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小料理 タヌキ屋
しおりを挟むその日、私はボロボロだった。
今回ばかりは結婚するのだと思っていた彼氏に、あろうことか振られてしまったのだった。
30歳から付き合い始めて5年。
振るか?
35になったぞ、私は!
大事な婚活期を返しやがれ!
あまりのショックでフラフラする。とりあえず家に帰ろう。こんな時にフラついているとロクな事が無い。私はトボトボ家路へ向かった。
駅前の商店街を半分くらいまできたところで、なんだか周りの景色がいつもと違うことに気づいた。普段気づかなかった路地がある。
毎日通っている商店街なのに何故いままでこんな路地があることに気が付かなかったのだろう?
小さな路地沿いには、赤い提灯が大げさなくらいびっしりと吊るされていた。私は吸い込まれるようにその路地に入っていった。
見上げると、空にはお月様
気づくと、一軒だけ灯りがついていた店の前に立っていた。
小料理 たぬき
手が勝手に動いてその店の戸を開けていた。後ろから押されたように店の中になだれ込んだ。
「いらっしゃいませ。」
中から女の人の声がしたが、バランスを崩した私はカウンターに倒れこんだ。すぐ横にあった椅子にとりあえず座った。
何で小料理屋なんかに入ってるんだ…。
早く家に帰って思いっきり泣こうと思ってたのに…。
「お飲み物…何になさいます?」
店の女将らしき声がした。
「…じゃ、とりあえずビールで…」
何も考えられなかった。とりあえずビール一杯飲んだらすぐに帰ろう。私はそう思っていた。
「オーダー入りまぁーす。ワンビアぺルファボーレ!」
小料理屋らしからぬオーダーの入れ方…。そして英語かイタリア語かどっちかにしてくれ…。
「スィ! ビア承りましたっ!」
重低音を轟かせて男のフリをしているが、この声は完全にさっきの女将だ!
つか、最初から一人しかいないだろっ!
自作自演か!
面倒くさい女将に無駄にイラっとして、顔をあげてカウンター越しにいる女将を見た。
―え…?
タヌキだ…
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