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四 偽モノの、婚約者ができました。

side咲桜1

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「咲桜、なんか言いたいことある?」


笑満が、可愛い大きな瞳を何度か瞬かせながらこそっと訊いて来た。


いつもの休み時間。私と笑満は窓際の頼の机の周りに集まる。


頼は大概机に突っ伏して寝ているので話に参加はしないけど、小学校からの習慣だった。


私は内心、「あー」と唸ってから答えた。


「……わかる?」


「うん。何? トラブル発生? 頼がまたなんかやったの?」


眉根を寄せて心配顔の笑満に、私は目線をおろした。


頼は、笑満より先に友達になった奴だけど、こういう言い方をされてしまう奴なのだ。


そして疑われても机に伏したまま微動だにしない。神経図太いんだよなあ。


秘密を抱えてしまった私の目線は泳ぐ。


「頼ではないんだけど……」


「頼みたいなのに狙われたとか?」


「……とも違って……。父さん絡みというか……ちょっとややこしい話になるから、今日うち寄ってもらってもいい?」


「あたしが聞いて大丈夫な話なの?」


笑満のくりっとした瞳に不審の色が過る。
 

小学校から友達の笑満は、私の父さんが警察官だと知っている。


その在義父さんの方針で、父さんの職業はあまり言わないようにと育てられているのも承知してくれている。


だから、私の父が警察官で――しかも県警のトップというのは、教師を除けば、学校内では小学校来の親友である笑満と頼しか知らない。


「私が笑満に隠し事出来ると思う?」

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