【完結】柔道の先生 R_18

31アイスクリーム

文字の大きさ
36 / 65
第四章 それぞれの教師の在り方

2.短い会話

しおりを挟む
柔道場は、いつもの活気を取り戻せずにいた。
乱取りの掛け声も、畳に響く足音も、どこか空虚で、仲間たちの笑い声が途切れがちだった。
鈴木の姿がない。
それだけで、道場全体が色褪せたように感じる。

鈴木が学校に来なくなって1週間。
玉井は稽古中に声を荒げる回数が減った。
まるで、何かを飲み込むように黙々と技を指導している。
あいつの心のどこかに、鈴木の不在が重くのしかかっているのが分かる。俺も同じだ。
あいつの目が、道場の隅を彷徨うように動くのを見ると、俺はもう一度玉井と話さなきゃいけないと思った。
あいつの本心を、聞かなきゃいけない。

夕暮れの柔道場、片付けを終えた後、俺は玉井を呼び止めた。「玉井、ちょっと話がある。」
玉井は道着の袖を直しながら、振り返る。
180センチの熊のような巨体が、薄暗い道場の灯りに照らされて、いつもより大きく見えた。

「山谷。何だ?」
声はいつものように低く、どこか疲れている。
俺は一瞬言葉に詰まった。
だが、多くを語る気はない。
玉井も、そういう男だ。

「鈴木のことだ。」
俺は短く切り出した。
玉井の眉がピクリと動く。
だが、すぐに目を細め、畳に視線を落とした。

「…あいつ、まだ学校に来ねぇのか。」
声には、抑えた重さがあった。
俺は頷き、胸の奥で渦巻く後悔を押し殺す。

「林先生から聞いた。加賀山のいじめが原因らしい。玉井、お前との噂も…関係してるかもしれねぇ。」
玉井の目が一瞬鋭くなり、俺を見据えた。探るような視線。
だが、すぐに肩をすくめ、軽く息を吐く。

「噂、ね。ガキどもの戯言だろ。」
その口調は軽いが、どこか無理に明るくしているように聞こえた。

「戯言じゃねぇ。」
俺の声が、思わず低くなる。

「鈴木は…あいつ、教室で加賀山に追い詰められて、泣いてたんだ。俺が止めに入ったけど...」
玉井の手が、道着の帯を握るように固まる。
沈黙が道場に落ち、畳の匂いが一層濃く感じられた。
俺は続ける。

「お前、鈴木に何か…特別な思いがあるなら、ちゃんと向き合え。教師としてだ。」
玉井はしばらく黙っていた。
道場の窓から差し込む夕陽が、玉井の顔に長い影を刻む。
やがて、ゆっくりと口を開いた。

「…わかった。加賀山は、俺がなんとかする」
その声は低く、静かだったが、どこか揺るがない決意が滲んでいた。

「でも、鈴木のことは…俺じゃダメだ、山谷、頼む」
その言葉に、俺の胸が締め付けられた。
玉井の「頼む」という一言に、俺は初めてあいつの本心を見た気がした。

「…分かった。」
俺は短く答え、玉井と目を合わせた。
多くを語る必要はなかった。

玉井は小さく頷き、道着を脱いでロッカーにしまう。
背中越しに、俺は言う。

「玉井、鈴木はきっと戻ってくるよ。」

玉井は振り返らず、ただ小さく笑った。
「ああ。知ってる...」
その声は、鈴木への信頼と、どこか深い痛みを抱えていた。

俺は道場を出て、夕暮れの校庭を歩いた。
鈴木の家を訪ねる決意が、俺の胸の中で固まった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

水泳部合宿

RIKUTO
BL
とある田舎の高校にかよう目立たない男子高校生は、快活な水泳部員に半ば強引に合宿に参加する。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

処理中です...