死にたがりの神様へ。

ヤヤ

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第八章 世界大戦

117.絶対的信頼

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「……嫌な予感がすんな」

 走ってきた敵を蹴り飛ばしてから一言。
 ぽつりと零した睦月に、前を進んでいたリックが不思議そうに振り返った。

 敵陣に乗り込んで暫く、襲いかかってくる者らを片っ端から倒していくふたり。その隙のない様子に存在意義を見失いつつある柊が困ったような顔を浮かべる中、なにかに気づいた睦月が冒頭の一言を発する。それに、リックは足を止めて振り返った。

「嫌な予感とは?」

「違和感。感じねえか? どうもおかしいと思うんだよな、俺」

「違和感? 別にそんなものは…………いや、待てよ」

 言って、考え込むリック。その背後、斬り掛かろうとしてきた敵をねじ伏せ、睦月が「わかるか?」と彼を見た。リックは無言で周囲を見回し、着けた仮面の下で眉を寄せる。

「……柊隊長」

「え? えっと、なに?」

「バルキア共和国には確か、大量の魔法使いがいるはずですよね?」

「え、ええ。そうね。こっちを張ってた隊から聞いた情報だと、確かそのはず……」

 言って、柊も気づく。
 先程から出会すのは一般兵のみで、魔法使いのまの字も見当たらないことに。
 柊は即座に背後を振り返り、副隊長を勤める金髪の女性を呼んだ。キラキラと輝く黄金色の瞳を持ったその女性は、柊からの指示を受け敬礼。即座にどこぞへ向かい走り出す。

 数分もかからぬ内に戻ってきた女性が、柊の名を呼びその耳元でコソコソと何かを伝えた。柊はそれにやはりと言いたげに顔を歪めると、リックと睦月、ふたりを呼んだ。呼ばれたふたりは黙って彼女へ近づく。

「今得た最新情報よ。つい先刻、バルキア共和国が降伏宣言を告げたそう。私たちがこちらに乗り込んでから、わりとすぐのことかしらね。それに伴い止まると思っていたバルキア共和国の軍だけど、どうやら西に進軍してるらしいわ」

「……西といえばベパイス帝国がありましたよね。まさかヤツらはそこへ?」

「確証はまだないけど、恐らくね」

 リックが黙り、睦月が「リレイヌの奴分かってたな」とぽつり。不満たらたらで舌を打ち鳴らす彼の様子に目を向け、柊は新たな情報を与えんと口を開く。

「でも、おかしなことがあるのよ。バルキア共和国から降伏宣言は下った。にも関わらず、奴らが降伏した相手国が不明なの。そして、それに伴うように、ウチがこちらに配置してた軍も姿を眩ませた……」

「……嵌められたな」

 努めて冷静に、リックは告げた。その言葉を受け、柊が疲れたように額を抑える。

「わかってた。わかってたのよ、ウチの軍が内部争い起こしてたことなんて。シェレイザ家肯定派と反対派。いるのは分かってたはずなのに……」

「……リオルは知ってたのか?」

「恐らくね。でも、なにか考えがあるんだと思って、私も、私と同じ隊長格のリンもなにも言わなかった。リオル様なら、聡明なお方だからどうにかするものだと思ってたけど……」

「……どうにかするつもりで今回動いたんだろうな、アイツ」

 小さく告げて、睦月は片耳に手を当てた。そして、暫く無言になった彼は、少ししてから「ダメだ」とひとつ。眉間にシワを寄せて吐き捨てる。

「あっちと連絡が繋がんねえ。妨害されてる感じはないから、多分何か起きてるだけなんだと思うけど……」

「……移動するか? 今なら進行中の敵軍に追いつけるかもしれないぞ」

「……いや、人質の解放が先だ」

 睦月は言って、視線を敵陣の奥へ。その奥の奥を指さし、「あっちから泣いてる声がたくさん聞こえるんだよな」と告げた。
 リックが腕を組み、柊が感心したように睦月を見る。

「とりあえず、俺らが任されたのはこっちだし、こっちを綺麗にして、あわよくば倒した敵から情報得る方が先決だと思うぜ。それに、あっちにはリレイヌもアジェラもいる。あのふたりが殺られるとは到底考えにくい」

「……まあ、あのふたり強いしな」

「そーそー。俺らはケツから一番・二番組だけど向こうは頭から一番・二番組。そんじょそこらの裏切り者に負けるはずねえよ」

 告げて、「行こうぜ」と睦月は歩き出す。そんな彼の背を見届け、リックも静かに足を踏み出した。
 向かうは人質たちが捕まっている、その場所だ。

「……信頼なされているのですね」

 ポツリと、金髪の女性が言う。それに、柊は「そうね」を返し、彼らの後を追いかけた。
 ほんの少し、彼らのことを羨ましいと思いながら……。
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