白夜のからくりハウス

夕凪

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異形の村

Bloody sin

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 どうして?アスターはショックで動きの悪い脳に鞭を打った。こんなつもりじゃなかった。ただ、できるだけ穏便に戦いを終わらせて、対話をしたかっただけなのに。これといった死因も見当たらない。舌を噛んだとか、そういった外傷は一切見当たらなかった。でも、現に彼女は息をしていない。哀しげな表情のまま死んでいる。まるで、老衰だ。
 老衰。アスターははっとした。普通の人間の寿命をとうに超えていたこの村の住人たちは、すぐにでも死ねる体になっていたのかもしれない。本人が望みさえすれば。
 次々と湧いてくる考えをアスターは一旦振り払った。ソーニャに合流しなければ。
「この村は何かおかしい。とにかく、生きて帰ろう」
 ソーニャの言葉を思い出しながら、アスターはゆっくりと動いた。
 そのとき、脇で何かが光った。金属めいた、光沢のある輝きだった。

「本気ですか?」
「冗談です」
 ソーニャは微笑んだ。周りの住人たちの間に、薄い笑いが生まれた。
 狩人は、獲物の言うことを信じてはいけない。獲物はえてして嘘をつくからな。
 あの老人に教えてもらった言葉を思い出しながら、隙の生まれた異形たちの懐にソーニャは飛び込んだ。ナイフで急所を突いていく。何も考えずに、ソーニャは動いた。苦しみの声とともに飛んでくる奇妙な攻撃を避ける。突く。斬る。その繰り返しでただ筋肉を動かす。
 その場に立ち尽くすのがソーニャだけとなるのに、そんなに時間はかからなかった。皆、息の根を止めていた。そのことには、何も感じなかった。何も感じたくなかった。
「なるほど。軽口というわけではなかったようですね」
 まだ生きていたのか。ソーニャは緩慢に振り向いた。途端に、銃声が響いた。足に熱い鈍痛が走る。ずきずきとそこから痛みが広がるのを感じながら、ソーニャは血にまみれた椅子に倒れかかった。銃弾をまともに受けたのなんて久々だ。とても立ってなどいられない。
「銃、持ってたのか…」
 ソーニャは誰にともなくつぶやいた。完全に油断していた。平和ボケしていたのだろうか。前なら気がついたはずだったのに。
「切り札は、最後まで隠しておくものです。もう、うろちょろと動き回れませんね」
 ツクモが立ち上がった。血が全身についているが、大怪我を負っている様子はない。上手く死んだふりをしていたようだ。こっちに向けられている、鈍く光る銃口が眩しかった。
「何か言い残すことは?」
「油断大敵かな」
 ツクモがふっと笑った。笑ったように見えた。
「そうですか」
 怖くはなかった。死は、人を殺してきた者に対する当然の報いだ。ただ、悔しかった。結局、妹を助けてはやれなかった。本当に、ごめん。ソーニャはため息をついた。そして、目を閉じた。もう、何も見たくなかった。
 銃声が響いた。
 しかし、痛みが襲ってこない。ソーニャは眉をひそめながら、目を開けた。顔を上げる。
 暗い紅蓮の瞳をした少女が、銃を手に立っていた。

「アスター?」
 アスターはソーニャの声で、はっと我に返った。
「わたし、何を…」
 そうだ、自分は何をしていたんだ?熱病のときのように、意識がぼんやりとしていた。ただ、ソーニャを助けなければと思っていただけだ。
「…ツクモを殺した」
 ソーニャがぽつりぽつりと答えた。
「それも見事な精度だ。即死だっただろうな。…あんた、銃の使い方、習ったことあるのか?」
 アスターは首を振った。こんなにも躊躇なく人を殺せる自分を受け入れたくなかった。この血まみれの歓迎会の様子も、倒れている異形の住人たちの姿も、何もかも。
 思わず叫んでしまった。
「来なきゃ良かった!そうすれば、みんな死ななくて済んだのに!わたしがこの村を壊したんだ」
 アスターは自分が泣いていることに気がついた。罪悪感と信じたくない気持ちと悲しみが入り混じったような感情が心の中で渦巻いて、ぐちゃぐちゃになっているせいだ。もう、何も見たくなかった。アスターは銃を自分にゆっくりと向けた。いっそのこと、もう…。
「やめろ!」
 ソーニャが叫んだ。いつのまにか立ち上がっていて、腕を掴まれていた。
「こんなところで死んでも、誰への謝罪にもならねぇよ。とにかく、オレたちは生きるんだ。わかったか?」
 ソーニャの迫力に、アスターは顔を上げた。彼の言葉には何の説得力もなかったけれど、びっくりするくらいすぐに体が銃を捨てていた。そうだ、自分は本当は生きたかったのだと、今初めて実感した。こんな惨状を引き起こしておいた自分が言える言葉ではない気がするけれど、真実だった。
 そのとき、ソーニャがふらついた、と思った途端、ばたりと芝生に倒れ込んでしまった。
「ソーニャ!」
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