死にたがりの神様へ。

ヤヤ

文字の大きさ
66 / 129
第四章 悪意は忍び寄る

65.悪夢の後の

しおりを挟む
「リレイヌ──!!」

「! リオル……」

 グズグズと泣いていたリレイヌが、呼ばれて顔を上げ、こちらへと駆けてくる友人を視界に入れた。同時に、そっとリックから身を離した彼女は、心配と不安を大いに含んだ抱擁をリオルから受けることになる。

「ほんっとに、ほんっとにごめん! 僕、何も出来なくてっ! 君が辛いの、見てることしか出来なくてっ!」

「……そんなこと」

「っ、僕! 魔導は無理でも、魔法は使えるかもしれないから、めっちゃくちゃに勉強するっ! 君を、もう傷つけなくていいくらい、たくさん、たっくさん勉強するっ!」

「……」

「強くなるっ! 強くなるからっ!」

 ボロボロと、色素の薄い瞳から涙を流し、なんなら鼻水までもを流し、リオルは言った。震えるその決意表明に、リレイヌはそっと微笑んでから瞼を伏せる。

「……私も、今回のことでわかった。まだ自分は、とっても弱いってこと」

「ぐずっ……そんなこと……っ」

「……弱いから、もっともっと、強くなる。私、ちゃんと、みんなを守れるくらい強くなる。自分を守れるくらい、強くなる……」

「……」

 リオルは力強くリレイヌを抱きしめると、そっとその身を離して頷いた。そして、徐に彼女の手を己の手で包み込むと、小さく息を吐いて顔を上げる。

「頑張ろう。もう二度と、傷つかないように」

「……うん!」

 微笑むリレイヌに、リオルは涙で濡れた顔を軽く崩し、笑った。そして、直ぐに彼女の手にどこから調達したのかもわからぬ、謎の液体の入った小瓶を持たせると、「飲みな」と一言、優しく告げる。

「これ飲めば、痛いのなくなるからさ」

「……これは?」

「回復薬。さっき飲んだくれのじいさんからかっぱらって来た」

「かっぱらって……」

 リレイヌはちらりと成り行きを見守るリックを見やってから、そっと小瓶の蓋を外した。そして、クンクンと中身の匂いを嗅いでから、ちみりとその液体を口内に含む。

「……まずい」

「良薬口に苦しだからね」

「……飲まなきゃダメ?」

「そのままだと体、痛いだろ?」

「それは、その……」

 もだもだとするリレイヌ。
 そんな彼女に痺れを切らしたのだろう。少しの間黙っていたリックは、リレイヌの手から小瓶を奪うとそれを己の口の中へ流し込んだ。リオルが「ちょっと!?」と驚くのを無視して、リックはするりとリレイヌの頬を撫でるとそっと彼女に口付ける。

「んなっ!!」

「まあ!」

「あらあら」

 リオル、ウンディーネ、シアナがそれぞれ反応。三者三様の驚きを見せる彼ら、彼女らに見守られながら、リックは口内に溜まった回復薬をリレイヌの口の中へと移しこんだ。
 驚きに固まるリレイヌは、そのまま流れてきた液体を自然な形で飲み込み、停止。離れたリックを見つめ、ぱちぱちと目を瞬く。

「おっまえマジ、有り得ないんだけど!!」

 リオルが叫んだ。それに対してしらっとした態度を見せるリックは、特に何事も無かったようなすました顔でリレイヌの体を確認すると、やがて「うん」とひとつ頷く。

「傷治ったね。良かった」

「……う、ん」

「痛いところはもうない?」

「……うん」

「そっか、よかった」

 ふわり。

 笑んだリック。
 綺麗なまでのそれに目を奪われるリレイヌは、すぐにハッとすると慌てた様子で立ち上がりシアナの方へ。微笑む彼女の背後に隠れるようにしながら、肩を狭めて小さくなる。

「ふふ、かーわい」

 笑うリックをリオルが小突いた。「マジで有り得ないんだけど!!」とカンカンに怒る彼に肩を竦め、リックは「それは悪かった」と一言。己の唇に手を当て、ぽそりと言う。

「しかし……柔らかかったな」

「おーい、リピト家のリックく~ん? 今すぐ死にたいならそう言ってくれよなぁ~?」

「事実を述べて何が悪い」

「有り得、ないん、だけど!!」

 ぎゃいぎゃい騒ぐリオルに、リックはフン、と鼻を鳴らした。まるで勝ち誇ったような彼の様子に、リオルは既に怒りが限界だ。「リックー!!」と鬼の形相で、逃げ出したリックを追いかける。

「……青春ねぇ」

 ほんわかと、告げるシアナ。ウンディーネがそれに同意し頷くのを尻目、リレイヌはとある路地に目を向けた。そしてそこに、こちらを見守っている睦月を発見し、そっと小首を傾げて片手を振る。

「……」

 睦月はリレイヌの様子に安堵したように笑うと、手を振る彼女に対し、己もパタパタと片手を振った。
 そして、口パクで言う。

『無事でよかった』

 声は聞こえないもののちゃんと読み取れたそれに、リレイヌはこくりと頷く。睦月はそれににっかりと笑うと、そのまま処刑台の方へ。皆と合流すると、とりあえずリックを捕獲し、リオルと共に彼の仕出かしたことに関して説教を喰らわせるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...