日々充実したいだけの僕と食物部の立川さん

まんまるムーン

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3.おにぎり

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 そして現在

 目の前に現れた幻影はゆっくりと消えていった。

「…あれって…」
綾女が砂原に言った。砂原はボーっとしたままだった。

「太郎ちゃんは…綾子さんと結婚しなかったのね…」
ルリは呟いた。

 綾女と砂原はそっとルリの方を見た。何も言わなくても二人には分かった。ルリにはルリ子の霊が憑依していると。しかし不思議と怖くはなかった。むしろルリ子の生涯を憐れむ気持ちの方が湧き上がっていた。

―でも…このまま体を乗っ取られたままじゃ…

 綾女は本物のルリの事が心配になった。

「そう! 太郎さんは綾子さんとは結婚しなかったんだ。」
突然、繁充が言った。ルリ子が憑依しているルリは、ゆっくりと繁充の方に振り向いた。

「だから君もそろそろ行かなきゃ。」
繁充はルリ子に優しく微笑んだ。

「でも…もうずっと暗闇の中にいたから、どこへ行ったらいいのかわからない…」
ルリ子は呟いた。

「そう思って、ほら! 用意して来たよ。君の大好きなおにぎり。」
繁充はそう言うと、持っていた袋を差し出した。そして暗い部室棟の廊下にレジャーシートを挽いて、真ん中に重箱を置いた。

「ほら! みんな座って!」
ルリ子はおずおずとその場に座った。綾女と砂原は目を見合わせて、戸惑いながらもその場に座った。

 繁充は重箱の蓋を開けた。そこには質素な塩結びが入っていた。

「どうぞ!」
繁充は三人におしぼりを配った。

「…暖かい…」
ルリ子は呟いた。

 グルルルル…

 ルリ子のお腹が鳴った。こんな時にお腹が鳴るなんて…とルリ子は思ったが、グッとこらえた。ルリ子はおにぎりを一つ手に取ると、ジロジロとそれを眺めた。

「…やっぱり太郎ちゃんが作った方が美味しそうだわ…」
ルリ子は呟いた。

「まあまあ、そう言わず、食べてみて!」
繁充は優しく促した。

 …パク…

 ルリ子は一口食べて、目を閉じた。目じりから一筋の涙がこぼれた。

 そしてルリ子は一気におにぎりを平らげて二個目を手にした。見ていた三人も、その光景に思わず笑みがこぼれた。

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