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九 たまにでいいから、こうしてもいいか?

side咲桜2

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「咲桜笑満―、バスケのお誘いだけど行くー?」

「行く!」

昼休み、友人からかかった召集に、笑満と揃って肯いた。頼は今日も机に突っ伏している。

体育館に向かって廊下を進んでいると、眼鏡の神宮先生がやってきた。

「神宮先生」

私が声をかける。この程度の会話は、どの先生とも日常だから、変に思われることもないはずだ。すると先生――流夜くんは、少し困ったように微笑んだ。『神宮先生』の顔だ。笑満も立ち止まる。

「次うちらの授業ですよね」

「そうですよ。けど華取さん。またやりましたね」

「え、なにを――うっ」

ファイルの端から見せられたそれ。小テストのプリントだ。紅い字で『名前を書きましょう』と書かれている。小学生の答案のような文句に、咲桜は固まった。またやった……。私は、小学生の頃からテストなんかで名前の書き忘れをよくしていた。

「これ専用の補習でもいりますか?」

「……気を付けます」

「そうしてください」

『神宮先生』とは、それだけの会話ですれ違う。

なんで書き忘れるかなあ。

「咲桜、気にしなくていいと思うよ。これからは」

「? なんで?」

「だってあれ、流夜くんと逢う前のテストでしょ?」

「うん? あー、そうだね。……なんでこれからは書き忘れない、みたいに言えるの?」

「あたしが咲桜の親友だからかなー?」

「ど、どういう意味っ?」

泡喰った私を、笑満は「どういう意味だろうねー」と軽くあしらっていく。そりゃあ、流夜くんが名前で呼んでくれたのは嬉しかったけど……。

………。

思わず、ちらっと振り返った。

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