2 / 115
2 三の君、弟においていかれる
しおりを挟む
「ありがとうございました!」
双子の兄弟、満と垂は稽古を終えて道場を後にした。
二人は異人の母を持ついわゆるハーフで、ダークレッドの髪と整った目鼻立ちは城下では目立つのだが、九条家の双子は生まれも育ちも城下の有名人でありもはや気に留める人もいない。
「やっぱり兄上は強いなあ!」
優し気な雰囲気の弟の垂はのんびりした口調で兄の満に話しかけた。
「俺たちの実力はほぼ五分五分じゃないか。」
「いや、兄上は動きにスキがなくてかっこいい!僕はどんくさいからさ。」
「どんくさくても五分なんだから、下手したらお前の方が強いかも。」
垂はまさか、と手をふって否定するが、満はマジで言っていた。
「そういえば兄上は父上に言われた件はどうされるんですか?」
満がギクッと肩をすくめた。父上に言われた件とは、16歳になったら仕事を始めて九条家に金をいれろ、というものである。
十二分に裕福であるにも関わらず、九条家の子供たちはみな何かしらの仕事についていた。
従姉妹の一の姫も女だてらに城で近衛兵として働いており、九条邸には帰ってこない。
「いろいろ考えているところだ。」
「兄上なら官吏も近衛もござれですもんね!」
とりあえずごまかそう。
「垂は?」
「僕ですか!?」
垂は待ってましたとばかりに声を張り上げ始めた。
こういう時、垂にとってはとてもいいニュースなのだが、満にとっては悲報である可能性が高い。経験上。
「僕はですね、異国に留学します!」
「え?」
「母上に相談したら、グランパに進言してくださって、留学の手配をしてくださったんです!」
留学だって…?仕事じゃないじゃないか…いやそうじゃなくて。
「いつから?」
マヌケな声になってしまったが、垂は全く気にしていないようだ。
「来年の春に向こうに渡ります!」
そこから垂は楽しそうに留学準備について話し出した。
実は国からも誰か留学に出したいと思っていたらしいとか、大使と一緒に行くとか、そういう細かい話もしていたが、満はほとんど聞いていなかった。
双子の弟の垂が、自分と同じように育ってきた垂が、いつの間にか夢を持ち、さらに夢に向かって前進している。
方や、自分は?自分は何をやりたい?
満の目の前には何もなかった。
ーーーー
「ただいま戻りました!」
満は門をくぐって早々に異変に気付いた。小さな従兄弟たちが庭で遊んでいないのだ。
「あー!三兄と四兄だー!」
元気な八の姫・八重が縁側から飛び出して、そのまま満に抱き着いた。
「八重、だれか来てるの?」
「おじい様が、にのこつれてきた。」
「にのこ?」
屋敷の奥から七の君と九の姫に引っ張られて同い年くらいの少女が出てきた。
灰色にも見える薄い黒髪を背に流し、灰色に見える瞳でこちらを観察するように眺める。
多くの巫覡が持つ、霊視のできる瞳だ。
ー垂の好きそうな美少女だ。
そう思って横目で垂を見るとぽーっとした表情で少女を見つめていた。
双子の兄弟、満と垂は稽古を終えて道場を後にした。
二人は異人の母を持ついわゆるハーフで、ダークレッドの髪と整った目鼻立ちは城下では目立つのだが、九条家の双子は生まれも育ちも城下の有名人でありもはや気に留める人もいない。
「やっぱり兄上は強いなあ!」
優し気な雰囲気の弟の垂はのんびりした口調で兄の満に話しかけた。
「俺たちの実力はほぼ五分五分じゃないか。」
「いや、兄上は動きにスキがなくてかっこいい!僕はどんくさいからさ。」
「どんくさくても五分なんだから、下手したらお前の方が強いかも。」
垂はまさか、と手をふって否定するが、満はマジで言っていた。
「そういえば兄上は父上に言われた件はどうされるんですか?」
満がギクッと肩をすくめた。父上に言われた件とは、16歳になったら仕事を始めて九条家に金をいれろ、というものである。
十二分に裕福であるにも関わらず、九条家の子供たちはみな何かしらの仕事についていた。
従姉妹の一の姫も女だてらに城で近衛兵として働いており、九条邸には帰ってこない。
「いろいろ考えているところだ。」
「兄上なら官吏も近衛もござれですもんね!」
とりあえずごまかそう。
「垂は?」
「僕ですか!?」
垂は待ってましたとばかりに声を張り上げ始めた。
こういう時、垂にとってはとてもいいニュースなのだが、満にとっては悲報である可能性が高い。経験上。
「僕はですね、異国に留学します!」
「え?」
「母上に相談したら、グランパに進言してくださって、留学の手配をしてくださったんです!」
留学だって…?仕事じゃないじゃないか…いやそうじゃなくて。
「いつから?」
マヌケな声になってしまったが、垂は全く気にしていないようだ。
「来年の春に向こうに渡ります!」
そこから垂は楽しそうに留学準備について話し出した。
実は国からも誰か留学に出したいと思っていたらしいとか、大使と一緒に行くとか、そういう細かい話もしていたが、満はほとんど聞いていなかった。
双子の弟の垂が、自分と同じように育ってきた垂が、いつの間にか夢を持ち、さらに夢に向かって前進している。
方や、自分は?自分は何をやりたい?
満の目の前には何もなかった。
ーーーー
「ただいま戻りました!」
満は門をくぐって早々に異変に気付いた。小さな従兄弟たちが庭で遊んでいないのだ。
「あー!三兄と四兄だー!」
元気な八の姫・八重が縁側から飛び出して、そのまま満に抱き着いた。
「八重、だれか来てるの?」
「おじい様が、にのこつれてきた。」
「にのこ?」
屋敷の奥から七の君と九の姫に引っ張られて同い年くらいの少女が出てきた。
灰色にも見える薄い黒髪を背に流し、灰色に見える瞳でこちらを観察するように眺める。
多くの巫覡が持つ、霊視のできる瞳だ。
ー垂の好きそうな美少女だ。
そう思って横目で垂を見るとぽーっとした表情で少女を見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
逢生ありす
ファンタジー
女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――?
――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語――
『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』
五大国から成る異世界の王と
たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー
――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。
この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。
――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして……
その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない――
出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは?
最後に待つのは幸せか、残酷な運命か――
そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる