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番外編 後輩くんの悩みごと
「うわー、今日もえげつない程痕つけられてますねー、先輩」
「えっ!?見えてる!?全部隠したつもりだったのにっ、あいつ……」
職場の先輩である間原柳には、同棲している過激な恋人がいる、らしい。
今日も見せつけるように、くっきりと歯形と鬱血痕が鏡では見えないだろう位置にバッチリ残されている。
きっと、年上の女王様な彼女さんなの仕業だろう。押しに弱く、お人好しな先輩がよほど心配なのか、こうして牽制のように痕をつけ、周りに威嚇しているように思えた。
「ごめん、この傷隠しのやつ貼ってくんない?」
慣れたように肌色のテープを渡してくる先輩に、何だか哀れみすら感じてしまう。
俺、相羽周は、女の子が大好きだ。
可愛くて、いい匂いがして、柔らかい。癒やし的要素に惹かれる自分としては、女王様にマーキングされる先輩の趣味はあんまり理解できない。
「相羽……?」
「いや、先輩はすごいなぁって……」
「なんだよ、それ」
フッと笑うと八重歯が見える。地味な容姿だと先輩は自虐するが、年齢にしては可愛らしく愛嬌のある容姿だと思う。自分で作っているという彩り綺麗な弁当も持参してくるし、家庭的で、先輩が女の子だったら間違いなくお嫁さんに欲しい。
日焼けしていない真っ白な首筋に残された痕の上にテープを貼り付け、彼女さんの痕跡を隠していく。それがいけないことをしているみたいで、若干落ち着かなくなった。
「ありがとう、相羽。この前のお詫びもかねて、今度飯奢るから、何がいいか考えといて」
「はーい。楽しみにしてます」
この前。
泥酔した先輩を家に泊めた日。
彼女さんに三年目の浮気をされたのではと、先輩はかなりしょげながら酔っ払っていた。浮気なんて絶対に有り得ないだろうに。
スマホに何度も着信がきて、『風見佳人』ってディスプレイに表示されていたから、取引先の人かなと思って取りあえず出てみたら、「は?」と地獄の底から聞こえるような低い声が聞こえたと思ったら通話を切られた。
朝になって真っ青な顔をして先輩が帰っていったから、きっと『風見桂人』は恋人のお兄さんとか親族系だったのだろうと推測している。
家族ぐるみで先輩を監視して束縛しているのだろうか。
想像しただけで恐ろしい。
週が明けて会った先輩はニコニコ幸せオーラを出していたから、彼女さんの誤解は解けて、仲直りしたんだろうと思うけど、先輩の未来を考えたら、複雑なわけで。
先輩、そのお付き合い、大丈夫ですか?
って訊いていいものか。突っ込まない方がいいのか。
完全な部外者な俺は未だに触れられないでいる。
◆◆◆
「先輩……その人は……」
「あ、あの、相羽と飲みに行くって言ったら、ついて来ちゃった……」
「この間はどうも、柳がお世話になりました。失礼な態度を取っちゃったから、是非会ってお詫びがしたくてついて来ちゃいました。風見といいます」
キラキラしたイケメンが先輩の隣に立っていた。
犬系統、猫系統とかで分けるなら絶対に猛犬、いや狼っぽい鋭いオーラを感じる。ただ者ではないイケメンに俺は後ずさりしそうになった。
それに、話を聞くと、あの夜、俺が先輩のスマホに出ちゃって、「は?」と呟いたあの『風見』さんらしい。先輩の恋人のお兄さん……かもしれない人。
ここで俺が逃げ出したら、先輩は酷いことをされてしまうかも。
女王様やこのイケメンにむち打ちとか、ヒールで踏まれたりとかっ!
逃げるわけにはいかない。
先輩とはなんにもなかったことを分かって貰わなければ!
先輩に目を向けると、ごめんなって顔をされた。
これはSOSかもしれない。
「こっ、後輩の相羽です。先輩にはお世話に……」
鋭い視線を感じた。
「なっているというか、適度な距離で、ただの先輩後輩の間柄で接していただいています」
「そうですか。柳がよく相羽さんの話をするので、実際にお会いできて嬉しいです。これからも、後輩として、柳をお願いしますね」
後輩としてって強調された。そんなイケメンを先輩は小突いた。なんか、すごい照れた顔をして。なんで、先輩が照れるのか、全く意味が分からないけど、なんとなくこのイケメンと先輩は親しい関係なのかなって感じた。
「相羽、たーくさん飲んでっ!いつも、ありがとうなぁ、お前は本当よくやってくれてるよ、先輩として俺は、俺はっ……」
「柳、飲み過ぎ。はい、水も交互に飲んで。すみません、柳、酒癖悪いでしょう?」
「い、いえ」
先輩の横に座り、甲斐甲斐しくお世話するイケメンは、意外と話しやすく、気配り上手だ。最初に感じていた鋭いオーラも引っ込み、ただの先輩の仲の良い知り合いみたいで、会話も思いのほか弾んで、最後の方には連絡先までスムーズに交換する仲になってしまった。
「じゃあ、今日はこの辺で。先輩潰れてますね、俺同じ方面なんで──」
「大丈夫。一緒に住んでるから、俺が責任持って連れ帰るよ」
最後に大きな爆弾を落とされてしまった。
一緒に住んでる……?
だって、恋人と二人で同棲中って先輩から聞いたことがある。
ってことは──。
「じゃあね、相羽くん」
ニッコリと微笑み、先輩の肩を抱きながらタクシーに乗り込んでいくイケメンを、俺はポケーっとしながら見送るしか出来なかった。
◆◆◆
「昨日は本当にごめんっ、酔い潰れちゃって!その……桂人なにか変なこと言われてない?」
「……いいえ、特にはっ……。昨日はごちそうさまでしたっ」
翌日、更に噛み痕と鬱血痕を増やして出社してきた先輩に、俺は知らない振りをした。
関わらぬが仏。
あんな恐ろしい先輩の恋人に目をつけられたら終わりだ。
同性愛に偏見なんてないし、今時珍しくもない。
先輩がイケメンを好きなのも、イケメンが先輩を溺愛していることも昨日の飲み会でわかったし。
余計な心配はもうしない。
けど──
『昨日はありがとうございました。良かったらまた、会社での柳のこと、教えてくださいね』
イケメンからのメッセージに、何だか背筋は寒くなるのは、気のせいだろうか。
俺の悩み事がまたひとつ、増えた気がした。
END
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