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なんでも知っている
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どうしてあんなことを、と。
私の心はぐちゃぐちゃだ。カウチに寝そべりクッション抱いて伏せていると、背後に気配。
背中の側にいるのは、彼だろう。
しかし現れても、何も言わない。それはまるで先程のことを知っている、と言っているようだ。
「何か用事?」
「俺が、というよりもお前が、言わなきゃいけないことがあるだろ?」
「さっきのゼルジュード様のこと? 何もないわ、私は拒否したもの」
「でも口付は貰った」
すぐさっきのことだと青年は言う。
私はそうねとただ、頷いただけだ。
「さっきのを受け、お前の心は躍ったのだろうか、それとも凪いだのだろうか」
俺はそれが知りたいと言う。私はそれに答えない。
どう答えたらいいのか、わからないからだ。
「ゼルジュードは未練しかないんだろうな、お前の手を取れなかったことが」
「未練?」
「そう。あいつはすでに婚いでいるのに! それなのにお前に手をだしている」
俺にはそう見えるのだと青年は言う。
その声色は別に憤っているわけでも悲しんでいるわけでもない。
ただ、面白そうにしているだけだ。
「精霊としては、契約した相手がいるのに他の奴を構うのはルール違反だからな」
しかもそれをゼルジュードがしている。
それは驚くことなのだと青年は言うのだ。
「それはいけない事なの?」
「罰されるべきところまではいってないが、モラルはないな。お前がもし、もう俺と婚いでいたなら、あれは滅ぶ」
何をせずとも、あれは滅ぶぞと青年は楽しげに言う。
その言葉にぞっとした。
滅ぶ、とは。精霊に置いて一番の恥であり、罪を犯したが故に起こる事だ。
それは嫌だと思う。
私はゼルジュード様に存在していてほしい。
姿見れば苦しく、心は軋む。それでも、存在していてほしいし目にしたい。
つまりはまだ、ふっきれてはいないのだ。
「……俺は、お前がゼルジュードを好いていても許しているよ、まだ」
まだ、というのは。
いったいいつまでなのだろうとは思う。
私は顔をあげる。半身起こせばふふと笑い声が零れるのが聞こえた。
「アイラ。アイラが望むなら、ゼルジュードの契約を破棄してやることも、俺にはできる」
「破棄?」
「けどそれも簡単にできるものではないし、俺にもリスクがある」
さぁ、どうする? と口は弓引いて笑う。
答えは簡単。そんなことは、願わない。
願っても、時が巻戻るわけではない。
あの方が、一度はライアを選んだ。その事実は消えない。
それがある限り私の心は、決して穏やかではない。
昔のように穏やかにはなれない。いつもさざ波立ち、ざわざわとしたものになる。
「そんなの、願わないわ。あなたにリスクがある。私に何もないとは言えないから」
「はは、利口だな。そう、その通りだ」
もしそうなれば、お前に負ってもらうのは記憶だったと青年は言う。
全てではないが、記憶のその一部でも欠ければ安寧は迎えられたかもしれないが。
青年は笑い零しながら、私の前で膝をつく。
「さて、アイラ」
「なあに?」
「まだ時はあるが、契約にはタイミングがある。我ら夜闇を基幹とする精霊はその巡りが他の精霊達より少ないのだ」
「ええ」
「お前が16のうちにある巡りは丁度一か月後だ」
「けれど、あなたの名前を知らないわ。あなたが名前が思い出せないというから」
「いや、それはもう問題ない」
俺は名を思い出し、俺が俺たるを得たのだから。
そう、青年は言って笑う。
今までで一番、柔らかな笑みに一瞬、鼓動が早くなった。
私だけに向けられた笑み。きっとこれは、私しか知らぬものだ。
「そもそも、何故、アイラを望んでいるのかも俺は言っていなかったな」
「そうね」
「ゼルジュードは、紡いだか?」
