転生息子は残念系

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悪友たちとの7歳(2)

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 森の中にずんずん入っていく。
 微かに聞こえる声は、やめようとか大丈夫だとかそんな感じだ。
 そして俺にはもちろん気付いてない。
 カイト君を先頭にずんずん奥にはいっているが、これは大丈夫なんだろーかと本当に思う。
「……ほどほどで引き返す感じが全くない」
 これ、道に迷うんじゃないかなと俺は思うわけだ。
 どうするかなぁ。そろそろ帰れって声かける方がいいか?
 そう、考えていると前で悲鳴のような声が聞こえて慌てて俺はそっちを見た。
 すると、子供らの前に野犬が一匹。
 口の端からよだれを垂らしてぐるると唸っている。
「しっ! しっ! あっちいけ!」
 あー! そんな木の棒振り回すくらいじゃ無理。カイト君無理!
 あのままだと野犬に飛び掛かられ皆散り散り。迷子になって家に帰れないなんてことになりそうだ。
 ここは出ていくしかないと俺は思う。
 俺も、ちょっとあの犬、怖いけど!!
 がさがさとわざとらしく音をたてて出ていく。するとカイト君たちも気付いて。
 俺は彼等を通り越して野犬の前に立つ。
「お、お前!」
「子供だけでこんなところ、来ちゃ駄目だろ……」
 俺は近くにあった石を拾って掌の上で遊ばせる。
 そして、それを野犬に向かって投げた。野犬はそれを避け、俺に向かってくる。
「あ、危ない!」
「きゃああ!!」
 カイト君の声と他の子たちの悲鳴。
 唸りながら飛び掛かってくる野犬。でも俺は、その野犬へむけ足を振り上げた。
 その足は丁度、野犬の顔にヒットし野犬の態勢は崩れた。
 転がるように着地した野犬は身を引くくし、俺を警戒する。
「お前ら、ちょっとずつ後ろに下がって」
「で、でもお前は」
「いいから、はやく!」
 俺の強い言葉に押されてカイト君たちは少し後ろへ下がった。
 よし。
 俺は飛び掛かられてもどうにかできるけど、他の皆はそうじゃないだろうから。
「ようワン公、どこから来たか知らないけど帰りな」
 じゃないと痛い目見るぜと言うと同時に再び、飛びかかってきた。
 俺は転がってそれを転がし、野犬の足元に魔力を流し込む。するとその足元は解けて、泥のようになった。
 足元を取られた野犬は慌てて離れようとするがうまくいかない。
 それを見て、離れるなら今の内だと俺は思ってカイル君たちの方に走る。
「ほら、逃げるぞ!」
「あ、ああ!」
 けど逃げるって言っても、森の奥に行ったら駄目だ。ええと、方向。
 方向!!
 俺は先に動いてひょひょいと木の上へあがる。登ったんじゃなくて、跳んでだ。
 足にちょっと魔力添わせて踏み切れば跳躍力はあがる。
 高い木の上にあがって、方角を確認。あっちか、よし。
 方角を確認して戻ると、皆があほみたいな顔してた。
 え、なんで。いやいまはそれよりも。
「お、おま、とんで……」
「へ? とんでねーよ。それより、ほら早く。あの野犬もいつまであのままかわからないし」
 こっちと確認した方向へ皆を向かわせる。
 先頭はカイト君だ。そしてしばらくほかの子たちを連れて歩けば、森から抜けた。
 それでほっと一息。視線巡らせれば学校も見える。
「無事に戻れて良かったな。森に勝手に入ったら危ないだろー」
 ほら、帰ろうと俺は学校の方角を示す。
 すると安心したんだろう、泣き始めた子までいる。
「ああー、ほら、ほら泣くなー」
 女の子には刺激が強かったよなぁ。俺は大丈夫と頭を撫でた。
 けどそれでも泣き止まなくて困ってしまう。
 俺は困った末にその子の手を握って、帰ろうと歩き出す。するとほかの子らもそのあとについてきてくれた。
 列作って学校に帰ったら、先生に見つかってどうしたのかと問われて。
 勝手に森に入ったことは怒られ案件だった。
 俺たちはみんな揃って怒られて。そして俺の送り迎えの人にもそれは伝わって。
 そして俺はただいま正座タイムです!!!
