二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき

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エピローグ

終話? イヴァンの独白

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これにて完結とします。後日談の構想はありますが、だらだらとまとまらなさそうなので…。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

ーーーーーーーーーーーーー
イヴァン・ポートレットはポートレット帝国の第三皇子として生を受けた。父は野心的で好戦的な人物で、戦いは常にイヴァンの日常にあった。

皇帝グレゴリーは三歳だったイヴァンを戦場に連れて行くような人物だった。イヴァンは兄弟の中でも戦場が好きで喜んで何度もついて行った。

やがて興味は戦うことに向かい、戦士たちと共に体を鍛えるようになった。


着いた二つ名が”戦闘狂”。父は大いに喜んだ。


幼い頃から戦場に身をおいたためか、やがて、軍師としての才能も花開いた。

行き詰っていたブルテン王国との海戦の現場に顔を出し、最強と呼ばれる海馬部隊の弱点を見破った。海馬の集団行動は、騎手ではなく海馬のリーダーの力だと見抜いたのだ。

つまり、リーダー格の海馬さえ倒せれば海馬部隊は一瞬で瓦解する。


海馬の首を切るために、砲弾の代わりに鋭い刃を放つ対海馬用の武器を作らせ、戦場に導入した。

結果は圧勝である。


海馬だよりだったブルテン海軍は弱体化すると思っていた二戦目で、帝国軍は敗退した。ブルテン海軍は海馬がやられた時のことをちゃんと考えていたのだ。


…面白いじゃないか。


翌年が勝負と見たイヴァンは、魔法大国から秘密裏に購入していた魔法快速船と魔道具探知機を導入した。ブルテンはヒューゲンと同盟を組む。つまりは来年の戦場には通信の魔道具が導入されるはずだ。

実際、ヒューゲン軍はそれによって崩されたが、ブルテンとエスパルはすぐに魔道具の使用を取りやめてしまった。賢い。

恐らく、それに気づいたのは第一線の司令船に乗る誰か、だ。早めに消しておいた方がいい。


そう思ったイヴァンは魔法快速船に戦闘能力だけで結成された荒くれもの部隊を乗せて、司令船に突撃した。



そして、そこで恋に落ちたのだ。


司令船に乗り込んで指示を飛ばした自分に真っ先に飛びついてきたその洞察力と判断力、混戦の船の上を駆け巡る瞬発力、迷いなく急所を狙う剣技、相手が俺でなければきっとやられていた。

なんとか攻撃を急所から外し、相手を始末しようと剣を振り上げ…、思わず固まってしまった。

「…女がなぜここに!?」

その隙がなければ、イヴァンの攻撃は彼女に深手を負わせていただろう。イヴァンの剣は彼女の頬を深めに切った。美人の部類に入る美しい女性兵だったが、顔の傷など気にも留めず、イヴァンの腹に深々と剣を突き立ててきた。

イヴァンが倒れた勢いもあって、剣はイヴァンの腹に貫通した。細腕に見合わず、筋力もある。


イヴァンは重傷を負っていたが、離れていく女性兵の腕を渾身の力でつかんだ。別に一糸報いてやろうと思ったわけではない。この勇敢な女性兵の名前を知りたいと思ったのだ。

しかし、女性はあっけなくイヴァンの手から引き離された。

よろよろと起き上がると、女性はなぜか全裸の男に抱きしめられていた。…彼女が変態に襲われている!

