悪役キャラに転生したので破滅ルートを死ぬ気で回避しようと思っていたのに、何故か勇者に攻略されそうです

菫城 珪

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11 前途多難な門出

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11  前途多難な門出

 入寮日からあっという間に2日経った。
 同じ寮の上級生達からオリエンテーションとして学園内を案内してもらって実感したんだけど、やはりゲームではだいぶ学園の構造が簡略化されていたみたいだ。
 ゲームでは決まったフロア、決まった部屋にしか入れなかった。しかし、実際には教室はたくさんあるし、ゲーム内では描写のなかったものも山ほどある。
 馬鹿みたいに広い校舎は移動するだけでもなかなか運動になるし、時間割によっては校舎の端から端まで走る羽目になるらしい。うんざりした様子で教えてくれた上級生は俺と同じく魔法使いの家系なんだそうで、体力のなさを痛感しているようだ。俺も正直広過ぎて気が重い。
 成長しても相変わらず体力はないし、貧弱なままだ。食べても運動しても肉がつかないから最近はすっかり諦めモードに入りつつある。いざとなったらブラッドに抱えて運んでもらおう。あいつなら余裕だろ。
 一通り回ってやっと自由時間が出来たのは入学式前日の夕方だった。校舎内を歩き回って疲労困憊の俺は再びベッドにダイブしてダラダラタイムを堪能している。
 明日の入学式が終わればいよいよ授業の始まりだ。勉強については正直そこまで不安はない。何故なら領地でみっちり仕込まれたからな。問題は王都近郊の貴族との確執の方だ。
 同じく辺境から出て来た友人が、今日早速「洗礼」を受けたのだ。
 ブラッドと一緒に校内を回っていると中庭で喧騒があって野次馬として見に行った。そしたら、友人達と王都貴族とで喧嘩の真っ最中だったのだ。
 友人は頭からずぶ濡れの状態で、ちょうど身なりの綺麗な子に飛び蹴りを入れる場面だった。そのシーンに出会した俺とブラッドは流石に面食らった。それはそれは綺麗な飛び蹴りだったからだ。
 辺境で鍛えられた友人の飛び蹴りをくらった子は、これまた手本のように綺麗に吹っ飛んで噴水に頭から突っ込んで全身びしょ濡れ。
 お互いの取り巻き達はそれを見てヒートアップして言い争いを始めて…という状況に俺とブラッドは慌てて中庭に飛び出した。ブラッドは王都貴族を、俺が辺境貴族の子達を宥めつつ話を聞くとどうやら先に手を出して来たのは相手のようだ。
 背後から水をぶっかけられたと憤慨しているが、流石にやりかえし方が派手すぎた。被害者ヅラしている王都組の方はずぶ濡れの子を宥めている。そっちのは自業自得だろうに。
 とはいえ、だ。辺境を統括している家の子供としてこの状況は捨て置けない。一応ブラッドと二人で仲裁に入ったんだけど、結果的に言えばその場は悪化しただけで終わった。
 騒ぎを聞きつけた上級生や先生によって場はやっとおさまったが、去り際にリーダーと思しき赤髪の子からめっちゃ睨まれていたのでこのまま終わるとは思えない。
 枕を抱き締めながら深い溜め息をついて明日の入学式に思いを馳せる。ただでさえ魔王復活とかでストレスを被っているのに、それ以外で面倒くさい事はしたくないし巻き込まれたくもない。
 俺はのんびり学園生活を送りたいだけだ。出来る事なら俺個人は人との関わりは最低限にしたいし、今のところアーサーにも接触するつもりはない。しかし、相手の方から仕掛けてくるなら対応しない訳にはいかない。
 まだ始まってすらいない学園生活の展望に、俺は深い溜め息を零すしか出来なかった。

