上 下
107 / 260

序章 パワーワード予知

しおりを挟む
序章 パワーワード予知

頭の中に不吉なヴィジョンが浮かんできた。まるで真っ暗な映画館で映し出されるスクリーンのようだ。暗闇の中で、白い画面だけが仄暗く光る。

次々とコマ送りにされる未来予知は、凄惨で目を背けたくなるようなものだった。

火の海になったハイデルキア。あちこちから子供の叫び声が聞こえてくる。
絶望が煙を吐きながら、嘶く。悲しみが炎を撒き散らす。一方的な大虐殺は、国の地形を変えるほど激しかった。

この殺戮を行ったのは、誰だかわからない。だが、今まで戦ってきた敵とは比べ物にならないほど強いのは確かだ。
正体不明の何かがハイデルキアに迫っている。

視界に映るヴィジョンは粘つく黒い液体に侵されていく。徐々に徐々にスクリーンは黒染めされていく。やがて、画面は砂嵐のようなものしか映らなくなった。

俺は夢から覚めると、すぐにアリシアたちに知らせた。


夢で見たことの説明を終えると、
「それは間違いないんだな? パワーワード予知を見たのは確かなのか?」
血相を変えたアル。アルは豆鉄砲を食らったような顔になった。

「ああ。確かだ。あの凄惨な未来が起こる可能性は低い。だけど一応用心しておきたい」
「ねえ。パワーワード予知ってなあに?」
と、アリシア。

「パワーワード予知っていうのは、簡単にいうと未来予知だ」

「じゃあケンが見た夢は現実に起こるかもしれないのね?」
「ああ。でも可能性があるってくらいだぜ?」
「パワーワード予知は、未来予知というより占いのようなものだな。数ある未来の中からその者にとって最も起こってほしくない未来をヴィジョンとして見せてくれるんだ」

「なんで?」
「さあ。“見えるはずのない未来が見える”んじゃないか? 俺とアリシアがウルフと戦った時を覚えているか?」
「うん!」
と、ウルフ。

「ええ!」
と、アリシア。
「あの時俺の頭の中には、アリシアを殺すシーンが映った。あれはパワーワード予知だったんだ」
「なら、ケンが私を殺す未来もあったってことっ?」
アリシアは豆鉄砲を食らったような顔になった。

「そりゃそうだろ! 未来なんて何万通りあると思っているんだよ」
「それでケンはどうするの? ガルガル」

「パワーワード予知は、ハイデルキアが正体不明の敵に滅ぼされる映像と、もう一つ別の映像が見えた」
「どんな映像だ?」

「うーん。どこかの国の朝の映像だ。霧の中で巨大な竜の影が見えた。そいつが空に向かって『創造主様』って呟いていた。あそこだけ見ても何の映像なのか全くわからないな」


「それ、竜王じゃないか?」
と、アル。
しおりを挟む

処理中です...