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第六話 死は突然に
しおりを挟む──『新造の箱庭』。
文字通り、『新たに造り出す』場所として、この場にはその名が与えられた。元あるものを作り変える、なんて受け取っている者もいるが、どう取ろうとも大した問題はないだろう。
一応聖域に分類されるここは、かなり前の代となる龍神が、たまたま発見した鉱山を改造し、作成したそうだ。故に、中には多くの鉱石が眠っていると聞く。中に入った者が言うには、その鉱石たちが道標(みちしるべ)のようになっていた、というが……。
「……なんだか、他者の感想を聞いただけのような言い方ですね」
ガラガラと揺れる馬車の中。朝から一言も言葉を発しないリレイヌを横、イーズは目の前に座ったリオルを見た。相変わらずの無表情を張り付けた彼の意見に、リオルは微笑。流れる窓の外の景色に目をやりながら、口を開く。
「他者の感想を聞いただけ。確かにそうだな。お前の意見は正しいよ、坊主」
なんといっても、あそこには俺らは入れないからな。
告げたリオルに、イーズは眉をしかめた。レヴェイユ最高責任者である男が入れない場所があるというのが大変に気がかりだ。
そんなイーズの思考を読んだのか、リオルは笑みを携えて彼を見る。
「入れないって言っても物理的な問題だ。箱庭は選ばれた者しか通さないようになっていてな。俺らは位は高いが選ばれた者ではないから、イコール中には入れないってことさ」
「……はぁ」
「あ、いまいち納得してないな。ま、行ってみればわかるさ。お前らにとってはそりゃあ恐ろしい場所だってこともな」
リオルの言葉を合図とするように、馬車が止まった。少し待てば馬車の運転をしていた人物が、恭しい態度で扉を開け、一礼。真っ白な手袋を装着した片手を差し出し、優雅な動作で降車を促す。
荒い縫い目が目立つ、鳥のような面を着けた男であった。スラリとした背丈の彼は、青褐(あおかち)色の、紳士的な衣服に身を包んでおり、その上からさらに、同色のインバネスコートを羽織っている。
頭に乗せられたシルクハットも、同様の色合いだ。しかもこれには、包帯のようなものが巻きついている。
男の片手には、その身の丈より少しばかり大きめの杖が握られていた。見た目からして、かなり古いものだということが推測できるそれには、緑色の蔦が絡まっている。杖の古さに対して随分と瑞々しい若草色が、目に優しい。
それに対し、歪に曲げられた杖の先端部分には、アンティーク調のランタンと、ローマ数字の目立つ丸時計が取り付けられていた。どちらも古風なモノのようだが、果たしてどれ程前の物なのか……。
「長らくのご乗車、お疲れ様でございます。『新造(しんぞう)の箱庭』です」
「ああ、ありがとうドクター」
男に礼を述べ、三人は降車。白く染まったローブを身に纏い、顔に大きな布を貼り付けた、守衛らしき者達を横切り、歩く。白地の布に、赤い色で描かれた簡易的な目がギョロリと彼らの姿を追っている。
「……変な場所ですね」
「トップシークレットに入るレベルの秘密の場所だからな。警戒は十分に行っているわけだ。ここにはネズミ一匹入れやしないよ」
それは所謂フラグ、というやつではないだろうかと疑問を抱きながら、イーズは己の主を一瞥。返ってこない視線に若干の不満を抱きながら、前を向く。
「──着いたぞ」
見えてきた、例の鉱山内部へと入ることが可能な出入り口。ギリシャを連想させてくれるような作りのそれは、一つの遺跡へと繋がる、特別な門のように見えなくもない。
「ここが……」
今さらになって、少しの畏怖を感じた。だが、ここで尻尾を巻いて逃げるような真似をすれば現状は変わらない。主人に認めてもらうため。一人の人として、男として見てもらうために、彼は引くに引けなかった。
「試練はこの門を潜ってから開始される。まあものの試しに入ってみればどうだ? その方が説明も省けるしわかりやすいだろ」
「……はぁ」
曖昧に頷き、イーズは足を前へ。大きな門を見上げ、そっとそれに手を触れる。
ギィ……。
音をたてて、門が開かれた。開いた隙間に体を押し込み、大口を開けた鉱山の入り口へと静かに近づく。そうして、なにやら禍々しい空気を放つそこに顔をしかめながら、踏み込んだ。
「イーズ!!!」
己の名を呼ぶ声が響いたと同時、ドサッとなにかが落下する音がした。目を見開きそちらを見れば、一本の腕が落ちている。黒い皮の手袋を嵌めたそれは、間違いない。自分の腕だ。
「あ……」
音を発そうとした口がなにかに塞がれる。そのまま勢いよく鉱山内へと引き込まれた青年は、惨めに、無惨に、真っ赤な花を散らせながら──なぶり殺された。
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