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12章 田中の章

絶望から

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故郷まで行くのに俺が怖かった奴らはもう居なくなっていた。
凄く安心した。
何かあっても塁も加藤さんも動じないだろうから、奴らと会ったら必ず戦う事になる。覚悟はしていたけど、怖かった。
でももう奴らも気を違えた人になっていて、今の俺の敵ではない。
塁の故郷でもあるし、俺の故郷でもある、ここに着いた。
人が住んで居る、いや気を違えた人達すら居るとは思えない状況だった。
塁の顔が絶望的になっていた。
加藤さんも、諦めた表情だった。
俺は、皆に声をかけた。
兎に角、探して見よう。気を違えた人を治す研究をしている人を。
二人ともうなづくだけだった。
二人は絶望を知らないからいつも前向きだったのかも知れない。
逆に俺は、絶望から逃げて来たから、普段は怯えていたけど、故郷のこの状況を見ても、絶望とは思わず、当然と思っていた。

道を邪魔する瓦礫、大地震の後のように崩れた建物、いったいここで何があったのだろうか。
俺は、何処か人が住める様な建物を探していた。
あっちこっちの建物を見たが、人が居るような場所は無かった。
そんな中、塁が言う。
場所を変えたのでは?
そもそも、ここで研究している理由がない。
一旦、船に戻ろう。
加藤さんもそうしようと同調した。
俺は、早く船に戻りたいと思っていたから二人の口からその言葉が出て、安心した。
しかし、戻るにも今日は真っ暗になり危険だ、さっき見た建物がまだ一泊位はなんとかなりそうだと思い、そこに一日留まった。
この辺りには人も気を違えた人達も居ないと安心しきって俺達は見張りも立てずにぐっすりと眠った。

翌日、目が覚めると加藤さんが居なくなっていた。
塁が大騒ぎする。
俺はトイレにでも行って道に迷っているのだろうくらいにしか思っていなかった。
だが、探し回っても何処にも居ない。
塁が叫ぶ。
だが、やはり返事はない。
塁が言う。
加藤さんは道に迷うようなヘマはしない。
本当にトイレには行ったのかも知れないけど、絶対に何かあったに違いない。
俺は塁に言った。
誰だって道に迷う事位あるだろ。それにこんなボロボロの場所だ、どこに居ても同じ景色だし、俺ならここで道に迷ったら、車に戻ろうと思うよ。もしかしたら、加藤さんも車に先に戻ろうとしてるかも知れないよ。
塁に大きな声で馬鹿にされた。
道に迷ってんのに車までどう戻ろうと思うんだよ?
それに加藤さんが居ないのに車に戻るって何言ってんだよ!
言われてから、俺も思った。
確かに。道に迷ってんなら尚更置いてけない。
自分が早く、船に帰りたい一心で言ってしまった。
つくづく思う。塁、いや、船に居た皆は凄く深く考えて行動しているのに対して、俺は自分の事ばかり考えてしまう。
頭の回転が全然違う。
塁が言う。
兎に角、加藤さんを探そう。
夜になっても見つからない。
塁は寝る気がない。
俺は眠いが頑張って探そうと思う。
そこで塁に言ってみる。
もしかして、俺がグループで居た場所に居たりして…
塁が聞いてくる。
なんで?なんでそう思ったの?
俺は思いついたまま話す。
あの街で誰か生きてて、この辺りに来て、たまたま加藤さんがトイレに行く時に会っちゃって、悪い奴で連れてかれてったとか思ったり…
塁は単純な奴だ…
塁が怒りながら、田中君行くぞと言って故郷を後にした。

街に着くと、本当に加藤さんが居た形跡があった。
加藤さんが持っていたバックが中身が空になって落ちていた。
もう真夜中、この辺りは気を違えた人達も居るから、明日の朝からまた探そうと塁に提案する。
塁もしょうがなく、俺の意見を飲んだ。

翌日になると、塁が居ない。
じっとしてられないで先に出て行ったか?と思い外に出ると、辺りに気を違えた人達が群がっていた。
俺は気付かれないようにこっそりと中に戻る。
絶対絶命、絶望的な状況だ。
加藤さんも居ない、塁も居ない。どうやって切り抜けたらいいのか。
決心出来ない。
このままここに籠っていよう、いやダメだ、俺もちゃんと戦えるようになったんだ。ここをなんとか切り抜けて、加藤さんと塁を探しに行こう。
気持ちは持てる、体が動かない。
何時間か経ってしまった。
もしかして、気を違えた人達の群れは、塁を襲っていたんでは?と思い、とてつもなく不安になってきた。
思いを決して、外に飛び出すとあのヤクザのような輩のリーダーのような男が塁と一緒に気を違えた人達をやっつけていた。
安心した反面、ヤクザのような輩がまだ居たと思い不安にもかられた。

