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第三章
第40話 日溜まりの再会(2)
2.
透哉と大神は流れで以前と同じオープンテラスを訪れていた。貸したお金は道中で先に受け取ったので、完全な余興である。
「なんだ、またこの店か」
「不味かったのであるか?」
「んー、不満はないが……」
言葉を濁す透哉。
初めて訪れたときの出来事がふと蘇る。
宇宮湊にアイドルであると暴露された後にウィンクでとどめを刺され、ホタルと一緒にトイレに駆け込んだ苦い経験があった。(原因は湊に過剰反応した自分たちであり、店側には過失はない)
脳裏を過ぎるきつめの思い出の他には、せっかく十二学区に来たのだから別の店にも行きたいという気持ちもあった。
一方、大神としては透哉と初めて出会った縁のある店であり、オススメを選んだつもりだ。
「お気に召さないのであれば場所を変えてもよいが」
「移動も面倒だし、ここにするか」
「うむ。では、ここにするのである。それがしはこの店のホットケーキが大好きなのだ」
承諾した透哉に、嬉々として大神は答えた。
ようするに大神の行きつけだった。
入店後、二人が注文を済ませると、五分と経たず料理が目の前に並ぶ。
先日同様にホットケーキを挟んで向き合う二人。
「頂くのである」
「いただきます」
一切れ口に運び、ゆっくりと咀嚼し、味わう。甘党の大神が毎度選ぶだけあって味は格別だった。
穏やかな昼下がり、店内の落ち着いた雰囲気も味を楽しむには最適な環境だった。
「うまいな」
「ごちそうさまである。む、御波殿、残すのであるか?」
「ぶっ、おい、待て待て待てっ! 今食い始めたばっかりだろっ!?」
透哉は危うく吹き出しそうになりながら声を上げるが、大神はからかっているつもりはないらしい。
既にナイフとフォークを空になった皿の上に置き、ごちそうさましていた。
食べ始めてまだ数十秒。簡素ながら素直な感想を述べた矢先だ。
「そうであったか……すまぬ、おかわりを所望したいのであるが」
大神は少し残念そうに呟くと、通りがかった店員に追加を頼む。
仕草口調ともに穏やかだったが、食の速さは爆速だった。
「早すぎるだろ。しっかり噛んで食べろ」
「御波殿は意外とお母さんみたいなことを言うのであるな」
「おい、これは俺の分だ。やらねぇぞ」
大神は不思議と楽しそうに言いつつ、視線は透哉のホットケーキに釘付けである。
そうこうしている間に運ばれてきた追加のホットケーキ。それも二皿。
大神の食いっぷりと言うより、甘い物好きに呆気にとられる。
透哉はようやく一枚食べ終え、お冷やで口の中を整える。
「ごちそうさまである。む、御波殿。まだ残っているのである」
「食ってる途中だ!」
透哉はフォークとナイフを握ったままの手で皿を手前に引き寄せ、威嚇を試みる。
「つーか、前と違って滅茶苦茶食うじゃねぇか」
「先日は気落ちしていたせいで食欲も落ちていたのである」
「なるほど、」
弔問後だったことを考えると納得だったが、それを加味しても爆速である。
ホットケーキの防衛に奮闘する透哉をよそに、再びメニューを手にした大神は更なる追加を頼むかを迷っていた。
そんな折、十二学区ならでは音声が割り込んだ。
めんこーい、どっこいしょー!
「それがしである」
「この街の住人の着信音はそれしかねぇのかよ……気にせずに出てくれ」
「感謝するのである。もしもし?」
ぼやく透哉を尻目に、大神がスマホに応対する。
しかし、画面を見た瞬間の表情の変化に、透哉は穏やかな時間の終わりを感じた。
大神の通話が終わる頃には、透哉もホットケーキを平らげ、フォークとナイフを皿の上に整列させていた。
「御波殿、野暮用が出来てしまったのである」
「また隊長の呼び出しってところだろ? 事件に進展でもあったのか?」
「察しがいいのであるな」
「喋り方や表情に出てたぞ。とても甘い物を堪能した後には見えねぇ」
透哉の指摘に合点がいったのか、大神は少し申し訳なさそうな顔になるが、すぐに表情を改める。
緩急が激しいというより、公私をしっかり区別していた。
「進展というより、捜査要請であるな」
「ってことは前の事件現場か、献花台か? だったら俺も同行させてくれ」
本来なら深入りも不要な詮索も禁物である。
けれど、十二学区側の動きを自分なりに把握しておきたかった。時々刻々と変化する自分を取り巻く環境への不安に、知的欲求が勝ったのだ。
「いや、そちらは別働隊が請け負っているので違うのである。今回はゼロ学区である」
「ゼロ学区、前話してた昔の第十一学区ってところか。俺が行くのはやっぱりまずいよな?」
「これは遊びでは――」
大神は口からでかけた言葉を飲み込む。中途半端な好奇心で首を突っ込む人物ではないと知っていたからだ。
「ゼロ学区の中までは無理であるが、隊長と合流するまでなら同行しても問題ないと思うのである。隊長とは学区の入り口で待ち合わせである」
大神は歓迎こそしなかったが、強く突き放すこともしなかった。
今回は各々ちゃんと支払いを済ませ、並んで店をあとにした。
