29 / 54
第二章 降りかかる悪夢
28.零れたもの
しおりを挟むひとまず皆、寝ろということで各々が部屋へと戻り就寝体制をとった。フカフカのベッドに寝転がり、掛け布団を被り目を閉じる。
そうして意識を沈めていく彼らと同様、リレイヌも寝る準備を行って、布団を肩までかけてから寝の体制になっていた。
しかし、眠れない。
いくら目を閉じようとも、意識を手放そうとしても、なんとなく数字を数えてみても、眠れない。まるでそう、これからこの先、睡眠が必要ないとでもいうように、彼女の目は冴えていた。
「……かあさま……とうさま……」
脳裏にこびりつく、大好きなふたりの変わり果てた姿。どうにかして助けられないかと考えるも、いい案は生憎と浮かんでこない。そもそも、このようなガキひとりに出来ることなどたかが知れている。下手に手を出そうとすれば捕まって終わり。呆気のない死が、またやってくることだろう。
呆気のない死が、また……。
「……」
もぞりとベッドの中で動いたリレイヌは、そのまま頭まですっぽりと布団を被る。そうして丸くなる彼女は、軽く呻いてから上体を起こした。
「寝れない……!」
悲痛な声が発される。
「寝れない……寝れない時、どうしてたっけ……確か、トランプたちが騒いで……父様が笑いながらそれを止めて、それで、母様がベッドに私を寝かせて……」
優しい手つきで頭を撫でてくれる母親を思い出す。穏やかに微笑みながら、慈愛溢れる瞳を向けてくれる母親を。
……そういえば、眠れない夜などに、母が歌ってくれていた気がする。
とても静かで、優しい歌。でもどこか寂しくて、辛い歌。
『私の母様が教えてくれた歌なのよ』
母はそう言って、眠りかけた自分を撫でてくれた。
あの歌は、ああ、どんな歌だったっけ……。
ぼんやりと考え、目を閉じる。そうすることにより頭に響くのは、大好きな母が歌う子守唄。その音色。
それほど高くなく、されど低くもない声で奏でられる歌声は、とても、とても心地が良いものだ。
「か……さま……」
一言告げて、くう、と寝息をたて、いつの間にか眠ってしまった小さな少女。
その目尻から零れた一つの涙。それが含んだ意味を知る者は、きっと、この世にはいないと思う。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる