし……
 いっそのこと別の部屋借りようかな。でも水回りが使えないのは厳しいな……
 一人でぶつぶつ言いながら考え込んでいると

「手伝うぞ」

 後ろから声が掛かった。
 驚いて振り返ると、入り口にはシェフ三人衆の姿がある。

「皆んな……」
「明日行っちゃうんでしょ? 寂しくなるよ」
「少しでも技術を盗んでおかないとな」
「また直ぐ帰ってくるんだろ? なぁえみ」

「やっぱり! ここに居ると思ったわ!」
「メアリ! ハンナさんも」
「ふふ。えみの事だから絶対最後に何かやる筈だって……大正解だったわね」

 どうやら私の考えなどお見通しだったみたいだ。

「ありがと……皆んな……」

 笑顔で言うつもりだったのに、皆んなの顔を見たら我慢なんか出来なかった。
 ポロポロと涙を零す私にメアリが抱きついてくる。

「元気でね! 絶対会いに行くから、忘れないでよね!!」
「うん……うん……絶対ねっ!」

 二人して涙を流す私達を見て、ハンナさんも目頭を押さえている。

「さぁ! 時間が無いわ!! 何からするのか教えてちょうだい」

 この数日、色々と考えてみたけれど、大勢でワイワイと言ったらBBQでしょう! 
 ビュッフェみたいにしても良いかと思ったけど、短時間である程度の品数を準備するのはちょっと大変。
 それなら下拵えも単純で、沢山準備出来る炭火焼きは持ってこいではなかろうか。
 実はソーセージを作っていた時から思ってたんだよね。これを炭で焼きてぇーなー、と!!
 と言う訳で、中庭でBBQします!
 野菜も肉も串刺しにしてばんばん焼いちゃます!
 鉄板で焼きそばとチーズフォンデュもやっちゃいましょう!!
 アルクさんにはいくつか想定して話してあったので、中庭で炭を起こす許可は貰ってある。皆んなが手伝ってくれるなら百人力だ!

 下拵えしておきたい物がいくつかあった。
 まずはメインの串だ。程良い大きさにカットした肉塊とティーギとコロンニを串刺しに。
 精肉業者さんがソーセージのお礼にと塊肉を奮発してくれたので、分厚いステーキも焼きたい。たっぷりのBPと、塩はちょっと良いヤツで。
 骨付きのバラ肉も塊で置いていってくれたので、スペアリブも外せない。醤油と酒、ケチャップに蜂蜜、おろしニンニクでしっかり揉み込み漬け込んでおく。これは食べ応えがありそうだ。
 炭火で焼いたソーセージはそのままでも良いけど、小さめのバターロールでホットドッグも良いかもしれない。
 アルミホイルで包んだじゃがいものような『トテフ』は、炭に放り込んでおけば出来ちゃうジャガバタならぬトテバタに。
 今日もポーチが大活躍だ。

 アヒージョや魚のホイル焼きもしたかったが、陸のど真ん中であるアルカン領では魚介類が手に入らなかった。
 そもそも魚や貝を食べる習慣が無さそうに思えた。今までの食事でそれら材料を見たことが無かったからだ。
 一度クラムチャウダーを作ったときにアサリの剥き身を使ったが、抵抗なく食べてくれていたのでおそらく大丈夫だとは思う。
 どうしても外したく無かったので、エビとキノコと鮭の下ごしらえはしておいた。もし使わなければ、ソラとワサビちゃんのお腹に入るだけだ。
 焼きそば用の野菜とお肉の準備も済ませ、デザート用のマシュマロをひとつずつ串に刺しておけば、ようやく全ての用意が整った。


 陽が落ち夕食の時間が近づく頃、中庭で炭を起こすとお屋敷中の人達に声を掛けてまわる。
 やがてぞろぞろと人が集まって来ると、徐々に充満していく香ばしい匂いに皆の表情が緩んでいく。

「皆さーん!  それぞれお皿を持ってお好きな物を取ってください!  形式は立食パーティーと一緒でーす」

 普段主人と共に食卓を囲む事の無い使用人達が困惑している。戸惑いからかざわざわしているところに、事情を知っていたアルクさんが軽く説明してくれた。

「明日、ここを立つ事になったえみが皆に世話になった礼にと、このサプライズパーティーを考えてくれたんだ。今夜は主従関係なく、皆に食事を楽しんで欲しい」

 大きな拍手が起こり、それが私へと向けられる。
 それだけで感極まってしまい、目の奥が熱くなった。

「えみ。皆に言葉を掛けてやってくれないか」

 アルクさんに誘われ、ひとつ大きく深呼吸した。頭のバンダナを外し、その場にいた人達を見回す。

「ここは、とても居心地が良くて……正直ずっと居たかったです。行き場の無かった私を優しく受け入れてくださった皆さんの事は、絶対に忘れません。沢山お世話になり……ありがとうございました。今夜はシェフの皆んなとハンナさんとメアリと一緒に、心からの感謝を込めて作らせてもらいました。どうぞ楽しんでください!!」