ボーっとしてられない。俺も一緒に気を違えた人達をやっつけた。
一通り倒し終わると塁が近寄って来た。
田中君、加藤さん無事だったよ。
塁がホッとした顔で言ってきた。
ヤクザのような輩のリーダーが近寄って来た。
お前、前にここにいた奴だったな。その時は本当に申し訳ない事をした。
本当に申し訳ないように言って来た。
俺は、それでもコイツを信用出来なかった。
塁が言ってきた。
思う気持ちはわかるけど、一旦胸にしまってついてきて欲しい。
俺は、今は危険はないと思いついて行く事にした。

ついて行ってた先は病院の地下だった。
そこに着くと、加藤さん、眼鏡をかけた頭の良さそうな男、背の高い女性、元気の良さそうな女性、女性の気を違えた人が一人居た。
気を違えた人は縛られているが大人しく、特に危険はなさそうだった。
ヤクザのような輩のリーダーが皆を紹介しだした。
ヤクザのような輩のリーダーは木林、眼鏡をかけた頭の良さそうな男は田山、背の高い女性は田村、元気の良さそうな女性は村田という名前だと紹介された。
そして、塁が言う。
この気を違えた人は、ゆり子さん。
パパと仲の良かった人だ。
俺達は辿り着いたのだとすぐにわかった。
そうここで気を違えた人を治す研究をしていた。

俺、塁、加藤さん三人揃ったところでようやく、ちゃんと話しを始めた。
加藤さんは連れ去られたのでは無く、長居になるからと思い、缶詰めを探しに出てた所、気を違えた人達に囲まれていたのを木林に助けられた。塁はトイレに出たところを気を違えた人達に囲まれて戻れなくなっていたところ木林達と会ったという事だった。
そして、塁が本題の話しを切り出した。
気を違えた人を治す研究は何処まで来ているのか?
田山が答える。
ゆり子さんを指差しながら、今は、大人しくさせる位までにしか至っていない。
塁がまた質問をする。
オレの故郷で研究をしていたと聞いたが何故ここで研究しているのか?
田村が答える。
私達は、ある人を追って貴方達の故郷によったの、木林さんは別だけど。
そこでその人と会ったらその人の元奥さんが気を違えた人になっているはずなのに意識があったの。
それで、その人も一緒になって治す研究をしていたのだけど、私達と一緒に来たはずの一人が、その人の元奥さんを連れて何処かに行ってしまって。
続けて村田さんが言う。
丁度その時に木林さん達が襲って来て、その人は木林さん達の仕業と思いこんで、翌日に木林さん達を一人で襲った。
木林さん意外の人達はあっという間に動けなくされて、自分達で張った罠の餌食になった。
木林さんは自分の仲間がした事を謝りにやって来て、その人に会ったら、木林さんもかつてその人に救われた人だった事がわかって、一緒に研究するようになった。
でも、その人は気を違えた人になってしまったとはいえ、元奥さんを連れて行った奴を許せないと言って、出ていってしまった。
木林が言う。
あの人は何処に行ってしまったかはわからないが必ず生きている。
だが、その後、数日後にあの街に軍隊のような奴らが元奥さんを連れて行った奴と一緒にやって来たんだ。
その時には、こっちももっと仲間が居たが、そいつ等に殺されていって、で生き残った俺達はここに逃げ込んだって訳だ。

俺はこの人達の話を信用出来ないでいた。
大体が気を違えた人を治す事なんて出来る訳がないと思い込んでいたからだ。
でも、塁と加藤さんは違った。
希望に満ちた顔で言ってきた。
田中君は知らないだろうけど、オレも加藤さんも木林さんにあった事があるんだ。
続けて加藤さんが言う。
そう、そしてこの人達は、元々私の同僚だった人達。
俺には訳がわからなかった。
塁が確信をついたように言ってきた。
だから、パパは、生きているんだよ。
この事を早く、兄に、明子さんに伝えに行かなくちゃ。
ようやく、俺も理解し、大声を出して泣き崩れてしまった。

松野が生きている。
なんだか行けそうな気がする。

12章終
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