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第四章 Side B
8 エリーと第二の人生プラン
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冬が始まった。
「おい、エリー。」
エリーがオルグレン公爵家に嫁いできて一年と半年ほどが過ぎた。白い結婚を三年続けて離縁するという契約だったことから結婚生活の半分を終えたこととなる。
「エリー。」
しかし、三年を前に離縁をすることになりそうだ。旦那様であるブラッドリーは意中の人を手に入れるチャンスをつかんだ。
「エリー!」
おそらく、エリーとブラッドリーの離縁は次の春から夏にかけてのポートレット帝国の侵攻のさなかか終わった後になるだろう。戦局を見て決められるはずだ。
「エリー!!」
幼馴染の声にエリーははっとした。顔を上げると向かいの席ではヘンリーがお茶を飲みながらこちらを見ている。
「どうしたんだよ、ぼーっとして。」
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたの。」
「アーチボルト侯爵が伯爵に降爵になったことか?でも当初予定していたような令嬢の婚約とセットではなかったな?」
「ええ。代わりにアーチボルト伯爵が海戦に集中するために、領地運営に国から役人を派遣するとのことだったわ。」
「国が補佐するから多めに見てやってくれということだろうな。海軍の方で令嬢を手放せない理由ができたのかもな。なかなかやり手らしいし。
だけど、ポートレット帝国の海戦が収まるまでの話だろう。」
ヘンリーはちらりと部屋にいる侍女たちに目をやった。付き合いの長いエリーは言わんとするところを察した。
「メアリー、少し席を外してくれるかしら。」
「…かしこまりました。」
侍女が席を立つとヘンリーに向き直り、先を促す。
「アーチボルト嬢の相手はオルグレン殿に内定したという話を仕入れた。エリーと離縁させて、か、エリーを第二夫人としてということになるようだ。」
「第二夫人?」
「つまりは側室だな。」
「ええ!?そんなの王族以外に許されないでしょう?」
「まあな。でも愛人を抱えている貴族や愛人を同伴してパーティに出てくる貴族だっているだろう?」
「それなら、私は離縁でいいわ!」
「エリー、声が大きいよ。」
「…ごめん。」
しかし、いまさらブラッドリーが側室にするなどと言い出すわけがない。いったい誰の意見なんだ?
「エリー、王太子妃殿下と親しくしているだろう?妃殿下がご立腹で離縁に反対しているということなんだ。」
「エスメラルダ様…。」
正直、いらぬ心配である。もともと、エリーは離縁する予定で結婚しているのだ。第二夫人として囲い込まれるだなんて冗談ではない。
三年間の辛抱だと思ってきたから、ブラッドリーに無能とばかりに屋敷に閉じ込められることにも我慢しているのだ。
それがこの先も続くだなんて、耐えられない。
「今度、エスメラルダ様にお話ししておくわ。」
「離縁されたらどうするんだよ?ていうか、離縁されるかもしれないって聞いても落ち着いてるよな?もしかして、最初から将来的に離縁することになってたんじゃないか?」
…これだから鋭い子は嫌いよ。
「まさか!そんなわけないじゃない?」
ヘンリーは疑いの目でこちらを見ている。
「…まあ、いいけど。離縁後のことは考えてるの?」
「そうね。何か仕事をしたいけれど。」
「いつでもエバンズ商会を頼れよ。」
エリーが顔を上げると真剣な顔をしているヘンリーがいた。
「…ありがとう。」
ーーーー
エスメラルダとのお茶会でも、エリーははっきりと彼女に伝えることにした。
「エスメラルダ様が私の離縁に反対してくださっていると聞きました。」
「当然だわ!だって、離縁されて傷がつくのは女の方よ!この先、あなたにまともな縁談は望めないのに、放り出そうとしているだなんて!」
「心配してくださり、ありがとうございます。でも、私、第二夫人としてオルグレン家に残るのは嫌なのです。」
「…アーチボルト嬢はとても好感を持てる女性よ?あなたのことも悪くはしないと思うわ。」
「そうであっても、旦那様の下で第二夫人として過ごすのは嫌なのです。」
「どういうこと?」
「旦那様は…、もともと私と離縁するつもりだったと思います。家格に差があることも、私が全く社交をさせてもらえないことも、エスメラルダ様はご存じですよね?