「イラ……森はだめって言われてたわよね……」
「俺は率先してして入ってない……」
「ええ、それはわかってるわ」
「じゃあなんで正座……」
「過信」
「え?」
「確かに野犬はどうにかできたけど、どうにかできない相手だったらどうなの? それに野犬だったけど」
「けど?」
「人間相手ならどうしたと思う?」
「あー……それは」
 それは、考えてなかった。
 母さんは、野犬相手でどうにかなったけど。そうできない場合だったらどうしたの、と言っている。
 それを考えるための正座みたいだ。
「ちなみに私も、周りの皆に迷惑をかけたことがあります。誘拐事件ね」
「は?」
「あんたにもそれはないって言えないのよ。いくら魔術が上手に扱えても、イラはひとりだから」
「え、ひ、ひとりって」
「私が何も知らないと思ってるの? 友達いないくせに」
「ウッ」
 母さんはすべてをお見通しのようだ。
「と、反省タイムはここまででいいわ! 子供たちを無事連れ帰ったのはいいことだから。よくやったわね」
「う、うん」
「これをきっかけに仲良くなれたらいいわね」
「ちょ、も、もうそういうのは」
 やめてくれー! 傷をえぐられてるような気がするからー!
 そうだよ友達いねーけど!!
 うううと唸っていると母さんはにやにや。くそ、い、いじる気だ!!
「さて、私からのお小言は終わりなのであとはお父さんからちくちく言われてきなさい」
「あっ、お叱りタイムは別なわけ……」
「ええ」
 あああああ、母さんからの方が甘い。
 父さんに何言われるのかな。ひぇっ! 心臓に悪い。
 そう思いつつ父さんの所に向かうと、にっこりと笑って外に出ようかと言われた。
 え、外? 外? 父さんが上着を脱いで首元を緩めている。
 つまりー! これはー!
「そう、ほどほどに」
 あっ、これ肉体言語? 鍛錬で会話? そういうやつ?
 そういうやつしかなかった!
 その後、お小言を色々言われたわけではなかったけどかかっておいでと言われて。
 恐る恐る挑みかかったらすぐさま投げ飛ばされた。
「ってぇ!」
「ま、イラが俺に勝てないのはわかってることなんだけど、その調子じゃ何かあった時すぐやられちゃうよ」
「へ?」
「つまり、イラは弱いからもっと鍛えておかないといけないなと思って……俺の教えは甘かったかな……」
「いや充分すぱるた……」
「ほら、イラが自分をどうしたいんだって言ったから。ちょっと手加減してたんだけどああやって危ないことに顔突っ込むならやっぱり実力がないとね」
 それをつけるには実践が一番と父さんはおっそろしいほど綺麗な笑み向けた。
 あっ、これ母さんが時々、ひぇってなるやつだ……わぁ、怖い。
「イラはやっぱりレティに似てる。だから危ないことにもほいほい首を突っ込む」
 ……わぁ、怖い。じゃ、ない。
「レティの時は俺が傍にいたけど、イラはそうはいかない。家にいろって言っても無理だし、それよりこれから外に出ていく。俺ができることは何かといえばお前を鍛える事だけなんだよね」
 自分で自分を守れるのは最低ライン。でもそれ以上をお前はきっと望むだろうからと。
 それは俺を思って、言ってるようだけど。
 これ、これ! 父さん!
 激おこ!! げ き お こ !!
「勝手をしたいならそれ相応の実力がないと、駄目だよイラ」
「は、はい」
「じゃあ、かかっておいで」
 あっ、これやっぱりまだ続く。
 それから、俺は父さんに転がされまくった。
 本当に、転がされまくった。
 次の日、動けなくて学校を休む程度には転がされ以下略。
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