【完結】柔道の先生 R_18

31アイスクリーム

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第三章 くまの仮面と堕ちる純真

17.師弟

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目を覚ました瞬間、隣に玉井先生の姿がないことに気づいた。

ベッドの隣、シーツに残る凹んだ跡。

まだほのかに温かい。玉井先生のいた場所だ。
僕はそっと寝返りを打ち、その場所に体を滑らせた。

布団を被ると、玉井先生の匂いがふわりと鼻をくすぐる。
お風呂の石鹸の清潔な香りに、ほのかな汗と、昨夜の行為の名残である生々しい精液の匂いが混じる。

背徳感と、どこか心地よい安心感が混ざり合う。
この温もりに包まれていると、昨夜のドキドキがまだ体に残っているみたいだった。
しばらくして、ドアが開く音がした。
玉井先生が戻ってきた。ベッドの端に腰掛け、マットレスがわずかに沈む。

「起きたのか、鈴木。どうだ? ちょっとはよくなったか?」 
玉井先生の声は低く、柔らかだった。
道場での厳しい声とは違う、どこか親しげな響き。

「うん…」
僕はまだ頭があの薬でふんわりしていた。
けど、布団の中で小さく頷いた。

「よし、じゃあ飯食え。」

玉井先生が立ち上がり、キッチンから持ってきた朝食をテーブルに並べる。

炊き立てのご飯、豆腐とワカメの味噌汁、目玉焼きにウインナー、ヨーグルト、デザートに真っ赤なイチゴまで。

「え!こんなに?」
「お前が何食うかわかんねぇから、さっき買ってきたんだ。残すなよ?」
玉井先生の声には、照れ隠しのようなぶっきらぼうさがあった。
僕はテーブルにつき、モリモリと食べ始めた。
お茶碗があっという間に空っぽになる。

「まだ食うか?」
「食べる!」
ご飯をおかわりすると、玉井先生も楽しそうに箸を動かす。

「お前見てると、こっちまで腹減ってくるな。」
そう言って玉井先生もおかわりした。

「まだまだでっかくなれよ、鈴木。柔道、もっと強くなれるぞ。」
「玉井先生みたいに?」

僕がそういうと「へっ...」と先生が小さく笑って目を細めた。
目の前でご飯を頬張る玉井先生は、どこか人間らしくて、親しみやすかった。
尊敬する先生のこの一面、こんな優しい瞬間を知ってしまったことが、なんだか嬉しい。

食事を終え、僕が食器をシンクに運ぼうと立ち上がると、玉井先生が「ほっとけ、俺がやる」と手を振った。
僕はまた少し照れながらテーブルに座り直し、ふと部屋を見回した。
柔道のトロフィーや道着が畳まれた棚が目に入る。
道場と同じ匂い、汗と畳の香りがほのかに漂う。


この部屋で過ごした一夜が、夢みたいで、でもあまりにもリアルだった。


ずっと、こうしてたい。


「鈴木、そろそろ...行くか。」 
「うん...」


声は穏やかだったが、どこか重い響きがあった。
僕は頷いて、靴を履くために玄関に向かった。

玉井先生が後ろからついてくる。
玄関の冷たいタイルに立つと、ふと振り返った。
玉井先生の大きな体が、そこにあった。


「もうしばらくは、これっきりだ、鈴木。」


その言葉に、心が凍りついた。


「......え?」


「俺からは、離れろ。」


「どう、して…?」 


山谷先生に突き放された過去が頭をよぎった。
またあの寂しい思いが込み上げて、目に涙が滲んでくる。


「バカ、勘違いすんな。嫌いになったとかじゃねぇ。」
「じゃあなんで!?」


ムッとした顔で先生を見上げた。
ポロポロと涙が落ちていく。
それでも、ぼやける先生の顔を強く見つめる。


「だって!僕は!玉井先生こと...」


玉井先生が何かを言おうとして、言葉を詰まらせる。
鈴木の涙を見つめる瞳に、抑えきれない痛みがちらついた。


「そんな顔すんな鈴木...」
額に浮かんだ汗を拭うように手を動かし、目を閉じた。


「...やっとわかったんだよ。俺も、お前が大事なんだ。」


その言葉は、道場での玉井先生の厳しさと、昨夜の親密さを両方抱えているようだった。

初めて玉井先生が抱きしめてくれた日の記憶が蘇る。
道場で1人で立ち尽くしていたとき、そっと肩に手をかけてくれたあの瞬間。

胸の奥で、何かが熱くなる。
離れろと言われたのに、なぜか玉井先生の温もりが今まで以上に近く感じられた。

「でも、俺たちは師匠と弟子だ。世間の目もある。」
玉井先生の声は一瞬鋭くなり、すぐに柔らかくなった。


「それでも、お前が大事なんだ。…だから、学校じゃ普通にしとけ。柔道で、もっと強くなろうぜ。」 


僕はたまらず玉井先生に抱きついた。
柔道着越しに何度も感じた、先生の硬い胸板。
今は柔らかいシャツ越しに、温かい体温が伝わる。
玉井先生の手が僕の背中を叩き、そっと髪を撫でる。


「どうして…?男同士はダメなの?」 


涙が頬を伝って玉井先生のシャツに染み込む。
言葉が喉に詰まり、嗚咽になる。
社会の目、先生と生徒の境界も全部がぐちゃぐちゃになって、ただ泣くことしかできない。
玉井先生の腕が一瞬強くなり、ぎゅっと抱きしめた。

「ダメなんかじゃねぇ」

すぐにその腕が緩み、玉井先生は一歩下がった。
肩に大きな手が置かれ、柔道の投げ技のような力強さで、でも優しく支える。
玉井先生の顔は、道場で見るあの厳しい表情に戻っていた。
でも、その目には何か深い、柔らかい光があった。
沈黙が数秒続き、僕の涙がポタポタと床に落ちる音だけが響く。


「胸を張れ。お前は間違ってねぇ。」


玉井先生の声は低く、真剣だった。
いつも技を指導するときの、迷いのない声。
涙でぼやけた視界で玉井先生を見る。
玉井先生の顔は、汗と畳の匂いにまみれた道場での力強い姿と重なる。

僕は小さく頷き、玉井先生の胸に額を押し付けた。
先生の匂いと温もりに包まれ、初めて胸の奥にあった重いものが少し軽くなるのを感じた。

「でも、学校じゃ、いい子にしてろ。な?」
玉井先生が言う。

「道場で会ったら、俺とお前は師匠と弟子だ。柔道で、もっと強くなろうぜ。約束だ。」
玉井先生の手が僕の背中を軽く叩き、力強く、でも優しく抱きしめる。
僕は目を閉じ、その腕の中で小さく頷いた。

「...うん」

涙を拭い、玄関を後にした。


自宅の前に着くと、背後で玉井先生が静かに見送る気配が感じられた。

離れていても、先生の温もりがそばにあるようだった。
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