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お別れと帰還
しおりを挟む昔。それこそ十年以上前のお話です。
私の家はとある犬を飼っていました。黒いダックスフンド。名前はファルと言いました。
ファルは大変頭が良い犬で、少し寂しがり屋な、かまってちゃんでした。
ある日、とある家の男性がファルをつがいにしたいと申し出てきました。家族は反対しましたが、当時一緒に暮らしていた叔母がこれを承諾。ファルはよそ様の家に預けられることになります。
それから2日後。ファルが脱走したとの連絡が入りました。
隣町まで行って探しましたが、彼はどこにも見当たりません。
このまま帰ってこないのではないか。
どこかで野垂れ死んでしまうのではないか。
家族は嘆きました。既に希望はひとつも残っていなかったのです。
ファルを探して一週間経った頃、私は夢を見ました。
それは、家の近くの公園に、ファルがいる夢です。
私は母にそのことを告げました。
母はすぐに公園に行き、そして、車に轢かれた彼を見つけました。
最初はもちろん別の犬だと疑いましたが、現実とは残酷なもの。
痣などが一致したことにより、息絶えたそれが私たちの家族であることがわかりました。
ファルの亡骸は骨となり、埋葬されました。
家族は落ち込み、嘆く声がいつもいつも響いていました。
大切な家族を亡くしたショックは大きく、子供だった私も悲しくて悲しくてたまりませんでした。
そんなある日、犬の鳴き声が聞こえてきました。
当時二階建ての家に住んでいた私は、外を見て、車の窓ガラスに黒い影を見ました。黒い影は二階のベランダで尾を振っています。
私は叔母に言いました。
「ファルが帰ってきた!」
と。
叔母はすぐさま二階のベランダに行き、そして、泣き声をあげました。窓ガラスを見ると、叔母が黒い影の前で泣いており、黒い影は嬉しそうに叔母を見上げて吠えていました。
この話をすると、怖い、とよく言われます。
けれど、私は思うのです。
脱走してまで家に帰ろうとしたファルは、死んでしまいました。けれどその後、ちゃんと帰ってきてくれた。それは、家族のあたたかな一つのおはなしなのではないかと……。
拝読してくれた皆様に、感謝を。
あの子が今、天国で大好きな叔母と再会していることを、私は心の底より祈っております。
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