「お前、なにをしている!」

マントを脱ぎ捨て何とか剣をつきつける。腹に剣が突き刺さっているが今はそれも気にならない。

「彼女から離れろ、この、変態が!!」

白髪の青年が顔をあげると、その美貌が目に入った。

「うるさい。」

青年はブルテン語でそう言うと左手をイヴァンに向けて突き出した。次の瞬間、イヴァンの体は宙を舞っていた。



ーーーー



深手を負ったイヴァンが落ちたのは、幸いにも味方の船の側だった。必死の治療から奇跡の回復をしたイヴァンは腹に刺さっていた剣に誓った。

必ず、あの女性兵と再会する、と。


正直、彼女の顔はうろ覚えだった。美しいということと、ポニーテールだったということ、一番の特徴となるはずの髪の色や目の色ははっきりと思い出せなかった。
しかし、あの司令船はブルテンの船だった。彼女もブルテン兵だろう。


帝国に帰り、療養していたイヴァンの下に、兄である第一皇子のマクシミリアンがやってきた。

話の流れで彼女の話になり、必ず再会したい、そのためにブルテンを落とす、と熱弁をふるっていると穏健派の兄に言われた。

「だが、彼女は軍人だろう?ブルテンが負けないように命を懸けるだろう?お前がブルテンを落とす前に死んでしまうかもしれないよ。」


ありうる…!彼女の雄姿を思い出せば出すほどありうる…!もしかしたら今年の侵攻の内にも死んでしまうかもしれない…!


「せ、戦争はやめましょう…!」


イヴァンは穏健派の兄に肩入れし、反乱を起こし、和平の使者としてブルテンへやってきた。

「例の女性が見つかったら、どうするんだい、イヴァン?」

「もちろん、求婚します!」


しかし、彼女は、なかなか見つからなかった。

あの時の司令船の隊長は「知らない」「上に聞け」の一点張り。ブルテンの国王は「ご自由にお探しください」で助けてくれる気配はない。

「我々は警戒されているのだから、当然だよ、イヴァン。」

腹の探り合いに慣れていないイヴァンをマクシミリアンは諭した。

「私たちはこの前まで敵同士だったんだ。軍にイヴァンを招いて情報を盗まれて、また戦争をおこされることを心配しているんだ。」

「私は彼女を見つけたいだけです!」

「もしかしたら、向こうは彼女が誰かをわかっていて隠している可能性もあるよ。」

「そ、そんな…。」

しかし、そんなことでイヴァンの熱い思いは止まらない。


褒章の式典の後に海軍の総大将であるフレデリック・アーチボルトをつかまえて、思いの丈をぶつけた。軍人ならばこの気持ちがわかるのではないかと。

「なるほど、そのような女性兵が…。あの日、司令船に乗っていたならば、生きていれば今日の式典にも参加しているはず。探されてみては?私は用事があるのでお手伝いできませんが…。」

「ありがとうございます!」

彼はそそくさと会場を後にした。この男にすっかり騙されていたことを知るのはようやく見つけた彼女の正体を知った時だ。


彼女を見つけたのは数か月後の別の式典だった。なんでも、行方不明だった王子が見つかったとかで、ブルテンでは再び式典が行われ、イヴァンも招待されたのだ。

しかし、この式典に招待されていたのは貴族ばかりで、軍人はほとんどいなかった。

外れだったか、と式典会場をでて歩いていると長い茶髪をポニーテールにし、細身の体に軍服をまとう人物を見つけた。

…あれは、女性か?


ブルテンといえど、女性兵がレアな存在であることはイヴァンもこの数カ月で把握していた。胸の高鳴りを抑えつつ、その女性兵のもとへと近づく。
その美しい横顔。記憶にある顔に間違いはなかった。

