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五 じゃあ、もらおうか。

side咲桜9

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全然慌てていない先生の様子に、また驚く。


そんな落ち着いている場合じゃないですよ! けど今、『遙音』って名前で呼んだ……?


「冷てーな、神宮。俺だって誰に告げ口するわけじゃないんだから、話してくれてよかったのに」


夏島先輩は資料室に足を踏み入れ、先生の机に手をついた。その間、私も笑満も動けなかった。


「お前に言ったら降渡や吹雪に筒抜けになるじゃないか」


「あ? あいつらには言ってねーの?」


「………」


先生が黙った。言わなくても知られる、って言っていた二人って、昨日逢った吹雪さんと降渡さんのことだったの?


「えーと、華取咲桜と松生笑満ちゃん?」


夏島先輩がこちらを見てにっこり笑った。


「は、はい……」


私は怖々反応する。夏島先輩は先生の知り合い? 降渡さんや吹雪さんの名前も出ていたし……。


夏島先輩は、私たちに向かって挨拶してきた。


「ハジメマシテー。神宮の知り合いだから警戒しなくていいよ」


「知り合い? 夏島先輩と……?」


私がそろりと先生を見ると、先生は軽く息を吐いた。


「……こいつが小学生の頃からの知り合いだ。口外することもないだろうから、心配しなくていい」


そうなんだ……。先輩は一つ上だから……先生が高校生くらいからの知り合いってことになるのかな?


「えー、神宮ってそんなに俺のこと信頼してくれてんの? 嬉しいねー。でも俺のことそんな風に思っていいわけ?」


「……お前は本当に降渡に似て来たな」


ため息をつきながら冊子でぺしりと夏島先輩の額を叩く。


「先生、いいんですか……?」

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