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11.公爵邸の招かれざる客
髪飾りを掴むんだナディアは、髪飾りを箱に入れて乱雑に入れた。
もう二度と見たくないという思いを込めて。
立ち上がり、部屋を出る。
静かすぎる廊下を抜け、階段を下り、屋敷の裏手にある庭園を越えて厩舎へと足を向けた。
「馬車を出せないってどういうこと?」
公爵家の厩舎には、磨き上げられた馬車が数台並び、馬たちが穏やかに鼻を鳴らしている。
ナディアは学園への登下校を、ルペルトと同じ馬車を使っていた。馬車が余っているなら、ルペルトと違う馬車に乗りたい。
そう言いにきたが、馬丁の返事は冷ややかだった。
「ここにある馬車は、公爵閣下や公子様たちの物です」
片方の口角だけが意地悪く上がる。
つまり、あなたを乗せる馬車はない。
そう言わんばかりの態度に、ナディアは思わず眉を寄せた。
「私も公爵家の娘でしょう?他に使える馬車があるはずだわ。公爵家に馬車がないわけがないもの」
「公爵様が馬車をお使いになり、公子様も外出でお持ちになりましたので」
馬丁はナディアをジロリと、自分より身長の低いナディアを見下ろしながら言った。
声には隠しきれない嘲りがにじんでいる。
そんなことも分からないのですか? とでも言いたげな、隠しきれない不遜さ。
ナディアは使用人からも、公爵令嬢にも関わらず無下に扱われることがあった。
そして、目の前の馬丁もその使用人たちの1人。
ナディアはドレスの裾を掴む。
――ナディア。あなたはこの屋敷で、こんな人たちと過ごして幸せだったの?
ナディアは、転生する記憶を取り戻す前の自分に問いかける。
あなたはこの屋敷の主人でもあるはずなのに。
それなのに、今この瞬間まで、使用人からすら雑に扱われる自分が、ひどく滑稽に思えた。
背後から、低く抑えた声が響いた。
「お前はどの立場で話をしているんだ?」
振り返るとイサークがそこにいた。
どうしてイサークがここに?
今日は訪問の予定など聞いていない。
ルペルトも外出中だ。
突然の訪問に、ナディアは訝しげにイサークを見る。
イサークはナディアを見てフッと鼻で笑った。
嘲るような、しかしどこか苛立ったような表情で。
そのままナディアの横を通り過ぎ、馬丁の前に立つ。
「ナディアは公爵家の娘だ。そしてお前は、雇われた使用人にすぎない」
突然の王子の登場に、馬丁の顔が哀れに思えるほど青ざめる。
イサークに見下ろされる馬丁の体が、ひどく小さく見える。
「そ、それは……その通りでございますが……」
「その通りなら、黙って従え」
イサークの声は静かだったが、刃のように鋭い。
圧倒的な権力の前に馬丁は慌てて頭を下げ、言葉を失った。
ナディアはただ、黙ってそのやり取りを見ていた。
イサークがここにいる理由も。なぜ自分を庇うような素振りを見せるのかも、分からない。
けれど、不思議と――ほんの少しだけ、気分が良かった。
イサークが振り返り、ナディアをまっすぐに見つめる。
翠色の瞳に、いつも自信にあふれた瞳とは違う、何かが宿っているように見えた。
黙ったまま口を開こうとしないイサークに、ナディアが先に口を開く。
「第二王子殿下にご挨拶を申し上げます」
突然の訪問は失礼にあたるけれど、こちらも礼儀を欠くわけにはいかない。
ナディアは軽くスカートをつまみ、丁寧に頭を下げた。
イサークは一瞬、目を細める。
そして、低い声で短く問いかけた。
「……どこへ行くつもりだったんだ」
もう二度と見たくないという思いを込めて。
立ち上がり、部屋を出る。
静かすぎる廊下を抜け、階段を下り、屋敷の裏手にある庭園を越えて厩舎へと足を向けた。
「馬車を出せないってどういうこと?」
公爵家の厩舎には、磨き上げられた馬車が数台並び、馬たちが穏やかに鼻を鳴らしている。
ナディアは学園への登下校を、ルペルトと同じ馬車を使っていた。馬車が余っているなら、ルペルトと違う馬車に乗りたい。
そう言いにきたが、馬丁の返事は冷ややかだった。
「ここにある馬車は、公爵閣下や公子様たちの物です」
片方の口角だけが意地悪く上がる。
つまり、あなたを乗せる馬車はない。
そう言わんばかりの態度に、ナディアは思わず眉を寄せた。
「私も公爵家の娘でしょう?他に使える馬車があるはずだわ。公爵家に馬車がないわけがないもの」
「公爵様が馬車をお使いになり、公子様も外出でお持ちになりましたので」
馬丁はナディアをジロリと、自分より身長の低いナディアを見下ろしながら言った。
声には隠しきれない嘲りがにじんでいる。
そんなことも分からないのですか? とでも言いたげな、隠しきれない不遜さ。
ナディアは使用人からも、公爵令嬢にも関わらず無下に扱われることがあった。
そして、目の前の馬丁もその使用人たちの1人。
ナディアはドレスの裾を掴む。
――ナディア。あなたはこの屋敷で、こんな人たちと過ごして幸せだったの?
ナディアは、転生する記憶を取り戻す前の自分に問いかける。
あなたはこの屋敷の主人でもあるはずなのに。
それなのに、今この瞬間まで、使用人からすら雑に扱われる自分が、ひどく滑稽に思えた。
背後から、低く抑えた声が響いた。
「お前はどの立場で話をしているんだ?」
振り返るとイサークがそこにいた。
どうしてイサークがここに?
今日は訪問の予定など聞いていない。
ルペルトも外出中だ。
突然の訪問に、ナディアは訝しげにイサークを見る。
イサークはナディアを見てフッと鼻で笑った。
嘲るような、しかしどこか苛立ったような表情で。
そのままナディアの横を通り過ぎ、馬丁の前に立つ。
「ナディアは公爵家の娘だ。そしてお前は、雇われた使用人にすぎない」
突然の王子の登場に、馬丁の顔が哀れに思えるほど青ざめる。
イサークに見下ろされる馬丁の体が、ひどく小さく見える。
「そ、それは……その通りでございますが……」
「その通りなら、黙って従え」
イサークの声は静かだったが、刃のように鋭い。
圧倒的な権力の前に馬丁は慌てて頭を下げ、言葉を失った。
ナディアはただ、黙ってそのやり取りを見ていた。
イサークがここにいる理由も。なぜ自分を庇うような素振りを見せるのかも、分からない。
けれど、不思議と――ほんの少しだけ、気分が良かった。
イサークが振り返り、ナディアをまっすぐに見つめる。
翠色の瞳に、いつも自信にあふれた瞳とは違う、何かが宿っているように見えた。
黙ったまま口を開こうとしないイサークに、ナディアが先に口を開く。
「第二王子殿下にご挨拶を申し上げます」
突然の訪問は失礼にあたるけれど、こちらも礼儀を欠くわけにはいかない。
ナディアは軽くスカートをつまみ、丁寧に頭を下げた。
イサークは一瞬、目を細める。
そして、低い声で短く問いかけた。
「……どこへ行くつもりだったんだ」
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