61 / 92
4 月音の能力(ちから)
9
しおりを挟む
+
「……誰かの家っすか?」
白桜と黒藤に連れてこられたそこは、住宅街のはずれにあるごく普通の家だった。
洋風と和風が混ざっている、古すぎず、かといって新しすぎる気配もない。
かかっている表札を見て、煌が「あっ」と、声をもらす。
「月音の家だ。確認しなければいけないことが出来たんだ」
「……? 確認?」
ここに至っても、煌には何も明かしてくれない白桜。
白桜と黒藤の雰囲気にいつもの軽い様子が全く見られないため、煌もどう口をはさんだらいいのかわからない。
あやかしに襲われた直後のことだ。月音に何かしら重大な問題が発生したのかもしれない。
……そう考えると、心臓が刹那、凍るかと思った。
月音は自分を護るために血を流した――未だにあの光景は、背筋が冷える。
……あんなこと、二度としてほしくない。
黒藤が、インターホンを押すのではなく、手のひらに載せた紙切れに息を吹きかけた。
それは光まとう蝶々になって家の中へ飛んで行った。
またしても見てしまった陰陽師の技。
煌はいい加減腹が据わってきた。
月音のことが心配なのは変わらないけれど、実際には今、おそらくどこより安全な御門邸内にかくまわれているのだ。
指の傷は白桜が治していたし、二人が動いているということは、危険なことになる前の先んじた行動のような気もする。
煌が無理やり自分を落ち着かせようと頑張っているとき、バタンッ! と、玄関扉が勢いよく開いた。
そこには、壮年の男性が真っ青な顔で門扉の前にいる白桜たちを見てきていた。
やさし気な面立ちで、ごつすぎもせずやわすぎもせずな体躯の男性が大きな声を出した。
「御門のご当主に小路の若君!? いかがされましたっ」
月音から、父と二人暮らしだということを聞いていたし、面差しに似通ったところがあるから、煌もこの人が月音の父だろうとわかった。
そういえば、月音の家からしたら、御門流と小路流は雲の上の存在、当主たる白桜と次代の黒藤は神様みたいだと、何度も聞かされていたことを思い出す。
となると、この人にとっても白桜と黒藤の来訪というのは衝撃的なのだろう。
「確認したいことがある。碧人(あおと)」
「な、なんでございましょうか……いえ、それより中へお入りください」
黒藤に呼び捨てにされても何も言わないどころか、緊張が増した感のある月音の父、碧人。
「……誰かの家っすか?」
白桜と黒藤に連れてこられたそこは、住宅街のはずれにあるごく普通の家だった。
洋風と和風が混ざっている、古すぎず、かといって新しすぎる気配もない。
かかっている表札を見て、煌が「あっ」と、声をもらす。
「月音の家だ。確認しなければいけないことが出来たんだ」
「……? 確認?」
ここに至っても、煌には何も明かしてくれない白桜。
白桜と黒藤の雰囲気にいつもの軽い様子が全く見られないため、煌もどう口をはさんだらいいのかわからない。
あやかしに襲われた直後のことだ。月音に何かしら重大な問題が発生したのかもしれない。
……そう考えると、心臓が刹那、凍るかと思った。
月音は自分を護るために血を流した――未だにあの光景は、背筋が冷える。
……あんなこと、二度としてほしくない。
黒藤が、インターホンを押すのではなく、手のひらに載せた紙切れに息を吹きかけた。
それは光まとう蝶々になって家の中へ飛んで行った。
またしても見てしまった陰陽師の技。
煌はいい加減腹が据わってきた。
月音のことが心配なのは変わらないけれど、実際には今、おそらくどこより安全な御門邸内にかくまわれているのだ。
指の傷は白桜が治していたし、二人が動いているということは、危険なことになる前の先んじた行動のような気もする。
煌が無理やり自分を落ち着かせようと頑張っているとき、バタンッ! と、玄関扉が勢いよく開いた。
そこには、壮年の男性が真っ青な顔で門扉の前にいる白桜たちを見てきていた。
やさし気な面立ちで、ごつすぎもせずやわすぎもせずな体躯の男性が大きな声を出した。
「御門のご当主に小路の若君!? いかがされましたっ」
月音から、父と二人暮らしだということを聞いていたし、面差しに似通ったところがあるから、煌もこの人が月音の父だろうとわかった。
そういえば、月音の家からしたら、御門流と小路流は雲の上の存在、当主たる白桜と次代の黒藤は神様みたいだと、何度も聞かされていたことを思い出す。
となると、この人にとっても白桜と黒藤の来訪というのは衝撃的なのだろう。
「確認したいことがある。碧人(あおと)」
「な、なんでございましょうか……いえ、それより中へお入りください」
黒藤に呼び捨てにされても何も言わないどころか、緊張が増した感のある月音の父、碧人。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜
香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。
――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。
そして今、王女として目の前にあるのは、
火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。
「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」
頼れない兄王太子に代わって、
家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す!
まだ魔法が当たり前ではないこの国で、
新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。
怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。
異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます!
*カクヨムにも投稿しています。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる