死にたがりの神様へ。

ヤヤ

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第一章 名家の子

16.次期当主と現当主

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 中庭でやることもなく、けれど道具を預けられたものだから何処へも行けず、リレイヌは仕方なくそこにあるベンチに腰掛けていた。草花に囲まれたそこはひどく静かで、それでいて優しい空気を持っている。

 まるであの家の中から見ていた外の景色のようだと、彼女は思った。そして、ベンチの上で膝を抱え、それに僅かに口元を埋める。

「母様……父様……」

 なんで迎えに来てくれないんだろう……。

 頭の中に存在するふたりの優しい両親の笑顔を思い浮かべ、彼女は黙って目を伏せる。なにか、彼女らの身に起こったのではないかと、そう不安になる心を落ち着かせるように、リレイヌはそっと、意識を暗闇に落としていった……。



 ◇◇◇


「──こちらが応接室です」

 深々と頭を下げて告げた少年に、案内された子供は「ありがとう」を告げた。静かで、それでいてどこか冷たいソレに、アジェラは頭を下げたままゴクリと唾を飲み込んだ。

 リピト。
 それは、シェレイザ家の次に有名な家の名だった。

 シェレイザ家が神族を助けその恩恵を得た家柄なら、リピト家はその逆。『神を信ずるなかれ』という教えの元、自分たちの力でのし上がってきた一族である。
 もちろん、彼らが神に仇をなしている訳では、決してない。リピト家にも当然、神を崇める輩はいるし信仰好きの者もいる。けれど、そんな者らは一族の恥だとして、お家から追い出されるか放置されるのが常套。余程優秀な者でないと、切り捨てられるのがオチであった。

 そんなリピト家の次期当主、リック・A・リピト。それが今、アジェラの目の前にいる者だった。

「(幼くしてリピト家次期当主に選ばれた、リオル様に次ぐ神童……うう、やっぱり威厳がすごい。はやく草むしりに戻りたい……っ)」

 心の中で嘆くアジェラに、少年、リックは応接室の扉前で佇んだまま、そっと口を開いて見せた。そして、「さっきの子はシェレイザ家の子か?」と声を出す。

「はぇ!? さ、さっきの子って……」

「……黒髪の……青い目をした……」

「あ、ああ……リレイヌお嬢様のことですね。あの方は先日、リオル様が連れてきた子で……」

「……リオル・シェレイザが?」

「は、はい……」

 頷き、萎縮するアジェラ。リックは何かを考えるように黙り込むと、そのまま扉を開け部屋に入室。振り返る面々に頭を下げ、顔を上げる。

「おお、リック! やっと来たか!」

 強面の、しかしどこか優しさのある雰囲気をまとう男性が言った。それにリックは一礼し、顔を上げる。

「申し訳ありません。遅くなりました」

「気にしないでくれ。それより、トイレは間に合った?」

「はい。お陰様で」

 淡々と答えるリックに笑い、リオルは彼に座るよう指示を出す。それにまた頭を下げたリックは、ニコニコと笑う男性の隣へ。黒塗りのソファーにそっと腰を下ろした。

「さて、先程の話の続きですが……」

 リオルは言う。

「アイデルセン殿は明日には引退、という話でしたよね?」

「はい。病の進行が激しいものですから……それに、優秀な跡継ぎもいますし、交代するなら今のうちと思った次第でございます」

「なるほど」

 リオルの目が、無言のリックに向けられる。
 その隣、シェレイザ家現当主が穏やかな口調で言った。

「その歳で名家の当主。さぞ肩に乗る荷は重いだろう。何かあったら頼りんさい。シェレイザ家はいつでも、お主の味方じゃ」

「……ありがとうございます。シェレイザ様」

 頭を下げるリックに、距離あるなぁ、とシェレイザ家両者。固い様子の彼に苦笑するふたりに、リックはゆるりと顔を上げ、視線だけを横へと向けた。そこにある閉ざされた扉を見て、彼は無言で目線を下げる。しかし、何も言わずに視線を戻し、彼は目の前のリオルを見た。笑顔の彼は、不思議そうに己を見つめるリックを見つめ返している。

「何か気になることでも?」

 問うリオル。

「……いえ、なにも。気になさらないでください」

 リックは冷たく、そう告げた。
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