私もいつか離縁されると思って結婚しましたし、離縁される覚悟もできています。
このまま一生、旦那様の下で今の様に暮らしていくと思うと、その方が憂鬱なのです。終わりがあると思うから、今の生活も悪くはないと思えるだけなのです。」
「あなた、いじめられているわけではないわよね?」
「違います!でも、旦那様は私に何もしないことをお望みなんです。」
「それは…退屈な生活ね。」
「アーチボルト嬢が来れば、ますます閉じこもった生活を要求されると思います。それならば、傷がついても離縁してほしいのです。」
「そう…。」
エスメラルダは視線をさまよわせる。
「でも、あなた離縁後はどうするの?」
「働こうと思っています。友人の商会で雇ってもらおうかと。実は輿入れ以前は簡単な仕事をして家計を助けていたのです。」
「それなら、私の侍女になったらいいわ!」
「エスメラルダ様の、侍女、ですか?」
「そうよ!私があなたを気に入りすぎて侍女にするために公爵家から引き抜いたことにするのよ!」
「しかし…。」
「あなたが侍女になってくれたら大歓迎よ!エイブにも伝えてみるわ!」
「ええ…?」
エスメラルダは大盛り上がりで意気揚々とお茶会を解散にし、王太子殿下のところに行ってしまった。
まあ、悪くない話だから、いいか。
ーーーー
翌日、晴れていたので防寒着を着込んで家庭菜園の横のガゼボでくつろいでいた。ちなみに、今の家庭菜園には春に収穫する野菜が植えてある。今思うと、こうして途切れなく野菜を植えて育てられるのはエリーの魔女の素養のためかもしれない。
今日は雪がこんもりと畑と案山子に積もっていて、とても寒い。そろそろ中に戻ろうかというタイミングで、ブラッドリーはそこにやってきた。
「旦那様、お早いお戻り…。」
「お前は王太子妃殿下に離縁の話をしたのか!?」
ブラッドリーはいきなり声をはりあげた。
「え、ええ。エスメラルダ様が私が離縁されないように進言していると聞いたので、私にとっても離縁は悪いことではないのだ、と。もちろん契約の話はしていませんよ。」
「離縁されたら次の縁談は望めないぞ!?それでも離縁しようっていうのか!?」
「え?もともとそういう契約ですよね?旦那様は愛する人を迎えられる、私は契約に見合うだけのお金をもらって最終的には離縁する、という。」
そこでブラッドリーははっとしたような顔をした。…まさか、忘れていたのか?
「旦那様、お忘れになっていたのですか?契約書もあるので読み直してください。」
「た、たしかにそういう契約ではあったが…。」
「それに、私が屋敷に残っていては、旦那様の愛する方も旦那様の愛を信じられませんよ。」
「し、しかしだな…。」
「エスメラルダ様が侍女として雇ってくださると言っていますし、それならば誰の名誉にも大きすぎる傷はつかず、名案なのではないかと思います。」
ブラッドリーが何を反対しているのか、全くエリーにはわからない。だが、第二夫人ルートだけはなんとしても阻止するのだ。
「旦那様、働きすぎなのでは?少し休息をとられて、よく考えるのがよろしいかと思います。」
とりあえず、私が正しい。ブラッドリーには流されない。エリーは「では。」と言って屋敷の中に戻った。
翌日、旦那様は熱を出して初めて仕事を休むことになった。
「おい、エリー。」
エリーがオルグレン公爵家に嫁いできて一年と半年ほどが過ぎた。白い結婚を三年続けて離縁するという契約だったことから結婚生活の半分を終えたこととなる。
「エリー。」
しかし、三年を前に離縁をすることになりそうだ。旦那様であるブラッドリーは意中の人を手に入れるチャンスをつかんだ。
「エリー!」
おそらく、エリーとブラッドリーの離縁は次の春から夏にかけてのポートレット帝国の侵攻のさなかか終わった後になるだろう。戦局を見て決められるはずだ。
「エリー!!」
幼馴染の声にエリーははっとした。顔を上げると向かいの席ではヘンリーがお茶を飲みながらこちらを見ている。
「どうしたんだよ、ぼーっとして。」
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていたの。」
「アーチボルト侯爵が伯爵に降爵になったことか?でも当初予定していたような令嬢の婚約とセットではなかったな?」
「ええ。代わりにアーチボルト伯爵が海戦に集中するために、領地運営に国から役人を派遣するとのことだったわ。」
「国が補佐するから多めに見てやってくれということだろうな。海軍の方で令嬢を手放せない理由ができたのかもな。なかなかやり手らしいし。
だけど、ポートレット帝国の海戦が収まるまでの話だろう。」
ヘンリーはちらりと部屋にいる侍女たちに目をやった。付き合いの長いエリーは言わんとするところを察した。
「メアリー、少し席を外してくれるかしら。」
「…かしこまりました。」
侍女が席を立つとヘンリーに向き直り、先を促す。
「アーチボルト嬢の相手はオルグレン殿に内定したという話を仕入れた。エリーと離縁させて、か、エリーを第二夫人としてということになるようだ。」
「第二夫人?」
「つまりは側室だな。」
「ええ!?そんなの王族以外に許されないでしょう?」
「まあな。でも愛人を抱えている貴族や愛人を同伴してパーティに出てくる貴族だっているだろう?」
「それなら、私は離縁でいいわ!」
「エリー、声が大きいよ。」
「…ごめん。」
しかし、いまさらブラッドリーが側室にするなどと言い出すわけがない。いったい誰の意見なんだ?