 そして、翌日。
 いよいよ入学式だ。日本のように桜が咲いているわけでも保護者同伴なわけでもないからちょっと違和感を感じながらも俺とブラッド、辺境周辺の貴族子息達は真新しい制服に身を包んで講堂に集まっていた。
 これからの生活への不安とそれ以上の期待や楽しみに皆いつもより浮き足立っているように思う。俺は微妙に気が重いながらも直ぐに思考を切り替える。今日は兄様の晴れ舞台でもあるのだから。
 式では校長の話と在校生、入学生それぞれの代表が挨拶するんだけど、今年の在校生代表には俺の兄であるティモシーが選ばれたのだ。
 久方振りに兄様に会えるのは楽しみだし、晴れ姿を見られるのも嬉しい。来られなかった父様からも「私の分までしっかり見てきてくれ」と頼まれているのでしっかりばっちり目に焼き付けて手紙に詳細に書いて送るつもりだ。
 そんな訳でルンルン気分で自分の席に座っているんだが、隣に座っているブラッドや周りの友人達は朝から何か言いたそうにそわそわしている。
「……ノア。その格好はなんだ?」
 ついに意を決したように代表してブラッドが話し掛けてきた。
「何って……変装に決まってるだろ」
 ブラッドや友人達が困惑する理由もまあわかる。
 今の俺は身につけたこともない分厚いガラスの伊達メガネを掛けているし、いつも一つに結んでいた長い髪をわざとボサボサにしているからだ。
「俺は学園では目立たず平和に過ごしたいんだよ」
 これなら目立たないだろうと得意げにしてみれば、ブラッドや友人達が呆れたように溜め息をついた。
「逆効果だと思うぞ」
 なんでだよ。無駄に目立つ容姿を封印する為に厚いガラスのメガネして、長い銀髪だってわざとボサボサに。猫背気味にして歩く時は隅っこ。完璧な変装だろ!!
「貴族が通う学校なんだ、そんな格好だと逆に悪目立ちするぞ」
「マジでか」
「マジで」
 呆れた様子のブラッドの言葉に愕然とし、俺は頭を抱えた。目立たずに過ごす作戦がいきなり頓挫してしまった。どうすりゃいいんだ。
「変な奴に絡まれたくなくて一生懸命考えて用意したのに! それに目立ったら絶対他の貴族が絡んでくるだろ!? 俺には貴族らしいやり取りとか絶対に無理!」
 礼儀作法は叩き込まれたが、お貴族様のドス黒いやり取りなんか俺には絶対無理だし、出来ればそういう面倒事は全力で避けたい。俺の将来の夢は田舎の領地で悠々自適のスローライフだ。王都で政権争いに巻き込まれるとかやれ誰それの派閥がどうのこうのだなんてやり取りは御免蒙る。そういうのは得意な人がやって欲しい。
「確かにノア様はそういうの向いてないよな」
「なー」
「でも、辺境を代表するってなったら絶対俺かブラッドが名指しされるに決まってるじゃん」
 頷きながら同意する友人達を恨みがましく見るが、さっと目を逸らされた。仕方ないとはいえ、薄情な連中め。
 とりあえずメガネだけはかけたまま髪を軽く手櫛で直しつつ、今後どうするか考える。乱したせいで髪が絡まって指に引っかかって少々痛い。
 しかし、碌なアイディアが浮かばぬままに無情にも入学式は始まってしまった。うーん、マジでどうしよう。
 少々退屈な校長や来賓の長いながい挨拶の後はいよいよ兄様の出番だ。生徒会にも下っ端として所属したと手紙に書いていて今回は準備に奔走していたらしい。
 ワクワクしながら待っていれば、ついに兄様が出て来た。壇上に上がるのは俺に良く似た銀色の髪とサファイアみたいな真っ青な瞳の美少年だ。最後に会った時より少し身長も伸びているのかもしれない。
 真っ直ぐに伸びた背筋、ピシッと着込んだ制服が良く似合っている。ティモシーはいつだって俺の自慢の兄だ。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。在校生を代表し、心よりお祝い申し上げます……」
 穏やかな声でゆっくり在校生の挨拶を述べる兄の姿を見つめていると、不意に壇上の兄と目が合った。向こうも俺に気がついたのか、一瞬だが、確かに目を細めたのが見える。今年の冬休みに、兄様は帰って来れなかったから元気そうな姿を見るのも久々で嬉しい。
 今回兄様が戻って来れなかったのは季節外れの長雨で道が崩れたせいだ。普段ならばこの時期は乾季で滅多に大雨なんて降らないのに、突如襲った豪雨によって道がいくつも寸断されてしまった。
 被害は甚大で、飢饉とまではいかないが、食糧の値上がりは避けられなかったし、物流も滞った事で辺境周辺はそれなりにダメージを受けている。大きな街道は概ね修復されたが、場所によってはまだ復興も手付かずになっているようだ。父様とブラッドの父親が仲良く頭を抱えていたからな。
 魔王復活が近付いているせいなのか、最近国のあちらこちらでこういった異常気象が起きているらしい。天候不良というのは恐ろしいもので、一度荒れれば何もかもに影響を及ぼし生活を脅かす。これがもし魔王側の侵略の一環だとしたら効果は抜群だ。
 兄様の挨拶を聞きながら俺は先の事に思いを馳せる。アーサーが勇者として旅立ち、魔王を倒すまでこういった事が続くのだろう。
 だったら、俺は少しでも被害を減らしたい。その為にはどうにかしてもっと協力者を増やしたいところなんだが、どうやったもんか。
 ない頭を捻りながら考えているうちに、兄様の挨拶が終わってしまった。最後に俺の方を見て小さく微笑んでくれたのが見えて思わず和む。兄様には後で挨拶に行こう。
 そして、続くのは新入生の挨拶だ。兄様ではしゃいでいたが、続いて壇上に上がった少年を見て俺は目を見開く羽目になる。
 昨日友人に洗礼を浴びせ掛けた連中のうち、こちらを睨み付けてきた赤髪の少年の姿が、壇上にあったのだ。
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