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第二章 降りかかる悪夢
24.罪への罰
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そう言い通されたのは、馬小屋のようなボロボロの家屋。風が吹くだけでギシギシと鳴る板の音に頭上を見上げながら、3人は静かに屋内へと入っていく。
「……シアナ・セラフィーユは?」
「奥です」
にこりと笑んだ男が、奥へ奥へと進んだ。その後を、彼、彼女らは追いかける。
「……本当に、こんな所にあのシアナ・セラフィーユが?」
呟く操手。片眉を器用に顰めて周囲を見回す彼を尻目、リックはしっかりとリレイヌの手を握った。不安げな青の瞳が、フードの下で揺らいでいる。
「──こちらです」
足を止めた男にならい、三者も歩行を停止した。そして、目の前の壊れかけた扉を見て、次いで男を見やる。
男はにこにこと笑いながら、傾いた扉のノブに手をかけた。そして、それを静かに押し開く。
むわん。
噎せ込むような血の香りが、充満していた。微かに甘い香りをのせたそれは、どうやら部屋の中にいるひとりの女性から香っているようだ。リックが目を見開き、リレイヌが息を呑む。
ベキベキに折り曲げられた腕が奇妙な形を為し、鉄の鎖に繋がれていた。晒し出された足にはいくつもの杭が打たれ、強く殴られたのかその頬は赤く腫れ上がっている。
俯く金色の頭から滴る多量の赤に、リックは咄嗟にリレイヌを庇った。抱き寄せ、彼女の被るフードをさらに下まで引いた彼は、「やり過ぎでは?」と至極冷静に笑う男に問うている。
「やり過ぎ? やり過ぎなものですか! コレは罪を為したのです! 悪しき罪を! 故に誰かが裁かねばならない! そうでしょう!?」
興奮気味に唾を撒き散らす男は、明らかに狂っていた。狂気にでも当てられたと言いたげなそれに、会話は不可能と察したようだ。リックは何も言わずに目を細める。
「さあリピト様、裁判を」
嬉々として告げる男はまるで、その答えが分かっているとでも言いたげな様子を放っていた。
いや分かっているというのは語弊だ。彼は既に確信している。この罪に対する裁きの決定を。
故に彼らはその手で罪人を痛ぶっているのだ。何も決定していないのに、何度も何度も。飽きることなく痛ぶるのは、一重に罪が最も重いから。神族が禁忌を犯すということはそれほどに、ヒトにとっては重く、最低で、巨大な罪だった。
「……ウィリアム殿」
リックは努めて冷静に、男の名を呼んだ。にこやかに振り返るそれに対し「この案件、一度持ち帰って構いませんか?」と問うたリックに、ウィリアムは「もちろんですとも」と柔く笑う。
「どうぞゆっくりお考え下さい。リピト様には、ええ、その権利がありますゆえ……」
「ありがとうございます。では、後日またこちらを訊ねさせていただきますので、それで」
「かしこまりました」
深々と頭を下げた男に、もう用はない。
リックは俯き震えるリレイヌの手を引き、早々にその場を去ろうと足を動かす。そうして外に出た彼を、ウィリアムが慌てたように引き止めた。振り返ったリックに近寄り、彼は手を擦り合わせるようにしながら笑う。
「そういえばリピト様。妹君の体調が優れないのであれば、少し村で休まれていくのはいかがでしょう? ここには名物の喫茶店もありますし、そのまま馬車でお帰りになるのは大変でしょう?」
「結構です。まだ用もありますし、僕たちはこれで」
「そうですか。残念です」
またのお越しをお待ちしております。
告げた男が手を振るのを背後、足早に村を横断し、馬車へと戻る3人。ひどく気分が悪いと顔を顰めるリックたちのそば、リレイヌはひとり、怯えたように青色の瞳を揺らしていた。
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