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第二章 降りかかる悪夢
20.危険なものは遠ざけて
しおりを挟む「リレイヌ! あっちに変な虫いた! 見に行こうぜ!」
「女の子に虫はやめなよ睦月……リレイヌ。それよりも美味しいクッキーが届いたんだ。一緒に食べよう」
にこやかなふたりにキョトンと目を瞬き、リレイヌはすぐにその顔に笑みを浮かべた。そうして頷いた彼女に、ふたりの少年は自然と安堵の息を吐く。
できるだけ傍に。
それが今自分たちにできることならばやるしかないと、彼らは思う。なによりも大切な彼女のために。彼らはその手を握るのだ。
「ねえリオル。これ私の知ってるクッキーじゃない」
綺麗に盛り付けられた焼き菓子たち。中庭に設置された白いガーデンテーブルの上、ちょこちょこと広げられたそれらを見下ろし、リレイヌは不思議そうに呟いた。リオルが「え?」と目を瞬く。
「リレイヌ、もしかしてクッキー知らない?」
「ううん、知ってる。真っ黒でかたいの。母様がよく作ってくれてた。とっても甘かったり苦かったりするやつ……」
「(シアナ・セラフィーユ、実は料理苦手???)」
思わず疑問を抱いたリオルを横。睦月が「それはただの失敗作では???」と苦笑した。リレイヌは「失敗作?」と聞き返している。
「あー、まあ、とりま食べてみろよ! 美味いから!」
「うん……」
勧められたならば食べる他ない。
リレイヌはちょっとだけ迷った素振りを見せてから、そっと目の前のクッキーに手を伸ばした。そうして彼女が掴んだのは、チョコチップの王道クッキー。香ばしい香りと良い焼き色のソレは、見ているだけで食欲をそそってくる気がする。
「い……いただきます……」
どこか緊張した面持ちで一言。
パクリ、とクッキーを食べたリレイヌは、次の瞬間、キラキラと周囲の空気を光らせながら「おいしい!」を口にする。
リオルと睦月があまりの眩しさに目を瞑るのも気にせず、彼女は頬を赤らめながらサクサクのそれを口に含んだ。
「むぐむぐ……ごくん……なにこれすごい! おいしい! これがクッキーっていうのものなの!? おいしい!」
「そ、そう。それがクッキー。正当なね」
「今まで食べてたヤツと全然違う! なんで!?」
「それはお前のかーちゃんが料理べ……むぐぐ」
「し、シアナ様の独創的なアイデアが炸裂したからじゃないかな? あははー」
苦笑いのリオルに、彼に口を塞がれた睦月。
ふたりの様子に特に反応することなくコクコクと頷いたリレイヌは、「もう一個食べていい?」と小首を傾げた。愛らしいその動作に、リオルは「もっちろん」とデレデレする。
「これはリレイヌのために用意したものだからね。たんとお食べ」
「わぁ!リオルだいすき!」
「やだー、僕も好き」
にこやかなリオルは、そこでリレイヌの手元にあるひとつのボタンに気がついた。勢いあまって離してしまったのか、小さな手から転がり落ちたソレには見覚えがある。
「……リレイヌ、そのボタン……」
「え? あ、これ?」
ひょい、と持ち上げられたボタンが、リオルと睦月の目の前に掲げられた。
「これ、あの子……ええっと、リックが落としてったの。返そうと思うんだけど、どう会えばいいのかわかんなくて……」
「……僕から渡しておくよ。今度リピト家に行かなきゃだしね」
にこやかに告げたリオルに、リレイヌは「ほんと?」と一言。頷くリオルに、「じゃあお願いします」と笑い、ボタンを手渡す。
「うん。ちゃんと渡しておくよ」
ボタンを受け取ったリオルはそう言い、色素の薄い紫色の瞳を僅かに細めた。そして、「確かに受け取りました」と、懐に手にしたそれを突っ込む。
「(リピト家は、リレイヌにとって危険でしかないからな……)」
できるだけ遭遇させないようにしよう。
心に決めるリオルのことなど露知らず、リレイヌは睦月と会話をしながら、幸せそうにクッキーの残りを食べ続けていた。
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