死にたがりの神様へ。

ヤヤ

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第五章 婚約とパーティ

68.恋のアドバイス

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 ゆったりとした音楽が鳴っていた。

 広々としたホール全体に響くその曲は、生まれてからはじめて聞いた、人の作ったあたたかな『音楽』だ。

「ねえねえ、リック。リックもあれ弾けるの?」

 穏やかに微笑む音楽隊がそれぞれの楽器を奏でる姿を目にし、リレイヌは隣のリックに問いかけた。リックはそんなリレイヌの問いかけに素直に頷くと、「ある程度の演奏技術は貴族にも必要だからね」と答えてみせる。

「ほへー、貴族大変だねぇ」

「君はその貴族の婚やく……いや、なんでもない」

 そっと言葉を途切り、リックはそっぽを向いた。
 まだこれを言うには心の準備が!、とうち震える彼を知ってか知らずか、リレイヌは呑気に「あれ食べたい!」と豪勢な料理たちの中に存在するとあるひとつのメニューを指さした。

「あれ? ってどれ?」

「あれ! あのカラフルなやつ!」

「え? ああ、フルーツポンチ?」

「ぽ?」

「説明難しいからとりあえず食べてみよっか」

「炭酸大丈夫?」なんて訊ねながら、リックはリレイヌの手を引き長テーブルの傍へ。そこで小さく透明な器に入れられたカラフルなデザートを手に取ると、銀色のスプーンと一緒に手にしたそれを彼女へ渡す。

「お?」

「掬って食べる。わかる?」

「そ、それくらいわかる!」

「ふふ、そっか」

 クスクス笑うリック。
 リレイヌはそんなリックに「なんで笑うの」と文句を垂れながら、手渡されたデザートを口に運ぶ。

 シュワっとした感覚が、まず口の中に広がった。
 次いで、彼女は口内に転がり込んできたフルーツたちを噛み砕くと、目を輝かせながら笑うリックを振り返る。

「おいひい!」

「そう、よかった。あ、他にも美味しいものあるよ。シェフお手製のシフォンケーキとかローストビーフとか……」

 言いながら移動するリックは、心做しかいつもより楽しそうだ。どこか生き生きとした彼の様子に、彼を知る者は驚いたようにその姿を目で追った。「リック様が笑ってる……!?」「明日は槍か!?」とコソコソ広がる声たちに、それを丁度耳にしたらしい。睦月を引っ捕まえたリオルが「あららぁ」と困ったように笑う。

「アイツ、確かに鉄仮面だからなぁ」

「そうですか? リック様、わりと表情豊かに思えますが……」

「どこ見て言ってるそれ?」

 つっこんだリオル。
 問われたアジェラは少し考えてから、「リレイヌ様といる時は表情柔らかいです!」と答える。リオルはそれに苦笑。睦月はべ、と舌を出す。

「やってらんね。飯食えねえなら俺は帰るぞ」

「おっと、護衛対象ひとりにしていいと思ってるわけ? リックも大概だけど、君もわりと大概だよね」

「なにがだよ」

「わかんない? なら言ってやる。──リレイヌのこと好きなら、ちゃんと彼女に向き合え」

 睦月は目を見開き、そして静かにそっぽを向いた。リオルはそれに深いため息を吐き出すと、「あのなぁ」と一言。腕を組む。

「リックは向き合ってる。彼女と、ちゃんと。なら、お前だって正々堂々やるべきだ」

「正々堂々ったって……俺は別に、アイツのことなんて……」

「まぁたそうやってグジグジする! お前の悪いとこってほんと勝負したがらないとこだよな! 常に安全圏にいようとする! ほんとダメ! そういうのよくない!」

「……うるせえ」

 完全によそを向いた睦月を軽く小突き、リオルは小さな息を吐き出してから、やがてふっとその顔に笑みを浮かべた。かと思えば、ポンポン、と彼の肩を軽く叩く。

「いつも通りにやれ。お前はそれで十分勝てる」

「なにそれ。勘?」

「いや、リオル様のガチの恋愛アドバイス」

「……あっそ」

 不貞腐れたように立ち上がる睦月が、少し歩いたところで停止。小さく、「負けねえよ」と告げた彼に、リオルは頷き、アジェラは笑う。

「がんばれ、親友」

「──おう」

 拳を突きつけ、そうして去っていく睦月を視線だけで追いかける。そんなリオルに、アジェラはこそりと問うた。

「これ、業務的にはどうなんですか?」

「んー、まあ、色恋沙汰は頑張ってほしいからね。不問ってことで」

「はぁ……」

 アジェラは納得いかないというように頷いた。
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