死にたがりの神様へ。

ヤヤ

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第四章 悪意は忍び寄る

65.悪夢の後の

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「リレイヌ──!!」

「! リオル……」

 グズグズと泣いていたリレイヌが、呼ばれて顔を上げ、こちらへと駆けてくる友人を視界に入れた。同時に、そっとリックから身を離した彼女は、心配と不安を大いに含んだ抱擁をリオルから受けることになる。

「ほんっとに、ほんっとにごめん! 僕、何も出来なくてっ! 君が辛いの、見てることしか出来なくてっ!」

「……そんなこと」

「っ、僕! 魔導は無理でも、魔法は使えるかもしれないから、めっちゃくちゃに勉強するっ! 君を、もう傷つけなくていいくらい、たくさん、たっくさん勉強するっ!」

「……」

「強くなるっ! 強くなるからっ!」

 ボロボロと、色素の薄い瞳から涙を流し、なんなら鼻水までもを流し、リオルは言った。震えるその決意表明に、リレイヌはそっと微笑んでから瞼を伏せる。

「……私も、今回のことでわかった。まだ自分は、とっても弱いってこと」

「ぐずっ……そんなこと……っ」

「……弱いから、もっともっと、強くなる。私、ちゃんと、みんなを守れるくらい強くなる。自分を守れるくらい、強くなる……」

「……」

 リオルは力強くリレイヌを抱きしめると、そっとその身を離して頷いた。そして、徐に彼女の手を己の手で包み込むと、小さく息を吐いて顔を上げる。

「頑張ろう。もう二度と、傷つかないように」

「……うん!」

 微笑むリレイヌに、リオルは涙で濡れた顔を軽く崩し、笑った。そして、直ぐに彼女の手にどこから調達したのかもわからぬ、謎の液体の入った小瓶を持たせると、「飲みな」と一言、優しく告げる。

「これ飲めば、痛いのなくなるからさ」

「……これは?」

「回復薬。さっき飲んだくれのじいさんからかっぱらって来た」

「かっぱらって……」

 リレイヌはちらりと成り行きを見守るリックを見やってから、そっと小瓶の蓋を外した。そして、クンクンと中身の匂いを嗅いでから、ちみりとその液体を口内に含む。

「……まずい」

「良薬口に苦しだからね」

「……飲まなきゃダメ?」

「そのままだと体、痛いだろ?」

「それは、その……」

 もだもだとするリレイヌ。
 そんな彼女に痺れを切らしたのだろう。少しの間黙っていたリックは、リレイヌの手から小瓶を奪うとそれを己の口の中へ流し込んだ。リオルが「ちょっと!?」と驚くのを無視して、リックはするりとリレイヌの頬を撫でるとそっと彼女に口付ける。

「んなっ!!」

「まあ!」

「あらあら」

 リオル、ウンディーネ、シアナがそれぞれ反応。三者三様の驚きを見せる彼ら、彼女らに見守られながら、リックは口内に溜まった回復薬をリレイヌの口の中へと移しこんだ。
 驚きに固まるリレイヌは、そのまま流れてきた液体を自然な形で飲み込み、停止。離れたリックを見つめ、ぱちぱちと目を瞬く。

「おっまえマジ、有り得ないんだけど!!」

 リオルが叫んだ。それに対してしらっとした態度を見せるリックは、特に何事も無かったようなすました顔でリレイヌの体を確認すると、やがて「うん」とひとつ頷く。

「傷治ったね。良かった」

「……う、ん」

「痛いところはもうない?」

「……うん」

「そっか、よかった」

 ふわり。

 笑んだリック。
 綺麗なまでのそれに目を奪われるリレイヌは、すぐにハッとすると慌てた様子で立ち上がりシアナの方へ。微笑む彼女の背後に隠れるようにしながら、肩を狭めて小さくなる。

「ふふ、かーわい」

 笑うリックをリオルが小突いた。「マジで有り得ないんだけど!!」とカンカンに怒る彼に肩を竦め、リックは「それは悪かった」と一言。己の唇に手を当て、ぽそりと言う。

「しかし……柔らかかったな」

「おーい、リピト家のリックく~ん? 今すぐ死にたいならそう言ってくれよなぁ~?」

「事実を述べて何が悪い」

「有り得、ないん、だけど!!」

 ぎゃいぎゃい騒ぐリオルに、リックはフン、と鼻を鳴らした。まるで勝ち誇ったような彼の様子に、リオルは既に怒りが限界だ。「リックー!!」と鬼の形相で、逃げ出したリックを追いかける。

「……青春ねぇ」

 ほんわかと、告げるシアナ。ウンディーネがそれに同意し頷くのを尻目、リレイヌはとある路地に目を向けた。そしてそこに、こちらを見守っている睦月を発見し、そっと小首を傾げて片手を振る。

「……」

 睦月はリレイヌの様子に安堵したように笑うと、手を振る彼女に対し、己もパタパタと片手を振った。
 そして、口パクで言う。

『無事でよかった』

 声は聞こえないもののちゃんと読み取れたそれに、リレイヌはこくりと頷く。睦月はそれににっかりと笑うと、そのまま処刑台の方へ。皆と合流すると、とりあえずリックを捕獲し、リオルと共に彼の仕出かしたことに関して説教を喰らわせるのだった。
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