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しおりを挟むカスミは本来、私の兄に恨みを持っている霊だろうと沢井君のお姉さんは言っていたそうだ。
兄がやらかしたせいだけど、本人が強いとそっちに行かないで周りの弱い人間に憑りつくことってよくあるらしい。
もしかしたら、兄に酷いことをされて、自殺した人もいるのかもしれない…。
もしかしてそれが…カスミ…?
「今井さん、優しいからな。霊もすがりたくなったのかもね。」
「そんな事ないよ…。」
誰かに褒められたのは久しぶりだった。照れてしまって、顔が真っ赤になっていくのがわかる。
恥ずかしい…どうしよう…。
とにかくお礼を言わなくては!
「沢井君、本当にありがとう! あの場であんな勇気を出せるなんてすごいと思った! 沢井君がいなかったら、私今頃どうなっていたかわからないよ! ずっと連絡すらしていなかったのにね。沢井君って、本当に親切なんだね。」
「…実は…。」
「ん?」
「下心もありました…」
「嘘でしょ? 私なんかに?」
「そんなことないよ! 久しぶりに会ったら…急に昔の感情思い出して…寝てるとこも可愛かったし、ナチュラルでいいなと思った。」
こんな身なりに気を使わない私をナチュラルと取ってくれるなんて、奇特な人もいるもんだ…。
「生徒会やってたときから、今井さん、陰で面倒くさい仕事してくれてたでしょ。実は秘かに好感持ってたんだ…」
そう言われてみれば…生徒会の仕事をしていた時、いいタイミングで沢井君が手伝ってくれることが多かった。
「言って欲しかった! 私、誰かに告白とかされてみたかった!」
「そ、そうなの? ごめんなさい。」
「いや、謝らないで! なんか偉そうに、私の方がごめんなさい。」
「俺、感情の沸点が低いから、思っていても行動には移せないんだけど…今回、恐怖体験のおかげで、ヒーロー気どりが出来て、恥ずかしいんだけど、なんか気持ちよかった!」
沢井君は照れながら笑った。そんな彼を見ながら、二人の将来を想像している自分に気付いて、恥ずかしくなって顔が真っ赤になった。
私は気恥ずかしさからとっさに話題を変えた。
「でも…何故カスミは突然消えたんだろ?」
「その女将の強い陽気に、その霊はじかれちゃったんじゃない?」
「…ん…、そうね…」
「後さ…栗も小豆も魔除けにいいらしいって聞くよ」
「…そうなの? だから女将、私に栗ぜんざい出したのかな。注文もしてないのに…」
女将にはカスミが見えてたのかな…。とてもそんな風には見えなかったけど…。
私はあの真ん丸な笑顔を思い出した。
タヌキ女将、自分で自分の事、この界隈でちょっと知られた美人女将、なんて豪語してたけど…今思うと…やっぱ可愛いかも!
「沢井君! これから用事とか、ある?」
「無いよ。」
「じゃ、上野にパンダ見に行かない?」
「パンダ? 今井さんもパンダ好きなの? 俺、パンダめちゃくちゃ好きなんだよ。まさか知ってて誘ってくれた…とか?」
「知らない、知らない! 沢井君、パンダ好きなんだ。女将と気が合いそうだな!」
「そう?」
「うん! 女将がね、幸せな人間には邪気が寄ってこないっていってたから、パンダ見て幸せになろうと思って。」
「へぇ、俺もその女将に会ってみたいな。」
「会ったらびっくりして腰抜かすと思うけど…」
「どして?」
「あまりに可愛いから!」
またあの真ん丸でフッサフサのタヌキ女将に会いたくなった。次は沢井君も誘ってみよう!
ありがとう、タヌキ女将!
私はもっと、人生楽しむよ!
終り
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