 深々とお辞儀をする。
 拍手はそれからしばらく鳴りやまず、私の頬を熱いものが伝って落ちた。


 BBQは皆んなの笑顔の中進行していった。
 アーワルドさんがシャンパンを開けてくれて、私もこちらの世界では飲める年齢に達していたので飲ませてもらった。アルコール初心者の私でも飲みやすい美味しいお酒だった。
 ワサビちゃんは眠そうな目を擦りながら、それでもお腹がはち切れそうになっている。眠気よりも食い気が勝ったようだ。
 ソラは『スペアリブ』がとても気に入ったようで、全然食べ足りないと言っていた。これはリピ決定だ。
 鷹の爪とニンニクと一緒にオリーブオイルで具材を煮込む『アヒージョ』は、シャンパンに良く合うおつまみになったようで意外にも好評だ。
 焼きマシュマロをチョコと一緒にビスケットで挟んだ『スモア』は特に女性達に大人気で、ビスケットを追加で何袋も出す羽目になった。
 料理を口にした人達が「美味しかった」「寂しくなる」と声を掛けてくれる。アルコールも入ってほろ酔い気分だった私は、ポロポロと涙が止まらなかった。
 別れは笑顔でと思っていたのに、想像以上にこのお屋敷の居心地が良くて、離れる寂しさに堪えているんだなと実感した。
 そんな様子をハインヘルトさんに見守られながら、私はお屋敷の皆んなとの最後の食事を楽しんでいた。



 シャンパンが良い具合に回ってきた頃、酔いを冷ますのも兼ねて庭の端でソラのブラッシングをしていた。
 ワサビちゃんは満腹になって満足したらしく、ソラの背中ですやすや眠っている。んー……天使。
 四聖獣や契約している場合は例外もあるみたいだが、精霊は基本的に陽の出ている時間しか活動しないらしい。確かに庭で見かける時はいつも明るい時間帯だ。
 逆に魔族は夜の方が活動が活発になる事が多いみたい。今は特に魔族の活動が活性化しているようで、昼間に襲撃される事も多くなっているようだけど。

「ソラ、また毛艶が良くなったんじゃない?」
「うむ。えみの魔素とそのブラシが合っているようだの」
「魔素が関係あるの?」
「人が栄養を取る為に食事をするように、精霊も聖獣も魔素を取り込む。それが力の源にもなるからな。魔素が合えば体も整う」
「私と契約する前はどうしてたの?」
「自然界から少しずつ貰っていた」
「へぇ。不思議」

 この世界はいろんな物が支え合って成り立っている。地球にいた頃よりもそれらの繋がりが良く分かる。
 それ程『魔力』という超パワー的な存在が、生活に密接しているからなんだろう。

「えみよ。おぬしももうその歯車のひとつだぞ」
「え?」

 ソラの金色の瞳に私が映る。
 鋭さの際立つその黄金は、時折優しい光を宿して向けられる。

「自分を余所者のように捉えておるかもしれぬが、えみの魔素が我とワサビを結びつけ、小僧どもの力を甦らせた。おぬしを起点に、既に歯車は噛み合っておる。えみはもはや余所者などでは無く、この世界の歯車のひとつとして認識されておるのだ。いい加減自覚するがよい」
「……———」

 余所者。
 なんとなく持っていた違和感をソラに指摘され、私は衝撃を受けていた。
 アルクさんやレンくんの気持ちに答え切れずにいたのも、シャルくんのプロポーズに困ったのも、自分が余所者だからと思ってどこか一線を引いていたからかもしれないとストンと落ちたのだ。

「そっか……私はもう地球には帰れない。異世界ここの住人なんだもんね……」
「そうだ。だから思う存分楽しめば良いのだ。何も気にせず自分の思う通りに進むが良い。次に死ぬ時に後悔が残らぬようにな」
「……うん……そっか。……そうだね……そうだよね! ありがとうソラ! 私、なんか分かった気がする」
「えみは大分鈍いからのぅ。他の奴よりも多目にヒントをやらんと気付かぬであろう」
「ソラ。そういう事は本人に言ったら傷つくものなんだよ?」

 ソラは楽しそうにククっと笑った。釣られて私もふふっと笑った。

 ソラが居てくれる。ワサビちゃんだって。
 アルクさんもレンくんも、今修行を頑張ってるシャルくんも。
 離れ離れにはなるけれど、ここにはメアリやハンナさん、シェフの皆んな、お屋敷で仲良くしてくれた皆んなもいる。
 一人じゃ無いからきっと大丈夫。
 私は、私に出来る事を一生懸命やっていく。
 改めて決意した私は、前の時よりもしっくり収まった気持ちに清々しさを感じていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます

碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」 そんな夫と 「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」 そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。 嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...