「……いいえ」
ならば、紡ごうと青年は笑った。
そして覚悟を決めて欲しい、と。
私の心はぐちゃぐちゃだ。カウチに寝そべりクッション抱いて伏せていると、背後に気配。
背中の側にいるのは、彼だろう。
しかし現れても、何も言わない。それはまるで先程のことを知っている、と言っているようだ。
「何か用事?」
「俺が、というよりもお前が、言わなきゃいけないことがあるだろ?」
「さっきのゼルジュード様のこと? 何もないわ、私は拒否したもの」
「でも口付は貰った」
すぐさっきのことだと青年は言う。
私はそうねとただ、頷いただけだ。
「さっきのを受け、お前の心は躍ったのだろうか、それとも凪いだのだろうか」
俺はそれが知りたいと言う。私はそれに答えない。
どう答えたらいいのか、わからないからだ。
「ゼルジュードは未練しかないんだろうな、お前の手を取れなかったことが」
「未練?」
「そう。あいつはすでに婚いでいるのに! それなのにお前に手をだしている」
俺にはそう見えるのだと青年は言う。
その声色は別に憤っているわけでも悲しんでいるわけでもない。
ただ、面白そうにしているだけだ。
「精霊としては、契約した相手がいるのに他の奴を構うのはルール違反だからな」
しかもそれをゼルジュードがしている。
それは驚くことなのだと青年は言うのだ。
「それはいけない事なの?」
「罰されるべきところまではいってないが、モラルはないな。お前がもし、もう俺と婚いでいたなら、あれは滅ぶ」
何をせずとも、あれは滅ぶぞと青年は楽しげに言う。
その言葉にぞっとした。
滅ぶ、とは。精霊に置いて一番の恥であり、罪を犯したが故に起こる事だ。
それは嫌だと思う。
私はゼルジュード様に存在していてほしい。
姿見れば苦しく、心は軋む。それでも、存在していてほしいし目にしたい。
つまりはまだ、ふっきれてはいないのだ。
「……俺は、お前がゼルジュードを好いていても許しているよ、まだ」
まだ、というのは。
いったいいつまでなのだろうとは思う。
私は顔をあげる。半身起こせばふふと笑い声が零れるのが聞こえた。
「アイラ。アイラが望むなら、ゼルジュードの契約を破棄してやることも、俺にはできる」
「破棄?」
「けどそれも簡単にできるものではないし、俺にもリスクがある」
さぁ、どうする? と口は弓引いて笑う。
答えは簡単。そんなことは、願わない。
願っても、時が巻戻るわけではない。
あの方が、一度はライアを選んだ。その事実は消えない。
それがある限り私の心は、決して穏やかではない。
昔のように穏やかにはなれない。いつもさざ波立ち、ざわざわとしたものになる。
「そんなの、願わないわ。あなたにリスクがある。私に何もないとは言えないから」
「はは、利口だな。そう、その通りだ」
もしそうなれば、お前に負ってもらうのは記憶だったと青年は言う。
全てではないが、記憶のその一部でも欠ければ安寧は迎えられたかもしれないが。
青年は笑い零しながら、私の前で膝をつく。
「さて、アイラ」
「なあに?」
「まだ時はあるが、契約にはタイミングがある。我ら夜闇を基幹とする精霊はその巡りが他の精霊達より少ないのだ」
「ええ」
「お前が16のうちにある巡りは丁度一か月後だ」
「けれど、あなたの名前を知らないわ。あなたが名前が思い出せないというから」
「いや、それはもう問題ない」
俺は名を思い出し、俺が俺たるを得たのだから。
そう、青年は言って笑う。
今までで一番、柔らかな笑みに一瞬、鼓動が早くなった。
私だけに向けられた笑み。きっとこれは、私しか知らぬものだ。
「そもそも、何故、アイラを望んでいるのかも俺は言っていなかったな」
「そうね」
「ゼルジュードは、紡いだか?」
「……いいえ」
ならば、紡ごうと青年は笑った。
そして覚悟を決めて欲しい、と。
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