「エリー、王太子妃殿下と親しくしているだろう?妃殿下がご立腹で離縁に反対しているということなんだ。」
「エスメラルダ様…。」
正直、いらぬ心配である。もともと、エリーは離縁する予定で結婚しているのだ。第二夫人として囲い込まれるだなんて冗談ではない。
三年間の辛抱だと思ってきたから、ブラッドリーに無能とばかりに屋敷に閉じ込められることにも我慢しているのだ。
それがこの先も続くだなんて、耐えられない。
「今度、エスメラルダ様にお話ししておくわ。」
「離縁されたらどうするんだよ?ていうか、離縁されるかもしれないって聞いても落ち着いてるよな?もしかして、最初から将来的に離縁することになってたんじゃないか?」
…これだから鋭い子は嫌いよ。
「まさか!そんなわけないじゃない?」
ヘンリーは疑いの目でこちらを見ている。
「…まあ、いいけど。離縁後のことは考えてるの?」
「そうね。何か仕事をしたいけれど。」
「いつでもエバンズ商会を頼れよ。」
エリーが顔を上げると真剣な顔をしているヘンリーがいた。
「…ありがとう。」
ーーーー
エスメラルダとのお茶会でも、エリーははっきりと彼女に伝えることにした。
「エスメラルダ様が私の離縁に反対してくださっていると聞きました。」
「当然だわ!だって、離縁されて傷がつくのは女の方よ!この先、あなたにまともな縁談は望めないのに、放り出そうとしているだなんて!」
「心配してくださり、ありがとうございます。でも、私、第二夫人としてオルグレン家に残るのは嫌なのです。」
「…アーチボルト嬢はとても好感を持てる女性よ?あなたのことも悪くはしないと思うわ。」
「そうであっても、旦那様の下で第二夫人として過ごすのは嫌なのです。」
「どういうこと?」
「旦那様は…、もともと私と離縁するつもりだったと思います。家格に差があることも、私が全く社交をさせてもらえないことも、エスメラルダ様はご存じですよね?
私もいつか離縁されると思って結婚しましたし、離縁される覚悟もできています。
このまま一生、旦那様の下で今の様に暮らしていくと思うと、その方が憂鬱なのです。終わりがあると思うから、今の生活も悪くはないと思えるだけなのです。」
「あなた、いじめられているわけではないわよね?」
「違います!でも、旦那様は私に何もしないことをお望みなんです。」
「それは…退屈な生活ね。」
「アーチボルト嬢が来れば、ますます閉じこもった生活を要求されると思います。それならば、傷がついても離縁してほしいのです。」
「そう…。」
エスメラルダは視線をさまよわせる。
「でも、あなた離縁後はどうするの?」
「働こうと思っています。友人の商会で雇ってもらおうかと。実は輿入れ以前は簡単な仕事をして家計を助けていたのです。」
「それなら、私の侍女になったらいいわ!」
「エスメラルダ様の、侍女、ですか?」
「そうよ!私があなたを気に入りすぎて侍女にするために公爵家から引き抜いたことにするのよ!」
「しかし…。」
「あなたが侍女になってくれたら大歓迎よ!エイブにも伝えてみるわ!」
「ええ…?」
エスメラルダは大盛り上がりで意気揚々とお茶会を解散にし、王太子殿下のところに行ってしまった。
まあ、悪くない話だから、いいか。
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翌日、晴れていたので防寒着を着込んで家庭菜園の横のガゼボでくつろいでいた。ちなみに、今の家庭菜園には春に収穫する野菜が植えてある。今思うと、こうして途切れなく野菜を植えて育てられるのはエリーの魔女の素養のためかもしれない。
今日は雪がこんもりと畑と案山子に積もっていて、とても寒い。そろそろ中に戻ろうかというタイミングで、ブラッドリーはそこにやってきた。
「旦那様、お早いお戻り…。」
「お前は王太子妃殿下に離縁の話をしたのか!?」
ブラッドリーはいきなり声をはりあげた。
「え、ええ。エスメラルダ様が私が離縁されないように進言していると聞いたので、私にとっても離縁は悪いことではないのだ、と。もちろん契約の話はしていませんよ。」
「離縁されたら次の縁談は望めないぞ!?それでも離縁しようっていうのか!?」
「え?もともとそういう契約ですよね?旦那様は愛する人を迎えられる、私は契約に見合うだけのお金をもらって最終的には離縁する、という。」
そこでブラッドリーははっとしたような顔をした。…まさか、忘れていたのか?
「旦那様、お忘れになっていたのですか?契約書もあるので読み直してください。」
「た、たしかにそういう契約ではあったが…。」
「それに、私が屋敷に残っていては、旦那様の愛する方も旦那様の愛を信じられませんよ。」
「し、しかしだな…。」
「エスメラルダ様が侍女として雇ってくださると言っていますし、それならば誰の名誉にも大きすぎる傷はつかず、名案なのではないかと思います。」
ブラッドリーが何を反対しているのか、全くエリーにはわからない。だが、第二夫人ルートだけはなんとしても阻止するのだ。
「旦那様、働きすぎなのでは?少し休息をとられて、よく考えるのがよろしいかと思います。」
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