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3 舞弥、風邪をひく
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しおりを挟む手の甲に軽く口づけられ――壱の体は瞬時に熱を持った。
気恥ずかしさからの熱さなんでものじゃない。心臓が焼かれたように、全身を巡る血が沸騰したような感覚。
(な、なんだこれ……苦しい……っ)
だが、苦しかったのは一瞬だった。
思わず閉じた目を開ければ、先ほどまでとは違う位置に舞弥の顔があって、驚きに見開いた目で壱を見ていた。
「なんだ……今の……」
一瞬、体が燃えたかと思うような熱が襲ってきた。だが今はそんなものかけらもない。
「い、……壱?」
「どうした、舞弥」
「壱……人間になれたの……さっきの夢って、壱だったの?」
驚く舞弥は心なしか、さきほどより顔が赤く見える。
「え……?」
人間? いや、壱は呪いで人と同じ姿は取れなくなっていたはず――
ふと、舞弥の机の上の鏡を見ると、そこに映っていた和服をまとった男は、煌めくよう白髪(はくはつ)で、切れ長の目と薄い唇、少し甘やかに見える面差しの――
「呪いが解けてる!?!?!?」
壱が、『壱翁』と呼ばれていた頃の姿だった。
「呪い? 壱、呪われてたのっ?」
舞弥が素っ頓狂な声をあげる。
壱はまだ信じられない心地で舞弥を見返す。
「あ、ああ……俺は本来はたぬきのあやかしではなくて、これが俺のあやかしとしての姿だった。それが……呪いを受けてたぬきの姿になって、この姿は……どのくらいぶりだろう……千年? 二千年?」
「そんなに呪われてたの!? な、なんでそんなものが急に解けたの……?」
「それは――」
言いかけて、壱は口をつぐんだ。
それを言ってしまえば、自分の舞弥への気持ちを認めたと同時に、舞弥が口にしていない舞弥の心を暴いてしまうことになる。
「……たぶん、今までのどこかでの呪いを解く条件をクリアしていたのだと思う」
ぼかした言い方になってしまったが、嘘ではなかった。
「呪いを解く条件……?」
「舞弥、その……礼を言わせてほしい。俺一人では解けるものではなかったから」
「でも私、何もしてないよ? 玉には解けなかったの?」
痛いところをつかれて、壱は一瞬固まった。
「玉には一生かかっても解けないと思う」
「割と辛辣。……髪の色が白いから、たぬきの姿も白かったのかな?」
そっと、舞弥が壱の髪に触れてきた。
ドキッと跳ねた壱の心臓。
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