「やっと見つけた……!!!!」

イヴァンの言葉に女性兵は驚いて振り返る。その左頬に傷はないように見えた。確認のためにずんずんと近づいていく。

「左頬に傷がないのか?道理で見つからないはずだ!」

イヴァンは彼女を探すとき、左頬に傷があるはずだと説明した。彼女の傷が完全に消えていたなら、そんな女性兵はいないだろう。

ブルテン語で彼女に話しかけると、ようやく彼女はイヴァンを思い出したようで、「ああ」と左頬を抑えた。忘れられていたことが悔しい。

「お名前を伺っても?」

「エリザベス・アーチボルトと申します。」

「もしや、フレデリック・アーチボルト大将は…。」

「兄です。」

当然彼は、妹が司令船に乗っていたことも、頬を怪我していたことも知っていたはずだ。知っていて、イヴァンから彼女を隠していたのだ。…軍人のくせに、食えない奴だ。

しかし、ようやく彼女に会えたのだ。今こそ、彼女に愛を伝えるときだ。


「エリザベス嬢。強き戦士でもあるあなたにお話があるのです。」

「はあ。」

「あの日、あなたに切られて私は恋をしました。」

「はい???」

イヴァンは帝国流にその場に膝をついた。本当は花束も欲しいのだが、贅沢は言えない。

「あの日からあなたを忘れた日は一日もありません。あなたを想うことで辛い治療に耐え、こうして、帝国で反乱を起こしてここまで逢いに来てしまいました。どうかあなたの愛を乞うことを…。」

その時、イヴァンの前にだけ突風がおこり、イヴァンは言葉の途中でしりもちをついた。その隙にイヴァンと彼女の間に白髪の男が割り込んできた。

その顔には見覚えがあった。


そして、イヴァンの中ですべてがつながった。


「お前、知ってるぞ?式典で褒章を賜っていたな?そこで求婚していたろう?その時の相手が…そうか!俺が先に目をつけていたんだぞ!!」

そう、そういうことだ。俺が探していたのはアーチボルト嫡流の娘。元敵国に国防の要を担う家の娘を渡せるはずがない。対応に困っていたところで、この男が彼女に求婚した。
アーチボルト大将は、彼女が求婚されることを俺に気づかせないように俺の目をそのことからそらしたのだ。

「何言ってるんだよ、お前。」

「俺の方が先に彼女に求婚しようと思っていたんだ!!」

先をこされて奪われた。この男に。


いつの間にか騒ぎになっていたらしく、宰相の息子が訪れた。

「イヴァン皇子、どうされたのです?」

「お前たち、俺から彼女を隠していただろう!それで、こいつと彼女が婚約することに許可を出したわけだ!随分とコケにしてくれたじゃないか!」

「我々も、マクシミリアン皇帝も、あなたが意中の女性を探すことは止めませんでしたが、協力するとは言っていません。我々の国の事情を最優先にさせてもらうと。」

「俺はまだ戦争を続けたっていいんだぞ!」

頭に血が上ったイヴァンはその場でまくしたてる。考えてもいなかったことだが、それがいい気がしてきた。帝国に戻り、支持者を募り、この国を攻め落とす。そうして彼女を奪い返すわけだ。


イヴァンの血を沈めたのは突然聞こえてきた帝国語だった。

「お前は好きな女を脅して従わせようとするんだな?」

驚いて振り返ると、話していたのは憎い白髪の男だ。その腕をしがみつくようにつかむ、青ざめた彼女の顔も見える。

「俺だったら彼女に好きになってもらうために頑張るけれど。」

湧き上がっていた怒りがすんと引いていく。

「そんなんじゃ俺より先に求婚していたとしても受け入れられることはないだろうな。彼女をなめるな。」

男は彼女の手を引いて去って行く。

そうだ。イヴァンは戦争を続けていても彼女は戦い続けるだけで手に入らないと思って反乱に参加したのだ。その屈しない姿勢にも惚れたのだ。

なのに今、権力にものを言わせて奪い取ろうとした。


自分は彼女に求婚する資格はないのかもしれない。

イヴァンは過去にないほど落ち込んだ。兄のマクシミリアンが見れば変な薬でもきめたのかと驚いたことだろう。



しかし、のろのろと舞踏会への準備をしている間に彼の気持ちは上を向いた。


いや、彼女に謝罪してもう一度思いを伝えよう。さっきは花束もなかったし、途中で遮られた。簡単に諦められるほど、安い思いではない。


イヴァンはこの後、真っ赤なバラの花束を持って舞踏会場にいるエリザベスのもとに再び現れる。

女神と見まごう彼女の横で、白髪の男が舌打ちをしていた。


「あんなに落ち込ませたのにもう復活したのかよ。しぶとい男だな。」


女神が彼に微笑む日は来るのか…。


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