ホームレスを装備しました(この小説はホームレス専用の小説です! ホームレスではない方は見ないでください!)

大和田大和

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イソギンチャクを装備しました

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触手の密林の中を何かが飛んでいる。オレンジと白の縦模様が視界の端でチラつく。その物体は私の体に向かって幾度も打撃を与える。だがその攻撃は致命傷にはなり得ない、非常に弱い攻撃だった。私は、激しく飛び回る謎の物体を無視して、
「ジャック! 今っ!」
「オレは敵の視線を引きつけない!」

その瞬間、三人と全部のモンスターの両の目が強制的にジャックを視界のど真ん中に捉える。
「な、なんだこれ?」
首が固定され動かせないのだろう。意思とは関係なくひたすらジャックの方を見ている。さらに、触手攻撃もジャックに吸い込まれるように進んでいく。モンスターたちもジャックめがけて攻撃を放つ。
その隙に、敵の視界から消えた私は触手を階段のように駆け上がり、空へと続く階段を踏みつける。

そして、大きく飛び上がる。宙返りを交え、小さな体を活かして空を泳ぐ。軽い体重を全て右手に持った剣に込める。後方で囮となったジャックの悲鳴が聞こえる。きっと全身を鋭利な触手で貫かれ、致命傷を負ったのだろう。私の体は惑星の重力を受け入れて、地面に向かって落ちていく。そして、狙い通り、三人に庇われながら、地面で横たわっていた人間を突き刺した。

そして、幻術は解けて私たちの世界に戻ってきた。私とジャックで三人を挟み込む形の陣形だ。幻術が解けるとすぐに、ジャックは口パクで何かを言った。私の作戦通りなら彼が言ったのは『オレは自分の聴覚と、愛の聴覚を治療しない』のはず。そして、予定通り私に聴覚が戻った。

「思った通りね」
私は地面に倒れる兵士の胸から剣を引きずり出した。一応致命傷は外してある。私の剣は血で濡れていて、それが日光を反射している。
「あなたたちは、戦闘中に突然眠り始めたこの人を庇うような陣形をとっていた。それが仇となった。この人が装備しているのは“幻”、“幻術”、“架空の世界”、“空想”その辺りの何かでしょ?」

「そいつの装備は“夢”だ」
兵士の一人が言った。もう解除されたし、当の本人は戦闘不能。バラしてしまってもいいということなのだろう。
夢の中で死にそうになった瞬間に目が覚めたことがあるだろうか? 私は何度もある。ホームレス時代に数え切れないほどのトラウマが悪夢となって私を夢の中で蝕んだ。

夢の中で人間が死ぬと、現実でも死ぬ。脳が現実と区別できずに死んだと錯覚するためだ。だから、夢の中にも関わらずあいつらは私たちを殺そうとしてきた。最後に、ジャックを囮にしたのは、夢が解けた後に、体が元の状態に戻ると踏んでのことだった。事実、最初に耳が聞こえなくなっていたのが夢の世界に飛ばされると元に戻っていた。これにより、夢と現実で実際に身体的なダメージはリンクしないことが伺える。
「なるほど、戦闘中に熟睡することが発動条件ね」
「正確には、戦闘中にノンレム睡眠に達することだ」

きっと、どんな状況下でも熟睡できるうように気の遠くなるような時間練習したのだろう。
「そいつにとどめを刺さないのか?」
「ええ。そして、触手を生やしているあなた。あなたの装備しているのは“イソギンチャク”かしら? どうやって装備したのか知らないけど、あなたの大事な触手を可愛らしいカクレクマノミが守っていたわよ」
イソギンチャクを装備している兵士は少し曇ったような顔になった。私の予想は当たっているようだ。
そして、赤い血で濡れている剣を最初に怒鳴ってきた兵士に向けた。

「あなたの装備しているのは“音波”、それか“共鳴”、“振動”だと思うわ。でもおそらくシンプルに“音”を武器として使っているでしょ?」
最初にカラスがこちらに向かって飛んできたのは、鳥の声を直接カラスの頭に流したのでしょうね。カラスは仲間意識が高く、鳴き声を使ってコミュニケーションをとる。カラスの生態を研究して何度も練習したのだろう。

さらにガラスが一瞬で粉々に割れたのは共振という特性を利用したトリック。ガラスだけ破壊する絶妙な音を発生させたのでしょう。私とジャックの耳がしばらく使えなくなったのもその影響。
「それがわかったところで勝つのは俺たちだ!」
兵士が大きく息を吸い込む。胸のあたりがはちきれそうに盛り上がっている。
「ジャック!」
“音”を装備している兵士が大声か何かを出す前に私は叫んだ。
「オレは五分間、聴覚を失う!」
次の瞬間、心臓が止まるほどの爆音が響いた。

[五分後]
肩を叩かれて、私は目が覚めた。
「“音”を装備している兵士は倒した。“イソギンチャク”を装備しているやつと最後の一人は任せる」
そいうとジャックは私に前のめりになって倒れた。私はジャックをどかすと立ち上がった。少しだけまだ頭がふらつく。だけどここで諦めるわけにはいかない。

前方を見ると、“イソギンチャク”の装備者と最後の一人が助け合いながら起き上がる。きっと爆音に巻き込まれたのだろう。
「俺がやる」
そして、兵士はイソギンチャクを縦横無尽に走らせた。大小様々な触手が私めがけて包囲する。糸を引きながら粘液まみれの触手は、私を取り囲む。完全に触手に覆い尽くされた私は目を閉じた。
触手の繭の外から兵士の声が聞こえる。
「俺の勝ちだ!」
その瞬間、私の勝利が確定した。
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