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旭は安藤と目は合ったが、ノーリアクションですぐに進行方向に向かってサッサと歩いて行った。

はぁ~~~?
あ~~~?

今、確かに目があったよな?
俺に気付いてないとか?

…というか…まさかほんとに俺の事忘れてんのか???


「栗原~、どっか行きたいとこない? 俺が連れてってやるからさ、この車でっ!」
類は何度も何度も前髪をかき上げまくって言った。

「え~、今から? どうしよ~。でも、木下君ちの運転手さん、カッコいいよね! 助手席に乗ってみたいな~。」
凜は安藤をチラチラ見ながら完璧なとまどい顔で言った。

安藤はそんな二人を無視して車を発進させた。

「おい、安藤先生~!どこ行くんだよ~! ま、行ってしまったものはしょうがない。で、どこ行く? 栗原。」
類は目力を入れて凜に迫り寄った。

「ん~、私、用事あるの思い出しちゃった~。」
「え、何の用事。」
類は全く空気が読めない。

凜はとっさに用事を考えた。
「えっとぉ~、あ!バイト! バイトがあるんだった!」
「そうなんだ~! 栗原って、どこでバイトしてんの?」
「え…えっと、あ~、居酒屋ぽんぽこって店なの!」
凜は帰り道にある居酒屋の名前をとっさに言った。

「へぇ~! 今度俺行っていい?」
「ダメダメ!高校生が居酒屋に出入りしてたら学校にバレちゃうし、私が内緒でバイトさせてもらってるのもバレちゃう!」

凜はここで居酒屋のバイトと言ったのは、我ながらいいアイデアだと思った。
これでやっと類の攻撃から逃れられると思ってホっとしたのもつかの間、空気の読めないこの男はさらに食い下がってきた。

「居酒屋のバイトって、夕方からでしょ? じゃ、それまでカフェでも行こうぜ!」

「あー、あーーー、それがねっ! のっぴきならない用があるの! 向かいのおばあちゃんちのお風呂のお湯がぬるくなってる頃だから、私が行って追い炊きボタンを押してあげなきゃいけないのぉ~!」
凜は自分でも訳のわからない苦し紛れな言い訳をして、支離滅裂になった。

「そういう訳なので、ごめんねぇ~。」
そういうと凜は一目散に帰って行った。

「向かいのおばあちゃんのお風呂の心配までしてあげるなんて、さすが栗原! 顔も美しいけど心もピカピカだぜ!」


類は前髪をかきあげ、目を細めてあらぬ方向を眺めた。


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