27 / 129
第二章 降りかかる悪夢
26.遅くの帰還
しおりを挟む「──リレイヌ!!!」
夜。
すっかりと日も落ちて暗くなった空の下、馬車を降りたリレイヌは、駆けてきたリオルと睦月に目を向ける。なぜかアジェラの姿まであるのを不思議に思いながらふたりに寄ろうとすれば、それよりも先にリックが彼女の前に歩み出た。駆けていた皆が、足を止める。
「こんばんは、シェレイザ様。このような夜分遅くに訪問して大変申し訳ないのですが、少し話の席を取ってもらってもよろしいですか?」
にこにこと。笑顔で告げるリックに、リオルは自然と眉を寄せた。明らかになにかを企てている様子の彼に、自然と低い声が零れ出る。
「……何を企んでいる」
「企んでる? まさか。私はシェレイザ様と話し合いがしたいだけです。ええ、村に捕らわれているシアナ・セラフィーユについて、ね……」
瞠目したリオルの横、睦月が唸るように「リレイヌに何見せた」と吐き捨てた。睨んでくる二つの紫色を確認したリックは、それを鼻で笑い飛ばしてからリオルへと顔を向ける。どうやら睦月のことはスルーするようだ。吠える人狼少年をよそ、リックはリオルの傍へ。声を潜めて言葉を紡ぐ。
「ヘリートと呼ばれる男性が殺されていました。リレイヌの様子を見るに彼女に近しい人物なのは確か。そして、彼はシアナ・セラフィーユの夫であった……推測するに、禁忌とされているのはリレイヌ本人。あなた方シェレイザは、そんな彼女の存在を隠そうとしている。……違いますか?」
「……中で話そう」
告げたリオルに、リックは「寛大なるお心に感謝致します」と一言。わざとらしいその礼に、リオルは無言に。なったかと思えば、すぐに踵を返して屋敷に向かい歩き出す。
「リック……」
「大丈夫。悪いようにはしない」
不安げなリレイヌに微笑み、リックもリオルに続いて足を前へ。歩き出した彼を慌てて避けたアジェラが、忌々しいとリックを睨む睦月をちらりと見てからリレイヌの傍に駆け寄った。
「お怪我は?」
問われる不安に、それを解消せんと「ないよ」と答える。
「それより、アジェラたちはどうして外に?」
「そりゃあリレイヌさまを待ってたからですよ! 探しに行こうかどうかみんな迷ってたし……」
「……ごめんなさい」
「あ、謝らなくても大丈夫ですよ! リレイヌさまだって外に出たかっただけですもんね!?」
「……うん」
頷くリレイヌ。しかしその顔に元気は無い。
明らかに落ち込んでいる様子の彼女に、アジェラはひとりわたわたした。その後ろ、リックを威嚇していた睦月が、「何かあったのか?」と心配そうにリレイヌを見る。
「……なんでもない」
なんでもないよと、言い聞かせた。
0
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる