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完治不能の病が完治に向かう
しおりを挟む第六章 電撃を装備しました
私は飛び上がり、電撃を放ちながら王様の元へ飛ぶ。今、痛む体を動かしているのは電気そのものだ。悲鳴をあげる肉体に直接電流を流して無理やり動かす。電極を脳に刺して人間を操っているみたいだ。この戦法は先生がピンチになるといつも使っていたものだ。こんなに体が痛むなんて知らなかった。
だけど、そんな痛みなんでもなかった。心の底から湧き上がる、燃え盛るような勇気が痛みを塗りつぶして消した。
右に大きく振りかぶり王様に畝る電流の束を叩きつけた。
「ぐああああああああ!」
王様の全身を電撃が舐める。激しい破裂音と共に、王様の体が焦げた。
「この能力は、レジスタンスのあの男のものだな? いや、あの男のものよりずっと強力だ」
私は目を閉じ、背中に意識を集中させた。背中から二本の巨大な手が生えているイメージを脳裏に描いた。その手は力強く、巨大で、電撃でできている。音を立てて弾けながら、周囲の電圧を変える。
目を開けると、背中にはイメージ通りの電撃できた手が翼のように生えていた。大きさは私の胴ほどある。それを翼のように広げながら、右手の剣で王様を切りつけた。先ほどと同じような熾烈な攻撃が私に向けられる。弓矢の攻撃や、質量を持った重力の槍(先生の胸を貫いたのもこれだ)、地面から生える炎の鞭、空から降ってくる流星、空間から突如現れる黒い球体。それらを全て電撃でなぎ払い、焼き尽くす。抵抗する暇さえ与えない。
「なぜだ! この私が負けるはずなどない!」
王様は尚も抵抗を続ける。
「援護する!」
黒髪の少年も戦闘に再び加わった。
王様は、私たちの周囲を氷でできた棘のようなもので包囲した。空気、地面、天井、ドーム状に覆った氷の刃の先端は私たちの心臓を狙っている。
「こっちに!」
黒髪の少年と再び背中合わせになる。そして、
「死ねっ!」
一斉に氷の刃が周囲から私の心臓めがけて降り注いだ。まるで流星群が意思を持って私を殺そうとしているみたいだ。だが、私も黒髪の少年も傷一つつかなかった。氷がぶつかったのは、私が発生させたいくつもの電撃の板だった。かつて先生が生み出していたものよりも分厚く、色濃かった。
私は電撃のドームを手掌で操り、移動させる。そして、王様の体をドームで覆った。私と黒髪の少年はドームの外にいる。
そして、私と黒髪の少年はドームの周りを激しく飛び交いながら、王様に攻撃を与える。かつて私が黒髪の少年と戦ったのと同じ戦法だ。だから合図も作戦も打ち合わせもなしで即協力できた。
夜に一人で空を見上げたことがあるだろうか? 今の状況はその時の状況とよく似ている。自身を押しつぶしそうな星空が、一人の人間を覆い隠す。見上げた空の全てが、王様に襲いかかる。
私と黒髪の少年は尚も加速していく。まず、私たちの速度は亜音速に達した。攻撃を仕掛ける私たちの体がちぎれ飛びそうだ。次に、私たちの体は音を置いていった。攻撃の後には、火花のような閃光だけが瞬いている。
最後に、私たちは光を置いていく。輝きすらももう追いつけない。時間の概念を捻り切るほどの激しい攻撃は、光も音も伴わずに、衝撃だけを獲物に植え付ける。
烈火、電光石火、火花、花火、もうなんと形容していいのかわからないほどの攻撃はもはや芸術の域に達していた。絵描きがどうして、その絵を描いたか? その問いの答えと同じ。本人にもわからない。
音速を超えた辺りから、私の周囲の時間の流れがゆっくりになった。正確には時間さえも私の攻撃に追いつけなくなったからそう感じただけだ。世界がスローモーションになり、焦らすようにコマ送りされていく。私の攻撃は、攻撃を食らう敵が攻撃を食らうことに追いつけないほどの火力だった。
どれほどの時間攻撃していただろうか? 通常の戦闘では考えられないほどの長く大きな時間を攻撃に費やしたと感じた。そう、具体的には三秒ほど。現実の時間の中ではそれくらいだが、時間の流れを断ち切った私たちの攻撃は、実際には数時間、あるいは数十時間ほどの攻撃と同等の火力だった。
私と黒髪の少年は攻撃の手を止めた。熾烈な攻撃は体力の消耗も激しい。床の大理石は完膚無きまでに粉々になって、空気に混じっていた。その煙が私たちの視界を遮る。
「やったか?」
土煙が次第に治まる。鼻腔をつんざく土と溶けた大理石の匂いが強くなる。瞳に入った床片が涙を促す。私の瞳から溢れた一雫は土煙をその身に溶かしながら地面に落ちた。
王様はまだ生きていた。体の前に剣を構える。そして、信じられない台詞を口にした。
「ステージワン!」
黒髪の少年と全く同じ台詞を口にした。
「何っ? どういうこと? なぜあなた(少年)と同じ能力が使えるの?」
王様はガンを媒介する剣で電撃をも切り捨てた。ドームは一撃で崩壊してその身を空に四散させた。電気の残り香が鼻を刺す。
「ステージツー!」
王様は飛び上がり、私たちに大振りの攻撃を叩き込む。空気が切り裂かれ、悲鳴を上げているみたいだ。
私たちはで剣の腹でその一撃をなんとか防ぐ。王様の巨大な宝剣と私たちの小さな剣が触れると途端に具合が悪くなってきた。間違いない。これは黒髪の少年の能力だ!
「どういうこと? なんで王様があなたの能力を使っているの?」
王様の髪は加齢により白髪になっている。元の髪の色なんてわからない。そこで私は王様の瞳の色を思い出した。王様の瞳の色は私と同じ黒色。そして、黒髪の少年の瞳も同じ黒色だ。
『八十二パーセント』
何度も聞いた不気味なアナウンスがはっきりと耳元で聞こえた。そのアナウンスは、黒髪の少年の末期ガンの進行具合が進行したことを示した。
「なぜ王様の攻撃であなたのガンが進行するのっ? まさか、あなた(少年)が私のパパなの? あなた(少年)は私のパパの過去の姿なの? あなたと私のパパは同一人物なの?」
私は自分でも何をいっているのかよくわからなかった。ただこの考えは、間違っているような気がした。
「わからないっ!」
少年は力一杯剣を押し返した。私たちは王様と距離を取る。私は再び王様の方を見た。
「あなた(王様)は、彼(少年)なの?」
王様は何も答えない。地面を力強く蹴って進む。激しい衝撃は地面を割った。割れた大理石が足型を残しながら、炸裂音を奏でた。
「ステージスリー!」
王様は回転しつつ薙ぎ払う。狙いすました一閃は、私の電撃の腕によって防がれた。空気を燃やすほどの電熱は、宝石を少しだけ溶かして気体に変えた。石の溶けるような匂いが鼻腔を撫でる。
「一体何が起きているのっ?」
私の叫びは、悲鳴によく似ていた。
『九十五パーセント』
「くそっっっっ! このままじゃあと一撃でやられる! 俺もやるしかない!」
黒髪の少年は、右手を前に構え、念動力で先ほど捨てた黒い剣を手元に手繰り寄せた。
そして、
「「ステージフォー!」」
二人の声は全くの同時に響いた。その瞬間、空気が質量を孕んだかのように重くなる。粘つく液体を頭から被せられたみたいだ。黒くて絶望的な何かが私の体を抱く。でも、その絶望の中に何か別のものがあるのを感じた。
王様と少年は互いに剣を振り切る。双方からの均一な衝撃は、釣り合った天秤のようだ。互いが互いを追いかけ合う、決して交わらない昼と夜を同時に見ているようだ。
『九十五パーセント』
『九十五パーセント』
『九十五パーセント』
『九十五パーセント』
『九十五パーセント』
『九十五パーセント』
『九十五パーセント』
攻撃の度に、全く意味をなさないアナウンスが響く。同じ攻撃を相殺しあってお互いがお互いの能力を無効にしているということなのだろうか?
「はあ。はあ」
少年は肩で息を切っている。私は彼の隣に行った。鼓動がゆったりになる。呼吸が落ち着いてくる。血の巡りが優しく緩やかになった。私は彼の手にそっと自分の手を重ねた。そして、彼の手の上から剣を握った。
「何をしている? この剣に触れている状態で攻撃を行えば、お前の体も蝕まれるぞ?」
「でも、あなた一人じゃ勝てない。それに私たちは死なない」
私は電撃の手で、二人の手を覆った。王様も剣を斜めに構える。宝石に反射した光が私の顔を濡らす。
「あの人(王様)が誰でも関係ない。次の一撃に全てを賭けるわよ」
子供向けの漫画の主人公がいいそうな台詞を言った。こんな台詞実際に言う機会があるなんて思っていなかった。
私は少年の手ごと剣を強く握る。辺りの空気が変わる。大気は熱を持って弾ける。戦意が火傷しそうなほど熱く燃え盛る。何の音も聞こえていないのに、何かの音が聞こえるような気がする。焦燥感が身を焦がす。肌の上に炎が揺れる。そして一瞬だけ互いを見つめあった後、私たちは同時に互いを斬り合った。
攻撃は圧倒的な大差をつけて、私たちのものが上回っていた。王様は一文字に切り裂かれて地面にその血を垂らす。
その時だった。
『八十八パーセント』
黒髪の少年のガンの進行具合が後退した。私たちは目を見合わせた。そして、
「どう言うこと? あなたの病気は完治不能なんじゃなかったの?」
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