透哉と大神は流れで以前と同じオープンテラスを訪れていた。貸したお金は道中で先に受け取ったので、完全な余興である。
「なんだ、またこの店か」
「不味かったのであるか?」
「んー、不満はないが……」
言葉を濁す透哉。
初めて訪れたときの出来事がふと蘇る。
宇宮湊にアイドルであると暴露された後にウィンクでとどめを刺され、ホタルと一緒にトイレに駆け込んだ苦い経験があった。(原因は湊に過剰反応した自分たちであり、店側には過失はない)
脳裏を過ぎるきつめの思い出の他には、せっかく十二学区に来たのだから別の店にも行きたいという気持ちもあった。
一方、大神としては透哉と初めて出会った縁のある店であり、オススメを選んだつもりだ。
「お気に召さないのであれば場所を変えてもよいが」
「移動も面倒だし、ここにするか」
「うむ。では、ここにするのである。それがしはこの店のホットケーキが大好きなのだ」
承諾した透哉に、嬉々として大神は答えた。
ようするに大神の行きつけだった。
入店後、二人が注文を済ませると、五分と経たず料理が目の前に並ぶ。
先日同様にホットケーキを挟んで向き合う二人。
「頂くのである」
「いただきます」
一切れ口に運び、ゆっくりと咀嚼し、味わう。甘党の大神が毎度選ぶだけあって味は格別だった。
穏やかな昼下がり、店内の落ち着いた雰囲気も味を楽しむには最適な環境だった。
「うまいな」
「ごちそうさまである。む、御波殿、残すのであるか?」
「ぶっ、おい、待て待て待てっ! 今食い始めたばっかりだろっ!?」
透哉は危うく吹き出しそうになりながら声を上げるが、大神はからかっているつもりはないらしい。
既にナイフとフォークを空になった皿の上に置き、ごちそうさましていた。
食べ始めてまだ数十秒。簡素ながら素直な感想を述べた矢先だ。
「そうであったか……すまぬ、おかわりを所望したいのであるが」
大神は少し残念そうに呟くと、通りがかった店員に追加を頼む。
仕草口調ともに穏やかだったが、食の速さは爆速だった。
「早すぎるだろ。しっかり噛んで食べろ」
「御波殿は意外とお母さんみたいなことを言うのであるな」
「おい、これは俺の分だ。やらねぇぞ」
大神は不思議と楽しそうに言いつつ、視線は透哉のホットケーキに釘付けである。
そうこうしている間に運ばれてきた追加のホットケーキ。それも二皿。
大神の食いっぷりと言うより、甘い物好きに呆気にとられる。
透哉はようやく一枚食べ終え、お冷やで口の中を整える。
「ごちそうさまである。む、御波殿。まだ残っているのである」
「食ってる途中だ!」
透哉はフォークとナイフを握ったままの手で皿を手前に引き寄せ、威嚇を試みる。
「つーか、前と違って滅茶苦茶食うじゃねぇか」
「先日は気落ちしていたせいで食欲も落ちていたのである」
「なるほど、」
弔問後だったことを考えると納得だったが、それを加味しても爆速である。
ホットケーキの防衛に奮闘する透哉をよそに、再びメニューを手にした大神は更なる追加を頼むかを迷っていた。
そんな折、十二学区ならでは音声が割り込んだ。
めんこーい、どっこいしょー!
「それがしである」
「この街の住人の着信音はそれしかねぇのかよ……気にせずに出てくれ」
「感謝するのである。もしもし?」
ぼやく透哉を尻目に、大神がスマホに応対する。
しかし、画面を見た瞬間の表情の変化に、透哉は穏やかな時間の終わりを感じた。
大神の通話が終わる頃には、透哉もホットケーキを平らげ、フォークとナイフを皿の上に整列させていた。
「御波殿、野暮用が出来てしまったのである」
「また隊長の呼び出しってところだろ? 事件に進展でもあったのか?」
「察しがいいのであるな」
「喋り方や表情に出てたぞ。とても甘い物を堪能した後には見えねぇ」
透哉の指摘に合点がいったのか、大神は少し申し訳なさそうな顔になるが、すぐに表情を改める。
緩急が激しいというより、公私をしっかり区別していた。
「進展というより、捜査要請であるな」
「ってことは前の事件現場か、献花台か? だったら俺も同行させてくれ」
本来なら深入りも不要な詮索も禁物である。
けれど、十二学区側の動きを自分なりに把握しておきたかった。時々刻々と変化する自分を取り巻く環境への不安に、知的欲求が勝ったのだ。
「いや、そちらは別働隊が請け負っているので違うのである。今回はゼロ学区である」
「ゼロ学区、前話してた昔の第十一学区ってところか。俺が行くのはやっぱりまずいよな?」
「これは遊びでは――」
大神は口からでかけた言葉を飲み込む。中途半端な好奇心で首を突っ込む人物ではないと知っていたからだ。
「ゼロ学区の中までは無理であるが、隊長と合流するまでなら同行しても問題ないと思うのである。隊長とは学区の入り口で待ち合わせである」
大神は歓迎こそしなかったが、強く突き放すこともしなかった。
今回は各々ちゃんと支払いを済ませ、並んで店をあとにした。
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